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2009年10月26日 (月)

スメタナ ダリボル 日本初演 オパヴァ シレジア劇場 10/25

チェコ北東部シレジア地方の都市、オパヴァからシレジア劇場の公演がはるばるやってきました。同劇場の音楽監督、ヤン・スニーチルの内儀、中島晶子女史の尽力により、現地で上演にこぎつけた日本のオペラ『夕鶴』を携えての来日は、ビロード革命20周年記念として、チェコ文化庁とモラヴィアシレジア州の助成を受け、中島女史の関係するNPO「はるもにえ」ほかの主催により、地方都市5ヶ所をまわる予定になっています。

そのほか、スメタナの名品『ダリボル』の公演が所沢で、ガラ公演が武蔵野市民文化会館で1公演ずつ組まれています。各公演では地元のアマチュア合唱団(児童合唱団)が加わるなど、ユニークな公演形態ですが、そのなかの『ダリボル』の公演を観てきました。私にとっては、『リブシェ』と並んでスメタナの舞台作品のなかでも特に好きな作品ですが、当夜が日本初演ですから、もちろん実際の舞台を目にするのは初めてです。

作品は、政争から自らの兄を殺した騎士、ダリボルを国王に訴えて捕えさせ、裁判にかけた女、ミラダが、こともあろうに、その男に惚れ込んでしまい、身を賭して救出しようとするものの失敗し、もろともに死んでしまう物語が素材となっています。女が男装して救出を図ろうとするあたりは『フィデリオ』に似ていますが、憎しみあうはずの男女が愛しあうことになったり、マルケ王を思わせる仁王が出てくるほか、キャストの構成などを考え合わせてみると、『トリスタンとイゾルデ』の要素も大いに混ざっているし、外題役の神々しさは『ローエングリン』、ほかに、ヴェルディの『マクベス』『ドン・カルロ』『シチリア島の夕べの祈り』など、多様な先行作品の投影がみえますし、ヒロインのミラダ役には、ジャンヌ・ダルクのイメージを見て取ることもできます。

しかし、音楽自体は、それまでのどの作品にも似ていないスメタナ節が全開となっており、登場人物の内面に寄り添った繊細な音楽がついています。

【オパヴァ シレジア劇場の印象】

私は本来、東欧やロシア圏のオペラ・ハウスなどが出稼ぎ的におこなう日本公演には、あまり興味を示しません。しかし、今回はすこし毛色がちがうように感じていました。予想どおり、歌手もオーケストラも一流とはいえない・・・どころか、率直にいって三流なのですが、かといって、うまい/下手だけが、劇の良し悪しを決めることにはならないのも、またオペラの面白さです。今回のカンパニーは多分、自分たちの弱点をよくわかった上で、それをうまくカヴァーするような舞台づくりを工夫しています。

リソースがないならば諦めるという考え方もありますが、この劇場は、限られたりソースをいかにして使うか、あるいは、思うようなリソースがないなかで、どうやったらいい公演になるか、ということにこころを砕いているのではないでしょうか。確かに、主要キャストは第1幕をかなりセーブして歌っていたので、序盤は総じて物足りなかった面もあります。第1ヴァイオリンで3プルトしかない小編成のオーケストラは意外にパワーがあるものの、木管の音程は安定しないし、コンマスのソロもヘロヘロで、聞き苦しい点が少ないとはいえません。それにも関わらず、よく準備された公演であるという印象を受けたのです。

指揮のヤン・スニーチンは、ヴァーツラフ・ノイマンやクールト・マズア、それに、ラドミル・エリシュカの薫陶も受けているようですが、なかなか優れた統率力の持ち主です。特に、肉厚な響きで劇を守り立てるときの迫力は明らかに劇場向きという感じであって、推進力があります。今回、この指揮者がグイグイ引っ張ることで、ぎりぎり間がもっている部分が大いにありました。オーケストラはムラがありますが、興に乗ってくると、かなり濃厚な演奏を展開してくれます。弦と金管に定評のあるチェコのオーケストラの特徴は、この楽団にも顕著に表れており、それに比べると、木管は艶のない響きが目立ちます。よく言えば、素朴で、飾らない響きと申しましょうか・・・。

【第1幕-第2幕】

第1幕は、そんなオーケストラの独壇場です。序奏からしばらく断続的にみられたバラツキは聴き手を心配させたでしょうが、シーンを追うごとに、徐々に響きがまとまっていきます。国王を迎えるラッパの吹奏では、2人のトランペット吹きが舞台上手に現れ、立体的な響きを構成するのが効果的。ダリボル登場のシーンでは、ミラダの驚きを象徴するようなゴージャスな響き。さらに、彼の歌いだしでは型どおりのレチタティーボの伴奏から、この男の英雄性が一挙に立ち上がっていきます。

