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2009年11月 7日 (土)

ミンコフスキ ハイドン ザロモン・セット ルーヴル宮音楽隊 11/6

前日につづき、ルーヴル宮音楽隊(レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル)の演奏を聴いてきた。

2日目は、ハイドンのザロモン・セット(ロンドン・セット)から3曲を演奏した。このザロモン・セットというと、2月の新日本フィルとブリュッヘンによるツィクルスを忘れはしない。正直にいうと、ハイドンがこのセットに込めた想いを繊細に捉えたという点では、新日本フィルのほうに分がある。しかし、サウンドの豪奢さにおいては、ハイドン本人もきっと「びっくり」するような出来映えであって、エステルハージー宮から飛び出して大都会、ロンドンに羽ばたいたハイドンの最後の精華を確認するという点においては、今回のパフォーマンスが圧倒的に優れている。

特に、「コン・スピリト」あるいは「スピリトーソ」と指定された楽章の目を瞠るような心意気は、ミンコフスキと彼の音楽隊のみが実現できるものであって、感銘が大きい。

私は今回の演奏を聴いて、ミンコフスキに対して新たな印象をもった。それは、作品解釈が純粋だということである。前日のレヴューで、モーツァルトのプレスト・フィナーレの演奏について触れ、私は次のように述べた。「このグループの凄いところは、非常に速いテンポを選びながらも、作品が本来もっている詩情がまったく損なわれず、むしろ、より鮮明に浮かび上がってくることである」。そうした解釈は、実のところ、かなりリスキーなものであって、一歩間違えるとばかばかしい間違いのもととなる。そして、きわめて単純な解釈であるといえる。

プレストだから速く演奏するというのは、誰にでも当たり前に思いつくことだ。しかし、優れた音楽家の演奏では、必ずしも、そういった単純な解釈にはなっていない。ときには、プレストとは名ばかりのテンポ設定でありながら、目にみえない速さを感じさせるという奇知さえ登場するぐらいである。ときにミンコフスキの場合は、誰もがいちばん最初に思いつく、単純な・・・それゆえに純粋な、解釈に重きを置いている。それだけならば、ただの愚かな、発想力のない指揮者といえるだろうが、ミンコフスキはそうした弊をしっかり理解していて、かつ、それを十分克服するだけの手腕を備えた、ほとんど唯一の指揮者である点が凄いのである。

スピリトーソといえば、本当に物凄い「スピリット」が浮き上がってくる。ヴィヴァーチェといえば、優美中の優美さが顕現する。例えば、「ロンドン」のフィナーレのロンド的な主題が、まるで生き物のように跳ねまわり、その力強いレーゾンデートル(存在証明)を主張してくる瞬間を、聴衆は忘れるはずがない。正に、その楽章を聴いている間、響きと同時に、魂が聴き手に向かって投げつけられ、そこらじゅうに小さな妖精たちが跳ねまわる幻想を見るのは難しくない。念のため言っておくが、スピリトーソは楽想表記として「生気をもって/元気よく」という意味であるが、当然のことながら、語幹にある’spilit’を含んでというニュアンスを含有しているはずだ。

【3曲のレヴュー】

演奏会は、101番「時計」の演奏に始まった。序盤はアイン・ザッツに問題があったほか、フルートなども湿りがちな音色で安定しなかった。本領を発揮しはじめたのは、第2楽章からといえるだろう。パウゼをしっかりとり、装飾のつく最後のシーケンスの優美さが際立った。総じて、ツアーの疲れがみえるような隙のあるパフォーマンスであったが、この曲にして既に、ハイドンとしては雄大な構えをもった作品であることを印象づけた、ダイナミックな演奏ではあった。

つづいて、「太鼓連打」のニックネームをもつ交響曲第103番の演奏となる。冒頭、ラモーでも真価を示したシルヴァン・ベルトランのドラム・ロールがまずもって見事だ。今回、すこしアレンジを入れて、長めに叩いていたように思う。そのあとの低音弦のチェロだが、かなり弓を押しつけて窮屈な、つぶした響きをつくっていたのが特徴的である。序奏のあとの軽く、繊細な美しさを示す導入から、一気に流れに乗っていくあたりは、このアンサンブルの得意な流れである。

