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2009年11月18日 (水)

浜松国際ピアノコンクール 第3次予選 (2日目) 11/18

浜松国際ピアノコンクールは第3次予選の2日目を迎え、この日の演奏を終えると、いよいよファイナリストが決まることになります。

【No.7 チャン・ソン,韓国】

この日のトップ・バッターは、チャン・ソン。まず、リスト『愛の夢』をしっとりと弾きあげたあと、大曲の『ロ短調ソナタ』に移ります。2次ではガサノフ、初日ではアン・スジョンの水準の高い演奏がありました。それと比べると、チャン・ソンの演奏は、すこし見劣りがあります。全体的に打鍵がナーバスな感じもありますが、後半の最弱奏部では、それが異常に繊細な響きに聴こえて、かえってアピール・ポイントになっています。また、緻密な構成力という点では、3人のなかでもトップといえます。ただし、その実施においては少しずつ舌足らずな部分があり、演奏の風格を損なっています。例えば、1拍ごとの保持が足りないとか、ルバートがすこしきついなどという点です。

チャイコフスキーはシンプルなメロディ・ラインを、虚飾なく歌い上げました。『愛の夢』でもそうでしたが、こうした作品におけるチャン・ソンの歌うセンスは、ひとつの個性といえます。歌曲の伴奏などしたら、素晴らしいのではないでしょうか。12月のワルツも楽しげで、躍動感があります。

ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカからの3楽章』はコンペティションで演奏するコンテスタントが多いですが、大体が、ギラギラと技巧のうまさをアピールするものばかりです。そのなかで、このチャン・ソンの演奏は、先のチャイコフスキーで印象づけたような素朴な歌ごころが息づいており、それがベースにあることで、ストラヴィンスキーの毒気はすこし薄められていますが、快活な、バレエ音楽らしい演奏に仕上がっています。ダークな部分も夢見るような響きで統一し、メルヘンティックな作品の特徴を、響きの上で丁寧に展開しているのがわかります。

後半、やや流しすぎたように思うけれども、引っ張りすぎるよりはいいと思います。この日は、ドイツものとロシアもののパフォーマンスでしたが、ロシア側が素晴らしかったと思います。ただ、スタイル的にいうと、すこし軽すぎる感じは否めませんけれども。

【No.32 加藤大樹,日本】

最初のバルトークは、彼にとっての十八番です。生でも聴いたこともありますが、あのときより厚みの増した表現に対して、技術的な完成度はやや緩んだ印象があります。いつも、同じようには弾けないものです。特に第3楽章はフォルムが硬く、少しずつリズムが乱れていった印象があります。第1楽章の後半、「この横揺れは・・・」とデジャヴーが引き起こされたのですが、そういえば、彼は2次でもバルトークを弾いていたようですね。そのときにも、私は「横揺れ」のことを書いています。緩徐楽章はやや衒学的な演奏になっており、もうすこし重量感があってもよかったかもしれません。

歌曲の編曲ものは、前のチャン・ソンと比較すると、歌うセンスが弱いように思います。いろいろと珍しい曲目をもってきましたが、それが当たり前のプログラム並みにきっちり演奏されているかといえば、そうとは思えないのでした。例えば、アイーダの編曲などは、それがアイーダだとわかるまでに、かなり時間がかかります。それくらい、イメージが弱いということです。この方は多分、オペラそのものはご覧になったことがないのではないでしょうか。グラズノフはいくらかマシですが、表現の立体性はいまひとつです。

ここまで悪いことばかり言っていますが、打鍵の精確性や和音の清潔さは、このラウンドに入っても、やはり目立ちます。グラズノフは全体の構成はイマイチですが、細部でみせるという感じです。スケルッツォのベース音の伸縮も面白く、非常に細かいところで聴きごたえのある演奏と言えるでしょう。しかし、構造的な堅固さが求められるフィナーレでは、やはり地味な印象になってしまいます。

