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2009年11月24日 (火)

15歳 チョ・ソンジンが優勝 ガサノフが2位、3位にホ・ジェウォン 浜松国際ピアノコンクール

浜松国際ピアノコンクールは、21・22日の両日で本選がおこなわれ、23日、入賞者披露コンサートをおこなって、全日程を終えた。結果は、以下のとおりである。

 第1位 チョ・ソンジン,韓国
 第2位 エルマール・ガサノフ,ロシア
 第3位 ホ・ジェウォン,韓国
 第4位 フランソワ・デュモン,フランス
 第5位 キム・ヒョンジョン,韓国
 第6位 アン・スジョン,韓国

優勝は、本選参加者中で最年少の15歳、チョ・ソンジンという結果になった。これは、第4回のアレクサンダー・ガブリリュクの16歳を抜いて、最年少での優勝となる。チョ・ソンジンはヨウォン芸術高校に在籍中であり、現在の主な指導者はシン・スジョンという人物であるが、彼女はソウル大学音楽部学部長の肩書きをもっており、前回大会では審査委員も務めている。

本選での6人の演奏は、リアルタイム配信、および、オン・デマンドでの事後配信を利用した。予想されたように、協奏曲では独奏と比べて解像度が悪く(オン・デマンドのほうがいくぶん良好だが)、細かなニュアンスを含めて聴きとることは非常に難しい。その範囲で、一応の感想を書いてみたい。

ただし、6人とも非常に個性の強いコンテスタントが選ばれたこともあり、協奏曲にいって、イメージがぶれることはなかった。ただし、オーケストラのなかに入って、多少、それが埋没気味になる部分がある人と、逆に、一段と輝かしく個性を示すことになった人という差はあった。前者においては、デュモンとアン・スジョン。後者としては、上位にいった2人(チョ・ソンジンとガサノフ)のことを挙げたい。

【協奏曲でやや個性が埋没的だった演奏】

まず、最初に登場したデュモンは、ベートーベンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を演奏した。これまでのラウンド同様、即戦力ともいうべき音色の色彩感と、美しいコートは、6人のなかでも際立っていた。今回、いわば「音色系」といえるタイプの奏者では、他にホ・ジェウォンがいるが、2人は同じ「音色」といっても、その質的なものに大きなちがいがある。デュモンのそれが、天然の膨らみのある音色であるとするならば、ホの響きは磨き上げられた伝統工芸品的な、緻密で繊細な美しさを放っている。

立ち上がりはややふらつくようなアクションに思えたが、次の独奏部から、その輝くような音色を前面に出し、繊細な表情を浮かび上がらせる。デュモンの演奏は総じて、うまく道を選んでの演奏という感じで、オーケストラと正面からぶつからず、ふわっと浮き上がってくるときの印象の煌きが、なんともいとおしいのである。だが、協奏曲という形式を考えたときに、オーケストラとのコミュニケーションという点での弱さがあり、オーケストラと一緒に演奏することによるシナジー効果が感じられないのが難点であった。

デュモンの演奏では、細部が次々と表情を変え、あっという間に時間が過ぎていくのを感じる。やや速めのテンポ設定もあり、40分ちかい演奏時間のある曲が半分ぐらいに感じられた。色彩感という点ではうまい譬えではないかもしれないが、一筆書きで、見事な鳥獣の表情を描きあげたような、墨絵を思わせる演奏といったところ。逆にいえば、そのためにひときわ印象的なアクションというのが残らず、例えば、ロンド・アレグロの跳躍的なリズム処理にみられるような、オーケストラのヴィヴィッドなデザインに呼応するものが、十分に示せなかったともいえる。

逆に、オーケストラとのコミュニケーションに深入りしすぎたために、自分のつくるべきフォルムというものを埋没させてしまったのが、アン・スジョンであった。演奏したのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。彼女の演奏はフレーズごとの集中力が凄まじく、1つ1つのフレーズに体当たりでぶつかっていくような姿勢には、ある種の感銘を受けた。下手に華美な特長をアピールせず、フレーズごと、拍ごとの保持を冷静にコントロールし、じっくりと構造を描いていくような演奏は、ラフマニノフに対する新しいイメージを提起する。そのアプローチは緩徐楽章を通って、第3楽章の落ち着いた雰囲気を醸しだすのに効果的であった。

