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2009年11月12日 (木)

浜松国際ピアノコンクール 第1次予選 (第5日) 11/12

浜松国際ピアノコンクールの第1次予選は、2次への通過者が決する第5日を迎えた。ここ2日間ほど、なんとなく停滞感が漂ってしまったが、最終日は注目のコンテスタントが集中している。ショーン・ケナード、ファティマット・メルダノワ、スタニスラフ・ヘガイ、キム・ジュンヒ、セルゲイ・ソボレフらの外国勢に加え、尾崎有飛、水谷桃子、佐々木崇と、3人の日本人コンテスタントが挑むのも注目される。

まずは、半ば日本人の血が流れていることもあり、わが国で知名度が高い【ショーン・ケナード】が登場した。5位入賞した仙台国際のほか、いろいろなところに転戦しているが、いずれも結果は一歩及ばない感じの人だ。仙台では聴衆賞も貰ったのだが、正直、そのころがベストだった可能性もある。今回のパフォーマンスもポイントは押さえながらも、全体的にラフな印象を残す。特にラフマニノフ編のクライスラー『愛の喜び』はカンタービレが切れ切れで、旋律線の温かいロマン性が浮かび上がってこなかった。

つづく【ファティマット・メルダノワ】は名前からして、ムスリム系のロシア人であろうか。プレリュードは舞曲のリズムを丁寧に拾っていたが、フーガは勢いだけになった。これはベートーベンの対位法な部分でもみられた特徴で、根本的にかなり癖のある解釈をしていることになる。これに限らず、迫力を得るために力づくになるところがあり、ベースにある音楽の気品や、ゆたかな表現性をぶち壊しにしてしまっている。あるいは、精神的に少しナーバスになっていた可能性もあるが、テンポやフォルムの選び方に柔軟性がほしいところだ。

その点、カザフスタンの【スタニスラフ・ヘガイ】は、飄々たるパフォーマンスだ。バッハはプレリュード、フーガともに気品に満ちている。ハイドンはかなり快速な演奏で、その意図は定かでないが、あるいは、チェンバロ的な演奏を意識しているのかもしれない。リストは一転して、少し力んだ演奏とも聴こえるが、画面上、すこし手が小さくみえるので、そうしたハンデの表れとも見えなくはない。ただ、それは一概にハンデではなく、トリルには躍動感をもたらしてもいる。全体的に思いきった切り込みがみられるが、反面、のめり込みすぎて尖鋭になる面もあった。

午前の部は、一長一短のあるコンテスタントがつづく。アメリカの【クワン・イ】については、バッハがよかった。プレリュードの哀切感漂う音色と、そこに少しずつ忍び込んでいく明るさの対比。フーガも、1つ1つの声部を大事にした演奏で、信仰心に溢れている。ときどき打鍵がすこし流れるのが欠点だが、総じて好印象を残した。ベートーベンはすこしフォルムがきついと思われたが、徐々にセルフ・アジャストをかけ、適度な表現に落ち着く冷静なコントロールをみせる。ショパンも叩きすぎる部分があるが、ベートーベンにしても、ショパンにしても、ベースにあるバッハのエッセンスが出てきたときに、すっと音楽が落ち着くのが持ち味となっている。より繊細な感覚が求められるとはいえ、実用的な演奏スキルが身についている印象だった。

午後のトップも米国のコンテスタントだが、この【サラ・ダネッシュプール】もまとまりのあるパフォーマンスをみせた。バッハはやや引きずり気味だが、舞曲のエレガントさが出ているし、音楽全体にも落ち着きがある。ハイドンも適度に切り込んだ演奏で、中間部から再現に移る部分のユーモラスなアクションなどが面白い。全体的にフォルムが美しい。シューマンの変奏曲はパートごとの対比には幅がなく、可もなく不可もなくの印象だが、響きには終始、優美さを保った好演であった。

今回、エントリーが多いウズベキスタンからのコンテスタントのひとり、【タミーラ・サリムジャーノワ】は17歳だが、耳がよく、優れたピアニストの第一条件を備えている。バッハは落ち着いた流れをつくり、しっとりした音楽づくりでよかった。しかし、特に素晴らしいのはモーツァルトで、適度な重みがかかっているわりに音楽の流れはスマートで、リズム感も秀逸だ。リストは冒頭和音がすこし濁ったが、早めに修正して、濃厚なロマン性を丁寧な打鍵で浮かび上がらせる。これも拍節感が素晴らしく、躍動感がある。スローパートは響きが美しく、喚起力に満ちている。ここを通過できるなら、コンペティションを盛り上げてくれそうなコンテスタント。