しかしながら、全編を通してみたときに特に印象的なのは、第2楽章だろう。今回、アンコールで演奏した「驚愕」を含めて、緩徐楽章の作り方は、例のスピリチュアルな部分の音楽づくりと対応するように、見事なものであった。この曲では、前半の短調部分に暗さではなく、格調美をもたせ、その後のユニークな流れを自然に導いている。変奏を重ねるごとにつける変化の鮮やかさがいちいち目を惹くが、きわめつけは、最後に強奏に転じて優美な表現に移る場面であろう。

メヌエットでは、躍動的なメヌエット主題が盛り上がるときに、表面の弦の響きを管楽器がきれいにコートしていることがわかり、その完璧なコントロールには感銘を受けた。ロンド・フィナーレはテンションが高く、その昂揚が手に取るようにわかる演奏となっている。パウゼをうまく使いながら、鮮やかな押し引きがみられ、ストップ・アンド・ゴーの鋭さも耳を惹く。小さくまとまらず、エネルギーをいっぱいに発揮させての演奏だが、そうした動きが粗さにつながらず、ダイレクトに響きの豪奢につながっていくのは、このアンサンブルの大きな美点だ。

最後、コーダにおける弦の激しい音型に頂点を置き、余韻たっぷりに終わる。

交響曲第104番「ロンドン」は、これらの曲目よりも、さらにがっしりした構造を示すことで、ほぼ同様のアプローチながら、セットを締め括る傑作としての説得力を高めている。新日本フィルを振ったブリュッヘンは、104番にザロモン・セット全体から培った要素をデジャヴーのように埋め込んでいったが、ミンコフスキは、より直裁に作品のもつ独自性にぶつかっていく。その意思表明は、序奏の部分で既に気高く宣言された。元来が高貴な部分であるが、それに輪をかけてというべきか、ほんの数小節に命を賭けるような凄まじい出だし。そして、その後の導入部の緊張感も素晴らしい。

しかし、アレグロに移るときの柔らかさも見事で、その後の充実した展開は他の曲と同様だが、ひときわ冒頭部分が決まっただけに、この日の演奏のなかでも、白眉の印象を残す。その後、最初のほうに述べた主題が躍るフィナーレに至るまでは、簡潔だが、ガツンと響く論文のような辛みがある。隙のない論理展開と、その構造の美しさに加え、細かいレトリックの妙が働き、カチカチとはまった文体の見事さに酩酊状態となる。そこへもってきて、あの活き活きとしたフィナーレがやってくるのだから、聴き手は堪らない。

【まとめ】

この3曲をもって、とうとうミンコフスキとルーヴル宮音楽隊の演奏も幕切れを迎えた。

その後、6曲に及ぶアンコール・ステージも楽しかったが、これをどうこう論じるつもりはない。ただ、前日のステージからも既に感じていたが、彼らにとっては、表現したいと思うものがあまりに多くて、決まりきったステージの中だけには収まりきらないということだろう。そして、最後に演奏したコンマスのソロによる「ハフナー」セレナードのロンドが、前日よりも、ずっと華やかな出来映えであったように、たとえ同じことをするのであっても、いつも、何かを付け加えたいと願っているのがよくわかる。

フランスというのは、現代ものでさえ、ロックのようにして聴かせてしまう国だというイメージがある。いつも今を生き、ある意味、わりきりのしっかりしている彼らは、いま楽しくなければやらないし、意義深いものだから、内実がなくとも残すというメンタリティは少ない。意義深いだけではなく、今日、我々が楽しめるものでなければ、残す意味がないと考えているのだろう。

ミンコフスキにしても、歌手のプティボンにしても、伝統を守り、上手にやるのは当たり前で、次に何を付け加えるかをいつも忘れない。しかも、どうせやるなら、楽しくなければという想いがつよい。そこがドイツ人とちがうところで、ドイツ人は歯を食いしばっても新しいことがしたいし、逆にイタリア人は苦労するのは否で、いくら古くさくても、自分たちが楽しければそれでいい。ドイツ人は演出ばかりを論じ、ムーティは演出がないのは音楽家にとって幸いだという。フランス人は、彼らの良いところを足して、2で割るという感じで理解できるのかもしれない。

閑話休題。

非常にいい公演だったが、初日公演はカジモトで安い券が出ていたぐらいだから、興行的には、あまり成功とはいえないのかもしれない。なぜ、こんな楽しい公演が、わが国で人気がでないのかという不思議・・・。最後に、そのことだけ付け加えて、浮かれ気味の好評を締め括ることにしよう。

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