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2009年8月 6日 (木)

広上淳一 メンデルスゾーン 「イタリア」交響曲 日フィル フェスタサマーミューザ川崎 8/5

7月28日につづき、フェスタサマーミューザ川崎に足を運んだ。この日は、日本フィルを広上淳一が指揮する。メモリアル/アニヴァーサリー・イヤーに当たるハイドンとメンデルスゾーンに加え、バッハを取り上げるプログラムであった。

【広上絶賛のガーデンプレスクワイヤ】

最初のハイドン『テ・デウム(ハ長調)』は、合唱にアマチュアのガーデンプレイスクワイヤを招いての演奏である。この合唱団は恵比寿ガーデンプレイスにある麦酒記念館を中心に活動しており、創立から13年、35回の演奏会を重ねている団体であるということだ。レパートリーはバッハなど古典派以前の声楽曲が中心で、古楽・宗教曲に詳しい中島良史が指導している。実は以前から興味をもっていたものの、これまで聴く機会はなかった。その団体が、プロオケの舞台に立つというのはすこし驚きでもあったのである。

プレトークでは、広上がイギリスの合唱団のようで、ヴィブラートのないきれいな声だと激賞していたが、実際に聴いてみると、なるほど、こうしたレパートリーにおいては申し分のない歌唱の技術を誇っており、アマチュアとはいえ、清楚な発声をよく鍛えられているようだ(ヴォイストレーナーは宇野徹哉)。伸びやかで明るめの歌声が特長で、それが、もともとは聖職者が歌ったというデ・デウムに相応しいのかわからないが、とりあえず響きは美しかった。

合唱は理想的には子どもっぽくなく、若すぎず、適度にアダルトで、もちろん、老けすぎないものがいいと思うのだが、この合唱団はすこし若いかもしれない。仮に3−40代くらいの声が理想とすれば、20代前半〜中盤の声がするのだ。ところが、オケのほうはさらに若くて、どう贔屓目にみてもハイ・ティーンより上ではないという感じであるから、この曲ではプロよりもガーデンプレイスクワイヤのほうに、はるかに分があった。オケ側については、ブリュッヘン&NJPのシリーズを聴いているだけに、あれと同じである必要はないのだが、それでもハイドンの様式に潜んでいるはずの、何らかのオリジナリティが感じられないことは不満で、ノン・ヴィブラート・ベースにも自然さが足りないように思われた。

ガーデンプレイスクワイヤは、正直なところ、もうすこし聴いてみないと、良い合唱団だと太鼓判を押すわけにはいかないが、少なくとも、機会を改めて聴いてみたいと思わせるようなパフォーマンスではあったとしておきたい。

【日本フィルに足りないものを埋めていくプロ】

さて、ここで演奏会全体についてみてみると、今回の演奏曲目は日フィルに足りないものを埋めていくようなプログラムでもあったと思う。最初のハイドンでは、古楽的なアプローチや柔軟性、2番目の『ブランデンブルク協奏曲第5番』では、室内楽的なアプローチとアンサンブルの自立性、そして、最後の「イタリア」交響曲では、それらの混合という具合である。

そのブランデンブルク協奏曲は、もちろん、第1ヴァイオリンで2プルトのみの小編成で演奏した。ソリストは、チェンバロが曽根麻矢子、ヴァイオリンが当団コンマスの江口有香、フルートが高木綾子というメンツである。失礼ながら、日フィルのバッハということで、全曲のなかでいちばん聴きぐるしい感じになるのではないかと心配していたが、さすがに(弦プルトの)前のほうを集めているだけに、アンサンブルにも積極性があり、まろやかで、自然な響きを聴かせ、意外なことに、ハイドンよりもはるかにいい演奏になっていた。

広上はソリストたちを自分よりも舞台手前に立たせ、彼らにはほとんど好き勝手にやらせて、伴奏の面倒だけをみることにしていたようだ。前の3人は室内楽的にやるものと思っていたが、アイ・コンタクトなどはなく、思ったよりもまとまってはいるものの、やや安全運転な印象は拭えなかった。もちろん、合わせものへの定評がある広上だけに、そのサポートはジェントルで、柔らかいものだった。

3人のソリストでは、高木のフルートの音色があまりにゆたかで、艶がありすぎたため、もっと素朴な表現に徹してほしかったと思う。バッハの時代にはフラウト・トラヴェルソが使われていたことを考えれば、高木の演奏の問題点は明らかだ。曽根はいささか饒舌だが、表現の根もとには十分な品があって素敵な演奏で、一方、江口は弦パートの独奏者としてだけではなく、金管や木管の音色を真似るなどの役割まで巧みにこなしており、ときどきレガートが少しきついのを除けば、非常にいい演奏であった。

