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2009年7月12日 (日)

神田慶一 青いサカナ団 創立20周年記念コンサート 7/11

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この日は、実のところ、こちらのコンサートこそが「メイン」でした。神田慶一主宰の「国立オペラカンパニー 青いサカナ団」の20周年を祝うコンサート。ちなみに、「こくりつ」ではなく、「くにたち」です。実のところ、始まる前は、金沢で実入りのいい仕事が入ったため、手抜きの公演を組んだと馬鹿にしていたのですが、とんでもなかったですね。始まりから終わりまで、ずっとシクシクやっていました。感動すると、私はすぐに泣いてしまうのです。でも、実に3時間を越える公演なんです。映画「マディソン郡の橋」の最後、15分くらい泣きつづけていたことがあるけれど、それをゆうに越えています。

しかし、それというのも、いつも素朴で、手ごたえのあるメッセージが特徴になっている神田さんのオペラの、感動的なシーンばかりが集まっているのだとしたら、至極、当然のことだったのかもしれません。いつも、この人の作品をみると思うのですが、神田慶一のオペラは「神田慶一のオペラ」という、1つのジャンルです。細々と・・・しかし、ある日、なにかの間違いでそれに接してしまった人たちの力強い支持を受け、20年の長きにわたって活動が継続し得たということの奇跡を、彼自身がいちばん感じていることでしょう。それを見るための公演だったのかもしれません。

思い返せば、私がこの大いなる「夢」にはじめて出会ったのは、実は、オペラ公演ではありませんでした。彼らが15周年を祝うため、それまで縁の下で頑張りつづけた管弦楽団を舞台に上げて演奏した記念のコンサートが、それだったのです。以来、サカナ団の公演は、ほぼ欠かさないで観てきました。そのうち、神田さん自身の作品は3つでした。

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ですから、最後の「僕は夢を見た・・・」を除き、前半は、私のみたことがない作品がつづきます。本来、この試みはかなり冒険的なのだと思います。各曲の演奏前に神田さんがコメントをつけるとしても、サカナ団をずっと贔屓にしてきた人しか知らないような作品だけで、ガラ・コンを組むなんていうのは、ほとんどあり得ない発想なのですから。

ただ、実は前例がありまして、それは2006年におこなわれた「日本オペラ絵巻」というコンサートです。この日の会場の大ホールを舞台に、神田さんが指揮を振って大成功を収めています。そこで取り扱われた作品は、神田さんよりは、かなり名の通った作曲家(黛敏郎、林光、團伊玖磨など)のものを含んでいますが、それでも、一般にはほとんど知られていない作品ばかりでした。それなのに、実際の演奏を聴いて受ける感動は、よく知られた作品を聴いたときとさほど変わらなかったのです。

今回のガラも、結局のところ、「神田慶一のオペラ」が好きで集まっている人ばかりなのですし、彼の作品の個性は、初期からさほど大胆には変わっていないと思われますから、独特のデクラメーションを味わいながら、一生懸命に演じ、歌う役者たちの姿をみて、感じるものがないわけはないのでした。例えば、いちばん最初の「銀河鉄道」からの抜粋では、ジョヴァンニとカンパネルラの愛らしい関係を掴むのに苦労はしませんし、星座のはなしを織り込みながら叙情的に進んでいく歌の世界は、聴き手のこころをさっそくきれいに洗い清めてくれるのです。

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そこは、「銀河鉄道」という夢の世界。だが、カンパネルラは降りていく。神田のつくる「夢」のなかでは、王様(女王様)、英雄(ヒロイン)、人気者、権力者・・・いろいろなものに変身し、周りからも持ち上げられるけれど、その悦楽にいつか疑問を感じて、結局は、「夢」と別れていきます。この別れの美しさというのも、神田作品の著しい特長です。そして、たとえ苦しくても、夢から覚め、現実の世界で生ききることが大事と歌う世界観は、どの作品にも共通する特徴なのでした。

神田の「夢」は、眠りながらみる夢と、将来へ向かっていく夢が、故意にまぜられています。起きているのか眠っているのか、夢かうつつか、あるいは、自分はどうなっていくのか、幸せになるのか不幸になるのか、希望をもてるのかもてないのか・・・そうした狭間に不思議が忍び込んできます。

夢という言葉を、嫌う人はほとんどいません。そこには不思議な魔法があり、神田慶一は、それを操る魔術師なのです。しかし、夢は、成熟とともに廃れていきますね。それなのに、神田さんという人のなかでは、その自然な「熟成」がないようなのです。神田さんは、「アリス!」を書いたときに、少女アリスの心情を理解できないことで苦しんだと書いていますが、そのときの悔しさは、神田さんの作品のなかに、いつでも巣を作っているのかもしれません。