しかし、叙情的な緩徐楽章においては、そうした表現の真っすぐさだけでは、訴えるものが足りなかった。この楽章では、あまりにオーケストラの演奏に身を委ねすぎであり、ピアノ主導で表情を変えていくという点が不徹底であったため、あまりにも細部的な演奏となり、フォルムが平坦になってしまった点は否めない。

【協奏曲で鋭くアピールした演奏】

結果的に聴衆賞を得ることになったガサノフの演奏は、これとは対照的だ。曲目は、同じラフマニノフの『パガニーニの主題による狂詩曲』。序盤、非常に細かい打鍵でドットを散らし、これからなにが起こるのだろうというミステリアスな雰囲気をつくる。そして、その聴き手の疑問に答えるようにして、次々と魅力的なアクションを起こしていく展開からは、ある種のエクスタシーが自然に浮かび上がってくる。1つ1つの変奏をしっかりと特徴づけながら、ほんの僅かな抑揚を効果的に印象づけて、表情の変化を明確にこなしていく。

構造的には、第10変奏のおわりと、アンダンテ・カンタービレの有名な第18変奏のおわりに間を置き、なんとなく3楽章構成の協奏曲風の区分をおこなっている。これは意外に効果的であり、『トゥーランドット』のカラフのように颯爽と謎々を解いていく第1パートにつづき、第18変奏の頂点に向けてカンタービレを集めていく第2パート、そして、結びまでに見事な解決を一気呵成に導く第3パートという役割づけの明確化が、聴き手とのコミュニケーションに役立っている。

特に素晴らしかったのは、第19変奏以下、最終変奏まで有無を言わさぬ推進力で、轟然と突き進む最後のパートである。だが、そこに働いているのは単純明快な勢いではなく、明らかに手間のかかる、知的構築によってもたらされたエレガントな流れである。歌いまわしから、打鍵の質、ルバートの仕方や、細かなアーティキュレーションに至るまで、ガサノフの演奏はよく訓練されていたという以上に、芸術的に磨き上げられていた。

チョ・ソンジンはデュモンと同じ、ベートーベンのピアノ協奏曲第5番で勝負した。この年代のピアニストで、「皇帝」を選ぶことは、私にはとてもリスキーなことと思える。それはあとで、キム・ヒョンジョンについて述べることになるのだが、要するに、演奏の重みというか、この作品のもつ天性の優雅さに辿り着くためには、よほど慎重で、かつ、大胆な音楽の運びが必要だということだ。それができないならば、自ずから哲学的な第4番か、はじめから若々しい1番や2番の協奏曲を選んだほうが無難なのだ。

しかし、チョ・ソンジンに関しては、その心配は不要だった。オーケストラのつくる緻密にして、ダイナミックな動きにしっかり乗って、ぶれない表現の堅固さがある。特に驚くべきことは、ゆったり伸びる最弱音の輝かしい響きであり、そこから漸次、織り上げられていくフォルムの柔らかい推移である。こうした表現は、彼以外の誰にもできなかった芸当であり、チョ・ソンジンの優勝を揺るぎないものとして、私たちに印象づけるもとになっている。2位以下の順位づけはいかようにもなり得たと思うが、チョ・ソンジンの優勝だけは、誰にも動かすことがでなかったにちがいない。

特に、動きの激しいフィナーレにおいて、あるときは囁くように、またあるときには歌うように、はたまた別のときには力強くうなるように、そして、最後は素朴にして、雅やかに・・・といったように、様々な表情でロンド主題を歌ったチョ・ソンジンのパフォーマンスは圧巻だった。