【イタリアは直球勝負!】

メインとなるメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」は、かなりガツガツした演奏である。とはいっても、雑なのではないし、不思議と不自然な感じもしない。冒頭和音をドスンと打ちつけ、この曲としてはかなり重みを持たせた演奏を展開したが、この曲に独特の跳躍感が失われるわけでも、遅鈍になるということもなく、音楽の切れ味は十分なのである。ただし、例えばマズアが本当に気持ちよく紡ぎ出すような気品に代わって、より野生的なものが浮かび上がっているというちがいはある。

第1楽章では対位法的な構造があらわになる部分で、この日の前半2曲の演奏がよく効いている。第2楽章は、「ブランデンブルク協奏曲」のところで培ったような室内楽的な響きが、うまく生かされているようで、いつもより、全体のアンサンブルが近いような気がして、響きがゆたかである。

舞踊楽章は、いわゆる「広上ダンス」が曲そのものを表現するかのようで小気味いいのだが、日フィルとの関係も深い広上は、相手の特徴がわかっているので、お得意のダンスもいつもより2割増という感じでサーヴィスし、こうなると、さしもの日フィルもよく動くようである。トリオはホルンも頑張っているが、そのあとにつけるトランペットの音色が爽やかでいい。弦の最強奏部分では、左側に振った広上の両手に、貴婦人が身体を預けたように自然な重みがかかり、素敵な雰囲気が漂った。

プレストはテンポそのものは遅めで、しかし、弦や管のトレモロに気合いを込めて、速さを感じさせる仕掛けであった。そのアイディア自体はよかったが、あまりに必死なのが見え見えなので、仕掛けが丸見えの手品のようで芸がない。これはオケの問題である。とはいえ、しっかりとテンポがキープされることで、厳かな旋律の流れだけにこころを奪われることなく、最初の楽章から引き継がれた主題が丁寧に浮かび上がり、対位法的な構造の特徴もわかりやすい。また、第1楽章でガツンとした重みをもたせたことは、この楽章との対応関係では妥当なようにも思える。

【サルタレロについて、まとめ】

ところで、この第4楽章には、「サルタレロ」というイタリアの舞踊の形式が指定されている。このサルタレロで思い出すのは、先日、カリニャーニがレスピーギ『ローマ三部作』を振ったときの演奏だ。あそこで披露したサルタレロの生々しい動きは、演奏全体の出来の悪さに対して、あまりにも見事なものだったこともあり、私の身体にしっかと刻み込まれている。だが、ああしたサルタレロをメンデルスゾーンの交響曲で、究極的に実現した演奏は聴いたことがなく、この日の広上とて例外ではない。もちろん、レスピーギとメンデルスゾーンはちがうわけだが、「サルタレロ」と指定したメンデルスゾーンの意図を、誰がいちばん重くみているのか、いろいろ聞き比べたい衝動にも襲われた。

それはともかく、広上という優れた船頭を得たことで、日フィルの今日の演奏は、不得意分野ながら、なかなか質のいいものとして仕上がったように思われる。今回、広上が示してくれたような課題を丁寧にこなしていけば、日フィルもまだまだ間に合うと思うのである。

広上のプログラミングは、表面上、記念年に当たる作曲家の作品を集めたにすぎないが、古典派のハイドン、バッハ蘇演に功のあったメンデルゾーンを「バッハ」というキーワードで結んでいる。さらに、このオケの成長に必要な要素をうまく拾い集めながら、まるで前半を糧にして後半の演奏が出来上がるような形でもって、上手に組み上げている。それなのに、最初のハイドン以外は、よく聴衆に知られた曲でもあるという凝りようである。

演奏がいいだけではなく、こうした視野のひろい広上の見識はいかにも得がたい。労働争議がもとでコロンバス響からは追い出されてしまったが、現時点で彼がシェフを務める京都市響も、いつか聴いてみたくなった演奏会であった。

【プログラム】 2009年8月5日

1、ハイドン テ・デウム ハ長調
 (chor:ガーデンプレイスクワイヤ)
2、バッハ ブランデンブルク協奏曲第5番
 (cemb:曽根 麻矢子、vn:江口 有香、fl:高木 綾子)
3、メンデルスゾーン 交響曲第4番「イタリア」

 コンサートマスター:江口 有香

 於:ミューザ川崎シンフォニーホール

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