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2009年10月 4日 (日)

変革期を迎える日本のオーケストラ

日本の楽団のいくつかに、人事面で動きが出てきているので、まとめて紹介したい。まずは、いちばん、ちかい情報から・・・。

【東京フィルにエッティンガー】

先日、2010年4月より、東京フィルがダン・エッティンガーを常任指揮者として迎えることを発表した。

エッティンガーはまず、新国でまず東京フィルと顔をあわせたが、そのフィーリングの良さからオケのコンサートにも出演し、その後、両方で共演を重ねることになった。楽団にとって「役得」ともいえるこのパターンとしては、他にペーター・シュナイダーや、藤原歌劇団の公演をきっかけに間もなく客演するゼッダの存在があるが、エッティンガーは舞台上のコンサートでは指揮だけに止まらず、ピアノの腕まで披露し、プログラム中に室内楽を入れて団員と音楽をシェアするなど、この楽団を相手に、人並みとはいえない独特の活動を展開していた。今回、このような関係を重くみて、楽団からのオファーを承諾したようである。

2001年以降、東京フィルは鄭明勲を「スペシャル・アーティスティック・アドヴァイザー」という(失礼ながら)宙ぶらりんな位置に迎えて活動をおこなってきたが、一応、楽団の正式な「顔」としてこの若者が迎えられたことで、東京フィル&新星日響の合併という異常事態から脱皮し、一人前のオーケストラとなるための体制が整ってきたことを示す出来事となった。いわば特別職といえる鄭のポストを除外すると、常任指揮者が置かれるのは10年ぶりで、前任者は大野和士である。

エッティンガーは現在、母国のイスラエルでオーケストラを任されており、この9月から、ドイツ・マンハイムの劇場でもポストに就いた。しかし、もっとも重要なのは、バレンボイムの下で黄金期を迎えたベルリン国立歌劇場で、母国を代表する大巨匠のアシスタントを務めて、実力と経験、それに人脈を養ったことである。彼を抜擢したバレンボイムが活動をスカラ座にシフトするにつれて、2008年にはカペルのポストからは離れたが、それ以後も、ベルリンでの出演は途絶えていない。今後、主要劇場での転戦が決まっているようであり、将来を嘱望されるひとりである。

ただ面白いことに、こうした場合は、就任時期と任期が明確にされて発表されるのが通例であるが、ホームページでの記載、会見内容、新聞等記事のどれをみても、任期が書いていない。そのことに加え、常任指揮者としてのコミットの重さを知るためにも、彼がどういった権限を与えられるのか、どれぐらいの出演があるのかは定かでなく(来季プログラムの発表との関係か、一部の出演スケジュールが発表されてはいるものの、それが全部であるかどうかはわからない)、そのような情報が次第に明らかになってくるのを期待したい。

余談ながら、私はこの指揮者の演奏に2回ほど接したことがある。1度目は新国の『イドメネオ』の公演で、完全に満足とはいかなかったが、なかなかの素材であると感じたため、今度は舞台上での演奏に足を運び、『幻想交響曲』を聴いてみた。こちらの印象はより素晴らしかったが、その後、どうしても聞きたいと思わせるほどではなかったのも事実である。しかし、新国では度重なる出演依頼を受け、大事なワーグナー上演まで託されているのだから、それなりの評価があることは間違いない。合唱指揮の三澤洋史も、彼に高い評価を与えているようである。

まだかなり若い指揮者で、なにか特別なものを付け加えてくれる指揮者という感じはしないのだが、今後、プログラミングなどで存在感を発揮してもらいたいと願う。といって、私は東京フィル自体に拭いがたい不信があるので、当分、足を運ばないと決意しているのだけれども・・・。

なお、鄭明勲は、エッティンガーが就任する2010年まで現職をつづけ、退任することになっている。氏は60歳で引退し、その後は家族のために時間を使うことを表明しているので、それから自らの定めた引退時期までの残り数年の間は、もう東京フィルを振ることはないのではないかと推察する(根拠なし)。

【関西フィルにはオーギュスタン・デュメイ】

関西の情報には詳しくないが、聞くところによれば、関西フィルの一人勝ちという評判を聞いているが、その情報は正しいのだろうか。ここのところ、関西の楽壇は、関電の秋山会長(美浜原発問題で大きな批判を浴びながらも、自らは留任した)により提起された「統合案」に揺れたり、昨年の橋下大阪府知事の経費節減で大阪センチュリー響が存続危機に陥るなど、暗いニュースのほうが多かった。しかし、この関西フィルに関しては、デュメイとの関係を深めることで、音楽的な独自性を打ち出してきている。

デュメイは昨年より、既に首席客演指揮者のポストに迎えられており、当楽団の活動に食い込んできていたのだが、2011年1月から音楽監督に進む。任期は5年と長く、年間3ヶ月の滞在が条件ということなので、エッティンガーの場合よりも、かなり積極的な契約となっているのが確実である。しかも、これまでのトップ・ポストは「常任指揮者」で、現在は飯守泰次郎氏がこれを務めているが、今回、特に「音楽監督」のポストが創設される。一般的には、常任指揮者よりも音楽監督のほうが、よりふかい権限を与えられるというイメージになっているが、契約の重さからみても、そのように考えて間違いはないだろう。