ここでダリボル役のテノール、ミハル・パヴェル・ヴォイタについて触れると、声の中心にある芯だけがすっと伸びていくストレートな声質で、広がりはないのですが、表現力もそれなりに備えた、計算できる歌い手であるといえます。彼の歌うダリボルは、ほとんどナイーヴなところがなく、真っすぐに生きる生粋の戦士というところ。一方、ミラダ役のテレザ・スルプスカーは典型的なオペラ歌手体型で、やや声が細いものの、ドラマティックな表現を持ち味とするソプラノでした。こちらは、かなりナイーヴな感じに聴こえます。

第2幕は、各場面に工夫が凝らされており、名場面がつづきます。冒頭は、現地で工作に励む娘、イィトゥカと、その旦那でダリボル救出の人員を集めたヴィーテクを囲む1コマ。夫婦の甘い二重唱を中心に、民俗的なコーラスが華々しく繰り広げられるコメディ的な場面。つづいて、牢番のベネシと彼に養われる少年に扮したミラダとの絡み。『フィデリオ』のロッコを思わせるベネシ役ですが、可愛がっていた少年の失踪はベネシをふかく傷つけ、彼を告発の悪魔へと変えるという筋書き上、まことに奥の深い場面となっています。その後、ようやくにして会えたダリボルとミラダのやりとりへとつづき、さほど長くはないのですが、大事な場面が凝縮しているようです。

ミラダ登場の前に、ダリボルに親友・ズデニェクの思い出(夢)を回顧させ、そこに重ねあわせるようにミラダとの結びつきを描いている点も大事だし、ただの色恋沙汰に止まらず、「あの格子を切り取り、自由への扉を開くのです」といったキーワードから導かれるような、よりパヴリックな世界との関係性を匂わせる点も、第3幕を見るうえで、きわめて重要になってきます。

【ベネシとヴラヂスラフの役割】

その第3幕が、本当の見ものではなかったでしょうか。まず、ミラダ扮する少年に裏切られたと知ったベネシの告発シーンがあり、次いで、『トリスタン・・・』のマルケ王の嘆きの場面に対応するようなヴラヂスラフ王のモノローグが現れます。この2つの場面は、作品に見えない奥行きをもたらしています。

まず、ベネシの行動についてみてみます。彼はなぜ、息子とまで言ったミラダからの手紙と金袋を、迷うことなく王に差し出して、彼女たちの陰謀を明らかにしてしまったのでしょうか。その答えはもちろん、第2幕のモノローグにあるわけですが、年老いて家族もない彼にとって、ミラダ扮する少年は生涯で最後の望みになっていたわけです。ところが、少年はベネシを利用して自分たちの目的を達すると、老いた彼を捨てて逃げてしまいました。ベネシはどんな事情であれ、自らの生き甲斐である少年を手放すことは辛かったし、それゆえ少年の裏切りに堪えきれなかったのでしょう。

ここには、ヴェリズモに通ずるようなこころの葛藤が見てとれます。ベネシは、愛するものを訴える。だから、この場面は辛いのです。ほんの端役にみえますが、このベネシ役は作品の本質をついています。ベネシはいわば、ミラダと同じような過ちを犯すのです。愛するものを訴え、殺してしまう。そして、ミランダからみれば、自らが犯したような過ちによって、今度は自分自身が(二重に)報いを受けるという皮肉になっています。

次に、ヴラヂスラフ国王。この王の悲哀な決断のシーンは、先のベネシ牢番の悲壮な告白とセットになって印象的です。彼はマルケ王の惨めさと、『マタイ受難曲』に出てくるピラトの役割を同時に果たします。処刑のむごさをどんなに怖れようと、彼ができることといえば、せいぜいダリボルに名誉ある死を保障するぐらいのことでしかないのです。彼の悩みは実のところ、反転してダリボルに跳ね返っていきます(後述)。

これら二役には、それぞれバスの役が与えられていますが、ベネシはよりナイーヴな役柄であり、国王のほうは、凛とした役柄になっています。今回の公演では、ベネシ役のペトゥル・ショーシがウェットな演技と、瑞々しい歌声で光っていました。一方、王様のアンドレ・シルクは問題の第3幕では素晴らしかったけれども、さほど登場が多いわけでもないことからみると、最初の幕ではセーブしすぎではないかと思いました。

(続きは・・・②へ)

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