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聖者は、街に来た。でも、誰もみたことがなく、祈りも届かない・・・という「東京アラビアン・ナイト」の一場面も印象的です。おまえは本当に聖者なのか。聖者だったら、街はもっと良くなっているはずだと詰る「コラール」に対して、聖者は「間に合わないから祈るのだ」と反論します。これに象徴されるように、ある時期までの神田さんは、答えがない、救いがないということをポジティヴに捉え、エネルギーにしていたようなフシがあります。

それは「僕は夢をみた、こんな満開の桜の樹の下で」において、集大成を迎えたのかもしれません。主人公のジローは、幻影のサクラを殺すことで現実に戻ることができますが、そこでは強盗殺人犯という過酷な運命が待っています。ジローは自らの運命を取り戻したと同時に、「サクラ、サクラ!」と叫んで狂気に陥り、幻想に跪かざるを得ないのです。何でも得ることができる夢のなかで、何がほしいかわからないというジローの叫びは、多くの人たちの共感を買うでしょう。実際、私がジローの立場だったら、なにを求めるでしょうか。もしかしたら、「神田慶一のオペラ」かもしれません!

今回、ヒロインであるサクラは、飯田みち代さんが歌われました。初演は菊地美奈さん、再演は並河寿美さんで、私はかつて並河さんの歌に接しましたが、飯田さんのサクラはまた、ひときわリリカルでありながら、どこか整然としています。2006年の公演では、樋口達哉さんがジローを歌い、最後の場面は突き抜けた表現が見事だったのですが、初演も務めた所谷直生さんは、もっとしっかりフォルムを歌って、真っすぐなキャラクターを演じています。この2人でいくと、最後の破綻は、より強いられたものという感じがします。

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しかし、神田さんの作品は、決して暗闇に沈んでいくようなものだけで、構成されることはないのです。それは例えば、「アリス!」のハンプティ・ダンプティの横柄で、ユーモアのあるアリアや、同じく、アリスの「かわいそうなカエルさん」のファニーな歌に表れています。「1983」の大人+子ども2人による歌「サーカスの団長になりたい」も、素朴で、こころが温まるものでしょう。

これらの要素は、よりちかい時代の作品において、以前よりも、はっきり前向きなメッセージとして作品に織り込まれます。それは、プログラムの最後に置かれた「アゲハの恋」と「あさくさ天使」において顕著です。「アゲハ」では、ケンジを守って蝶の姿に戻り、いなくなってしまったアゲハの帰還を信じたケンジの透きとおった唄が、上演から2年を経たいまでも、印象的に響くことを証明しました。秋谷さんは当時よりも鋭い歌いくちで、堂々としていらっしゃいます。

初演でアゲハを演じた角野圭奈子さんもアリアを歌いましたが、かつてより想いが熟成しているように感じられ、彼女のなかで、この作品が大事な財産になっているのを感じられたことは嬉しかったです。秋谷さんも当時よりステイタスが上がっているけれど、もっともっと人気を高められて、ソロのリサイタルで「アゲハの唄」でも歌ってくれるようになったら最高です!

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最後に歌った「あさくさ天使」は、例の「日本オペラ絵巻」でもトリを飾ったのですが、わが国の歴代の大作曲家たちの作品に比して、まったくヒケをとらなかったですね。このフィナーレは、本当に「ヤバイ」です。言葉も、音楽も、随所にこころに引っ掛かる場所があって、いつも「泣きっ面に蜂」状態になります。今回、当時の舞台に参加した地元の合唱隊も参加され、一生懸命に歌っておられて、そこに不思議な実感がこもっていらっしゃる。

歌詞には、「たった50年前の物語」「遠い昔のはなし」というアンヴィヴァレンツな言葉が並んでいるのですが、これが面白いのです。神田はここで、一種の「ノスタルジー」を描いているのだと思われるかもしれないですね。確かに、「遠い昔のはなし」としてみれば、そうなんですよ。でも、「たった50年前の物語」というほうをとれば、いまのはなしになるのです。いまでも、この唄をうたえば、この街は輝くというような歌詞があったはずです。

観客たちは笑い、ときには涙を流し、目を輝かせながら、舞台に釘付けになっていたと歌われます。クローゼットにしまい込んでいた、そうした記憶を開いてみようと、ユメコは言葉を投げかけます。この街の天使たちは、笑いが好きなのだ・・・と。かつての神田であれば、こんな前向きなメッセージを組めたかどうかわかりません。しかし、2004年、彼は確かに、そんな世界に踏み込むことができたのです。見てきたように言っていますが、この公演は私がサカナ団のファンになる前なので、見逃しています。まことに残念でなりません。