最後は、ヨハン・シュトラウス作曲の作品による、グリュンフェルトの編曲による華麗なる『ウィーンの夜会』。これは非常に古い時代に愛された作品のようで、ヒストリカルな録音が多い印象があります。この曲は最後ということもあるのか、開きなおってりラックスした演奏となり、作品の豪奢さもあって聴きごたえがありました。

【No.64 尾崎有飛,日本】

尾崎有飛は、ベートーベンのソナタ第31番でスタートしましたが、一聴して、彼によくあった作品だという印象を得ました。柔らかい序奏のあと、さりげなく構造が広げられる展開をゆったりと描きあげます。モルト・エスプレッシーヴォですが、それはかなり清涼感のある展開で、いわば内向な表情づけといえます。フィナーレは、宗教曲の声楽作品のような歌いだし。謎めいた溜めをとおり、「嘆きの歌」は情感ゆたかですが、わりあいにカラッとした表現でした。つづくフーガは尖鋭さに欠けますが、じんわりと染み入るような優しげな表情です。

フーガから抜けると、ベートーベンの書いた声部のバランスの問題なのか、曇りと清澄が交互に現れる展開で、たゆたうような感じでした。締めのフーガは響きに広がりがなく、ややスケールが小さい感じがします。すこし緊張気味だったかもしれません。

つづいて、リストによるシューベルトの編曲ものですが、このあたりは、チャン・ソンをひとつのスタンダードとしてみることができます。尾崎の場合、彼ほど気の利いた歌いまわしはありませんが、作品の輪郭を内側からくり抜いていく演奏であることと、コンパクトで、無駄のない表現であることが耳を惹きます。聴き手によってはカンタービレに遊びがなく、チマチマした表現とみられるかもしれませんが、ある意味では勇気のある、抑えのきいた表現ともいえます。「スタンドヒェン(セレナード)」は突き放した美しさがあり、「水の上で歌う」はいくぶんロマンティック、「どこへ」は素朴さと華麗さのゆったりした交代が印象づけられます。

メトネルは滑らかな演奏ですが、やや守りの演奏ともとれます。このラウンドでの演奏全体を通して言えることですが、すこし表現が縮こまって聴こえます。この曲の最後のほうになりますが、ラルガメントあたりから取り返し、アレグロ・モルトの最終変奏は雅やかな演奏となりました。最後は、再びリストで『スペイン狂詩曲』。この曲も、多くのコンテスタントが演奏しました。そのなかで、尾崎の演奏は、響きの美しさ、表現としての清らかさにこだわった感動的な演奏です。

2次のときに書いたように、この方は本質的に、内面から出てくる音楽性を大事にするタイプです。その良さが、このラウンドの演奏ではあまり出ていなかったのですが、このリストで爆発しました。憂いの先行する前半に対して、中間で曲想を手早く入れ替え(ホタ)、快活な響きを先行させるところは、そうした推移の見事さが光ります。そして、両者の雰囲気が反転して結びつけられる解決の表現は、尾崎によって、もっとも明確に表現されたと言えます。この部分は、技巧的にもほとんど完璧と思われます。

【No.29 ホ・ジェウォン,韓国】

ホ・ジェウォンは2次でもシューマンを弾いていますが、『クライスレリアーナ』は、ずっと優れた演奏のように思えます。先日のように、響きがショパンのように女性的にならず、常によくコートされた音色で固められて、気障な雰囲気を保ちつづけていました。表現はわりに静謐ですが、内省的というよりは、非常にゆったりした開放感があります。それを象徴するレント・アッサイの演奏が秀逸です。終曲のスケルッツァンドも、いたって柔和な表情が印象的でした。武満徹は前日の野木よりもさらに速くなっている上、音色にも特徴がなく、ほとんどドビュッシーと変わらない表現になっています。