【ホ・ジェウォン、キム・ヒョンジョン】

あとに、2人のピアニストが残った。結果的に3位となったホ・ジェウォンは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を選んだが、彼にとっては新しい挑戦というところだったようである。それは事後のインタヴューに書いてあるわけだが、演奏からも、それは明らかに読み取れた。冒頭、先述したような音色のキレを端的にアピールし、一気に聴き手のこころを掴んだホであるが、その後の展開はいささかパッとしない。全体的に、オーソドックスなフォルムをきれいに浮かび上がらせているが、まだ、思いきって自分らしいフォルムをつくるところまでは至っていないのは、素人目にも明らかだった。

キム・ヒョンジョンはこれまでのラウンドどおり、18歳らしい瑞々しい演奏で、聴き手を惹き込んでくれる。物怖じすることなく、大胆に強拍を打ち、鋭い傾斜を打っていく演奏スタイルは、とにかく聴き手を気持ちよくさせる。指導者のカン・チュンモも言うように、彼女はコミュニケーション能力という点において、この6人のなかでも図抜けた特質を示している。大げさなことを言えば、それは世界の人気者、ラン・ランを思い起こさせるようなパーソナリティである。

しかし、演奏自体はフォルムのつくり方があまりにも稚拙で、まだまだ子どもっぽい点が多く残っている。その点、既に述べたような、「皇帝」を選んだリスクから免れていない。特に、今回のように3人も同じ曲を弾くというなかにあっては、その幼さが目立ってしまったのは止むを得ない。雄大なスケール感のある将来性を加味しても、第5位という結果は順当だったのかもしれない。

【まとめ】

なお、既に聴衆賞についてはガサノフの受賞について触れたが、特別賞については、次のようになっている。聴衆賞の設置は、コンペティションを支える聴き手とのコミュニケーションという観点から、最近のコンペティションでは当たり前のように実施されてきているが、浜松では第7回目にして初めて創設されたもの。

 ○日本人作曲家演奏者賞(西村作品):チョ・ソンジン
 ○同(権代作品):アレッサンドロ・タヴェルナ
 ○奨励賞:尾崎有飛
 ○聴衆賞:エルマール・ガサノフ

今回、優勝したチョ・ソンジンは、今春におこなわれた浜松国際ピアノアカデミーの修了生で、最後のコンペティションでも優勝している。同アカデミーは非常に幅広い実績を誇り、このコンペティションでも、前回のゴルラッチにつづいて、アカデミー修了生の優勝がつづくことになった。財政難のため来年以降の開講は微妙となっているのが残念だが、この快挙を期に、再び支援が集まることを祈りたい。毎年のアカデミーの開催は、コンクールを囲む浜松市民にとっても、ピアノとの重要な接点だったと思うからである。

しかし、アカデミーのコンペティションで聴くかぎりでは、今日の彼の姿は、まだ想像できなかった。あれから、半年ちょっとが経ち、それでも、まだあどけなさを残していた本大会第1次予選に始まり、関門を通過するごとに自信をつけ、驚くような成長をみせたことも、優勝の一因であろうと思う。チョ・ソンジンはまだ若いので、これからたくさんの可能性がある。ショパン・コンクールへの挑戦も視野に入れているらしいが、3次のスケルッツォを聴くかぎりは、そちらでも大暴れが期待できる。

ただし、早期からの活躍は、ピアニストにとってリスクでもある。決して頭打ちの才能ではないと思うので、じっくりとキャリアを形成していってもらいたいと願う。

一方、「若手のピアニスト」というにはすこし年齢が来ているガサノフは、そうも言っていられない。現在、ピアニストとしてのキャリア形成は実に難しくなっている情勢だが、これだけの個性あるピアニストが世に出られないのはマイナスだ。私にはどうしようもないことだが、なんとか、音楽業界のみなさんに頑張ってもらいたいと願う次第である。

最後は、こんな記事になったが、既に述べたように、ここまでに落選したコンテスタントたちのなかにも、将来を嘱望される才能が多く発見された。彼らの一人一人に向かって、もういちど御礼の言葉を述べて、今回のリポートを閉じたいと思う。なお、会場で売られていたという録音CDだが、全ラウンド、全演奏者のものを網羅して、公式HP上からネット販売で買い求めることができるようになっていることを付記しておく。

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