この組み合わせについて、実演で聴いたことはないのだが、NHKで放映された番組では、デュメイのヴァイオリンの持ち味である音色のふかさが楽団に素晴らしい影響をもたらし、どうやら「革命」が起きつつあることを予感させた。今回、デュメイが教育の分野ですこし肩の荷を降ろしたこともあるのだろうか、昨年の首席客演就任から間を置かず、一挙に音楽監督までもっていったところをみると、関西フィルにはデュメイとの間で、かなり特別なことが起こっているような気がするのである。

【新日本フィルにはハーディング】

すこし前になるが、新日本フィルにも動きがあった。現在、若いアルミンクがプログラミングなどを工夫して高い評価を受け、地域密着などのマネージメント分野でも事績を挙げていることは、周知のとおりである。そのアルミンクは2011年限りでの退任が決まっているが、その後の楽団の「顔」は決まっていなかった。

最近、関係の緊密な指揮者として、小澤を別とすると、ヴォルフ=ディーター・ハウシルト、フランス・ブリュッヘン、ダニエル・ハーディング、下野竜也などがいたが、そのなかから、ハーディングが「ミュージック・パートナー・オヴ・NJP」という特別職で、ポストを引き受けることになった。この風変わりなポストの実態に対する解釈は、いろいろとあり得るとは思うが、私は「マネージメントを伴わない純粋に音楽的な関係」「楽団全体のめざす音楽的方向性にはタッチしない」ものとして捉えている。年間に4プログラム6公演というから、多分、年間2回、1ヶ月ずつの来日で、2つずつプログラムをこなすというスタイルが推察される。特に任期は定められていないようなので、当面、こうした関係が何年かつづく(ハーディングのインタヴューでは『数年』といっている)ということになるのだろう。

既に、DGの若手看板アーティストととなっているハーディングについて、私が解説する必要もないだろう。彼の活動の特徴のひとつは、アジアの重視である。日本とともに、中国などにも目を向け、若さに似合わずというか、その若さゆえというべきか、目先のきくところがある。ホームページで公開されているインタヴューでも、ヨーロッパで(と直接は言っていないが、彼のいう『人々』とは当然、欧州人のことだろう)「クラシック音楽との関係が薄れてきていると危惧されている」なかで、「クラシック音楽がこれほど深く愛されている日本の姿は大きな励み」と話している。クラシック需要が斜陽となった欧州から、それが育ちつつあるアジアに目を向ける「経済的」な視点が窺えるのである。

ところで、このハーディングのポストが音楽専門のものとするならば、マネージメントを含めて活躍してきたアルミンクの役割を、ハーディング以外の誰かが継ぐことになるのかについては、まだ定かではない。新日本フィルはここのところ、事務局が強化されてきた印象をもっており、その面については、裏方だけで頑張ることにしたということも考えられなくはないが、今後の情勢に注目していきたい。

なお、アルミンクにとって最後のシーズンとなる来季は、トリフォニーホールとサントリーホールの定期演奏会に関して、たった4人の指揮者だけで構成することが発表された。その4人とは、アルミンクとハーディングのほかに、ハイドン・プロジェクトでさらに声望を高めたブリュッヘン、さらに初登場の現代音楽職人、インゴ・メッツマッハーを加えた顔触れである。この際、アルミンク自身と、彼の本当に信頼する顔触れだけでシーズンを構成する大胆な発想であり、これまでの日本楽壇史上、稀にみる1年ということになりそうである。

【まとめ】

今回はおもに人事に着目したが、こうして見てくると、各楽団もいろいろと工夫して、自分たちの活動を高めたいと願い、努力していることがわかる。そのほかでは、群響の首席指揮者兼芸術アドバイザーとして沼尻竜典が就くことになった人事はかなり前に発表されているし、今後、読響の常任指揮者がカンブルランに変わり、東響はスダーンとの新たな5年間を歩み始める予定など、日本のオーケストラも変革期を迎えている。

また、人事以外では、札幌交響楽団が北海道でいちばん最初の公益法人として認められたり、大阪センチュリー響は存続危機をきっかけにワン・コインサポート制度を確立し、2009年3月までに600万円ちかい寄付を集めた。例のテレビ放送において、関西フィルの事務局がインタヴューに答え、なにかしなければ生き残れないと考えて、デュメイを迎えたという強い危機意識を訴えていたのが記憶に焼きついているが、様々な問題が山積する日本社会のなかで、オーケストラも安閑としていられるはずがない。

東京交響楽団は、長く、その運営を支えてきたすかいらーくの支援を失ったが、それにも関わらず、強気のコメントを発し、スダーンとの契約を堂々と更新した。このような力強い運営をしていける楽団が、いくつ育ってくるのかによって、今後の日本のオーケストラの生命力が決まってくると思う。

最後に、再び人事のはなしに戻ると、ちょっと風変わりな「事件」があった。といっても、本年3月末のことだが、九州交響楽団でコンサートマスターを務めていた豊嶋泰嗣が、同団を離任した。しかし、その功績を高く評価した楽団から、「桂冠コンサートマスター」の称号を授けられたのである。指揮者はともかく、コンサートマスターがこのような名誉称号を授けられたのは、日本の楽団でも史上初めてのことではないかと思う。指揮者からプレイヤーへというひとつの流れを示しており、面白い傾向であると思ったことから、特に紹介することにした。

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