つづいては、ラフマニノフの『コレルリ変奏曲』。主題のあと、第3変奏まで演奏したあと、アンダンテに戻る部分の感興がまず印象的です。第5-7変奏は、いよいよシステムが動き出した感じのする部分ですが、ややフォルムが流れ気味に思えました。第8変奏はミステリオーソを生かして、スケルッツォ的な転回をつくっています。それにつづくシーケンスはアジタートまで、このスケルッツォの度合いが増していく過程を、変奏ごとの特徴にしたがって巧く描いています。

この展開でわかるのは、ホがスローパートの性格を丁寧に描き出すことで、その後につづくシーケンスを巧く象徴づけている点です。しかし、インテルメッツォのあと、第14変奏以降はより自由な流れをつくることで、音楽の躍動感を高めています。そして、最後のアンダンテ・コーダは、この上もなくロマンティックな陰影を放っていました。

ヴォロドス編によるリストの『ハンガリー狂詩曲第13番』は、若き編曲名人、ヴォロドスの詩情きらめく編曲意図をしっかり拾った華やかな演奏でした。このラウンドに来て、ようやく彼の本当の姿を拝むことができたという印象です。

【No.20 エルマール・ガサノフ,ロシア】

第2次予選では非常に素晴らしいパフォーマンスが印象的だったガサノフですが、このラウンドはやや流れが悪く、シューベルトのソナタは雑に始まりました。フォルムががさついていて、なかなかリズムに乗れないようです。後半になってようやく持ちなおし、最後の弱奏部分でガサノフらしい深い叙情性が戻ってきます。その流れのなかで、第2楽章のアンダンティーノは、とても涼やかな演奏になっていました。

トリオでは完全に流れを取り戻し、すこしやりすぎたものの、2次予選でみせた強烈なパフォーマンスが返ってきます。そこを通ったあと主部に戻ると、前とは比較にならないほどの深い響きが胸に焼きつきました。スケルッツォはスタッカートの処理が甘く、跳躍感が強すぎます。対して、シンプリシティに徹したトリオは秀逸。再現したあとの主部は若干、柔らかみがあり、前半よりも音楽のバランスがとれていました。

フィナーレは冒頭主題の歌ごころが素晴らしく、まるで歌曲の編曲ようです。ロンド・ソナタとヴァリュエーションのいいトコどりをしたような感じで、とても華やかなピアニズムにみえます。ときどき、はじけるようなパッセージで響きが硬質になる点を除けば、全体に感興のふかい演奏になっています。展開部からロンド主題が戻る部分の丁寧な演奏もいいし、最後の回想的な部分のさりげなさ、弾きおわりも素敵です。いきなりのメインでしたが、ガツンと来ました。

やはり、ガサノフのリストは素晴らしいです。『ワルツ・カプリース』の編曲では華麗なルバートを効かせて、洒落っ気たっぷりに演奏し、(もとがシューベルトだということもありますが、)同じリストでも変化をつけています。ここで『メフィスト・ワルツ』に入るかと思いきや、メトネルに移ったのは驚きでした。メトネルの作品、以前から私は愛好しているのですが、かつてのマイナーぶりからすると、最近はコンクールでも頻繁にお目にかかるようになり、録音も増えてきたように思っています。このガサノフも思い入れがあるのか、自然な音楽の流れがひときわ優しく、音色もふかくて、詩情がゆたかな演奏になっています。演奏順も番号順ではなく、ひねりを入れていました。

そして、『メフィスト・ワルツ第1番』による壮麗なるフィナーレ。このコンペティションでは、本当に数えきれないほどのコンテスタントが演奏していきました。ガサノフの演奏はすこし粗めに聴こえますが、浮かれたような複雑なリズムを思いきって深く刻んでおり、スリルがあります。スローパートは、ナイチンゲールの出てくるところが、実に巧いですし、ヴィブラートのかかったようなトレモロの動きも面白かった。後半は前半よりも流れがスムーズで、恐ろしいほどに快活です。最後の甘ったるいメロディが、かえって不気味さを感じさせるのも、作品の読みとして面白いものがありました。この作品のオリジナルが舞曲だったことを、強烈に印象づける演奏です。