今大会、ファイナルの半分ぐらいは韓国人に占められそうな勢いだが、エース格の【キム・ジュンヒ】はバッハで、際立ったパフォーマンスをみせた。他のコンテスタントたちが義務的に消化している感のある、バッハに軸足を置き、厚みのある音楽づくり、深い音色、表面的ではない内面的な描写も散りばめて、舞曲の気品漂う演奏を織り上げていく。じわじわと近づいてくるような奥ゆかしい演奏で、素晴らしかった。しかし、ハイドンは構造を分析に捉えて弾き分けたものの、1曲のなかで打鍵が変わりすぎて違和感が残る。ショパンの『舟歌』はこれがショパンなのかという骨太の音楽づくりで、遊びもないが、全体の構成を隙なく捉えた演奏であるとはいえるのかもしれない。

ロシアの【エルマール・ガサノフ】はバッハではまったくパッとしなかったので、予選的には厳しいかもしれないが、尻上がりに調子を上げ、聴き手を驚かせるような瞬間もつくった。難しい曲、規模の大きい曲ほどうまくコントロールとするという感じで、より繊細な音楽性を身につけたいが、『愛の喜び』の最後の部分などは、非常に技巧的な部分にもかかわらず、響きがヴィヴィッドで美しく、あっと言わせるものがあった。

日本人のコンテスタントのなかでは、【尾崎有飛】が一頭抜けていた。バッハはフーガでやや見得を切りすぎた感じもあるが、プレリュードから丁寧な流れを貫いており、しっかりした演奏であった。ハイドンは機動力のある演奏で、よく練られた押し引きが小気味いい。リストも慌てず、オペラらしいドラマの広がりをナチュラルに広げていく。クライマックスのワルツの彫琢も躍動感があり、鮮やかである。

あとで演奏した【水谷桃子】は、ずっと前から知っている気がするが、まだまだ18歳と若い。そして、音楽も若い。年齢のわりに落ち着いているいるものの、表現に立体感がなく、ハイドンなどはユーモアが弱い。例えば、低音をズンズンと打つようなところも、そこにあるから音が弾いているというだけになっていて、面白みがない。リズム感は優れているため、メヌエットは一転して活き活きした演奏になっている。リストの「ラ・カンパネッラ」も、型どおりの印象だった。

第1次予選の大トリを飾った【佐々木崇】は、技術的に際立ったものはないものの、真面目な人柄が窺われる演奏で、バッハもハイドンも、丁寧に磨き上げられた演奏で感銘を受けた。特に作品への自然な共感が、明るい響きにダイレクトに表れているハイドンの演奏は見所がある。ショパンは拍の保持が甘く、響きがやや流れ気味に思える。最年長の28歳、華々しい実績なく、今大会ではこれが最後のチャンスとなるが、内面をしっかり音に反映できる技能は非凡とみた。

なお、大詰めの83番目で登場の、ロシアの【セルゲイ・ソボレフ】は正統派の音楽づくりを見せていたが、バッハのフーガの途中で演奏を止め、おもむろに退場するというハプニングを起こしてしまった。その原因は定かではないが、しばらくあって、「事情により演奏をキャンセルする」旨がアナウンスがなされた。かつてのチャイコフスキー・コンクール入賞者であるが、残念なことになった。

その直後に弾いたのは、韓国の【キム・ヒョンジョン】。序盤、影響がなかったといえば嘘になるだろうが、その後は立てなおして、しっかり演奏した。当落線上まで達すれば、温情的に拾われる可能性が高まるかもしれない。バッハはプレリュードで、強拍のハンマーがつよく打ち下ろされるときの迫力が面白かったが、スタイル的にはどうだろうか。モーツァルトは前半、やや上ずった響きになったが、後半は無難にまとめた。リスト編の『死の舞踏』はとても情熱な演奏だが、意外に響きがきれいなのが耳を惹く。

これで、すべてのコンテスタントの演奏が終わった。結果はわかり次第、レポートする。第2次予選には、25名が進むことになっている。

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