今回、昨年の「マーマレイドタウン・・・」のヒロインを歌った森美代子さんが、ユメコ役を歌いました。オペラ絵巻のときの並河さんの歌が衝撃的だったから、そこまでは及びませんが、森さんもひとつひとつ言葉を確かめるような歌いくちで素敵でした。

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ガラは、前半が場景的なものであったのに対して、後半は、アリアや重唱が中心となりました。歌手の声が十分に楽しめる後半戦は、ここに出演した歌手たちのプロ精神を競うかのようでした。はじめて歌った飯田さんの「クローンのジュリエット・・・」のアリアや、先に述べた森さんの「あさくさ天使」もさすがだったけれど、オリジナル・キャストたちの進境には息を呑みました。

特に、昨年の公演で月日の経過も少ない「マーマレイド・タウンとパールの森」の、秋谷&森による二重唱「終わりの浜にて」の完成度は素晴らしかったと思います。あそこでケータイのことを歌っているとは、作品をみていない人はわからないかもしれないけれど、当時の上演では、すこしわかりにくい場面だったのが、この日の断片演奏で、ようやくにして魂が入った感じがしました。そうすると、作品に占めるこの部分の美しさというのが、いよいよ際立ってきます。

やはり、オペラというのは、何度もやってこそ価値が深まってくるものなのです。

ところで、今回、田代誠さんがクレジットされているのに驚いた人もいるのではないでしょうか。彼は大病をして、回復されたようですが、2月ごろまで入院していたという情報があります。神田さんがかつて、しばしば共演していた本田美奈子さんとなかなか再共演の機会がないまま、先年、彼女が惜しくも亡くなられたのを教訓に、田代さん(彼が亡くなるということはないでしょうが)との縁を大事にしたいと思ったのかもしれません。

初演でも歌った「あさくさ天使」のオヤジの唄は、そんな田代さんから、我々へのこころのこもったプレゼントでしたね。何でも便利になっていく一方で、ひとの温もりや、その繋がりが失われていくのではないかと嘆くオヤジの唄は、病床にあった彼にとって、また格別に感じられたのかもしれません。この唄は江戸っ子独特の調子がデクラメーションに乗っていて、とても味わい深いものだと思います。

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いろいろと書きたいことがあるのですが、サカナ団の公演では、いつも全部は書けないのです。感じるものが多すぎるからです。もしも、間違ってこのレビューを読んでくれる人があったら、だまされたと思って、「青いサカナ団」の公演に足を運んでほしいですね。きっと、何か引っ掛かるものがあるはずですから。

それに、ここでおこなわれている神田さんの行動は、もっとたくさんの音楽仲間に受け容れられ、受け継がれていく必要があるからです。「祭りの唄がきこえる」であれこれと考えずに、始めてみようと訴える明るい三重唱は、誰にでも勇気を与えると思いますが、神田さんがそのメッセージを真っ先に伝えたいのは、世にいる若い音楽家たちに対してだと思うのです。彼らがもっと夢をみれば、サカナ団のような素敵なカンパニーがすこしは増えるかもしれない。そうすれば、この街にも・・・。

さて、8月の子どもオペラもみたい気持ちはあるのだけれど、金沢まで足を運べるかどうか、大いに不安があります。そのあとは12月、新作「輝きの果て」の上演が予告されて印さウ。同団の「トリスタンとイゾルデ」で主要役を演じた、田代誠&飯田みち代のコンビで幕が開きます!

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コメント

金沢の「終わらない夏の王国」よかったですよ。
最初は「ヘンゼルとグレーテル」にジュニアオペラスクールの少人数先鋭の子供たちを出演させる予定だったのが神田版「ヘンゼル」としてほぼ全員出演させることになったらしいです。
夏休み初日、現代の鬱屈した親子関係から脱出して不思議な館へ誘い込まれる子供たち、代役として家に置かれた人形を自分の子供と信じたままの親・・・
詳しい内容はOEKの応援ブログなどで書いてあります。個人的には主人公の一人零がNHKで放送しているアニメ「電脳コイル」のイサコみたいな・・・^^;

神田らしい作品になったみたいですね。素晴らしい公演となって、よかったです。金沢の子たちに東京に来てもらって、再演してもらいたいぐらいですが・・・。

『電脳コイル』はみたことがないのでわかりませんが、いろいろ賞を受けていますね。いまやっている『獣の奏者 エリン』なんていうのも評判なようですし、NHKはたまにいいアニメを制作します。

コメント、ありがとうございました。

ちなみに、「アンサンブル」は’ensenble’だと思いますので、団のアルファベット略号は’OEK’になるはずです。上のコメントに訂正を入れておきますので、ご了承ください。

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