絶好調という感じはしないけれども、それでも、揺るぎないパフォーマンスでした。

【No.36 キム・ヒョンジョン,韓国】

セミの大トリは、キム・ヒョンジョン。公式HPでのリポートでは、バナナ・ネタでいじられています。落ち着き払った演奏からは、とてもそうとは思えないのですが、まだハイ・ティーンなのです。

深呼吸をしてから、ゆったりと入ったベートーベンでした。ここまでのラウンド、彼女はベートーベンを弾いていないのですが、本選へいくとベートーベンを弾く予定なので、とっておきなのでしょう。序奏はとても呼吸のふかい演奏ですし、主部に入っての対位法的な動きも秀逸です。跳躍的なパッセージは気ムラがありますが、弾力があって優れた演奏でしょう。大事な序奏を丁寧に織り込んであるのが効いていて、すこしばかり荒れる部分があっても、随所で音楽に落ち着きをもたらしているのがわかります。

アンダンテは、キリッとした歌いまわしに特長があります。慎重に音素を拾い集めながらの、実に丁寧な演奏になっています。フィナーレは、ベートーベンらしい解決の爽快さが、響きの快活な表情に鋭く表れています。序盤、すこしもたついたものの、堂々たる構造観がくっきり示され、仮に進めるとするならば、本選も期待できそうです(ベートーベンを演奏予定)。

ヴァインは西村朗の自作品への解説ではありませんが、演奏の伝統が薄く規範的な演奏がない分、自由に演奏できます。彼女の場合は、スクリャービン的な濃厚な演奏になっています。機械的な部分でも、右手の自由なカンタービレが効いて、ストーリーが途切れない。オスティナート的な部分は、ダイナミックなリズムの処理と、強拍の精確なアピールで立体性を出しています。上述のような曲ですし、譜面も見たことがないのですから、断定的にはいえないのですが、ヴァイン本来のサウンドからすると、すこし造型が深すぎる感じがします。しかし、隙なく、ゴージャスな演奏であることは確かなのですから、そのような点を長所とみることも可能ではありますが・・・。

ラヴェルは、相当に「悲しい小鳥たち」になっていました。もうすこし表現に多様性がないと、この作曲家らしくありません。一転して、シューマンの『謝肉祭』は、聴きごたえがあります。私には、前口上でほんのり「ダヴィド同盟」の雰囲気が浮かぶところで、既に全体像がクリアに浮かび上がりました。口上の演奏自体は、ガッチリした構造に守られた辛口の演奏。次から次へと現れるパレードを思わせるように、目まぐるしく曲想が変化していくときの柔らかさも指摘できます。

コケットはすこし表現が大げさで、フォルムが甘いです。同じ傾向で、再会も強引な印象になりました。一方、キアリーナからショパンへの流れは表現にゆとりがあり、特にシューマンにとって身近な存在だけに、大事に書かれたことを想像させます。エストレアの自由な舞曲の表現も秀逸。上記のように、パートによって表現の妥当性にバラツキがありますが、ワルツ系やスローパートは、総じてよく弾けています。最後のダヴィド同盟は決然とした入りは良かったものの、序盤、意外にもたついたところがあり、すこし息切れ気味です。しかし、少しずつ盛りかえして、終盤のまとめ方はしっかりしていました。

【まとめ】

以上で、全員の演奏が終了しました。このラウンドは、非常にレヴェルの高い演奏がつづき、甲乙つけがたいものがあります。とりあえず、全員に拍手を送りたいと思います。今回のコンテスタントたちは、いつか実際に聴いてみたいピアニストばかりでした。ご苦労さま、そして、ありがとう!

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