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2009年12月24日 (木)

ヴァンスカ ベートーベン 第九 芸劇マチネー 12/23

年末の「第九」合戦はいまや日本の風物詩となっているが、今年の読売日本交響楽団の「第九」は、ヴァンスカを指揮に数年がかりで進めてきたベートーベンの交響曲ツィクルスの最終回として、特別の意味をもつ。今回は、芸劇マチネーシリーズの模様をリポートする。なお、合唱には、3年連続で新国立劇場合唱団を起用した。コンマスは、藤原浜雄。

【知将のベートーベン】

オスモ・ヴァンスカは、ミネソタ管でもベートーベン・ツィクルスをおこない、BISが録音している。そのプロジェクトを日本では読響を相手に披露してきたわけだが、私は最終回にして、これが最初だ。このシリーズを通してのことなのかわからないが、今回は、ヴァイオリンが向かいあう対抗配置で、チェロとコントラバスを第1ヴァイオリンの隣に置く「対向両翼配置」を採用していた。「ピリオド演奏」の一環として、すこし前に頻りに試された配置だが、最近では、むしろ珍しい。

序奏のピアニッシモはわりあいにはっきり始め、骨組み重視の姿勢は、最初から窺われた。ヴァンスカは、要所でためてエネルギーの流れをコントロールしたり、轟然と吼えるような場面をつくらずに、非常に上品なフィルムを織り上げた。ある種の趣向からいけば、まったく面白くない「精神性に欠ける」演奏だろう。しかし、そのような偏見を捨てれば、響きの結びつきに着目した知的な演奏であり、室内楽的でもある楽団の特徴がよく表れているように思われる。

ミネソタ管の録音と比べるならば、造型の鋭さはいささか抑えめであるが、その分、素材のひとつひとつを磨き上げた繊細な演奏だったということができる。日米のオーケストラ演奏の特徴が、そのようなちがいになっているのだろうか。彼の録音で非常に特徴的なのは、ぶれなくツーと伸びて、音符の最後まできれいに吹かれる管楽器の響きを横軸に、そこに鋭く絡みついていくノン・ヴィブラート・ベースの弦の鋭い縦軸がぶつかり、ファンタジックに拡散するときの煌きである。読響での実演では、そこまではっきりしたフォルムは出ていないが、いつもよりも拍節感が明瞭であり、楽曲の進行はきわめて快適で気持ちがいい。

ティンパニーの剛打が目立つ第1主題の再現部をみると、スクロヴァチェフスキのときは(2005年末)、スフォルツァンドで雷鳴が轟くような強い響きを得ていて、いまでも印象的なのだが、ヴァンスカはここに頂点を置くことなく、再現部のなかの1エピソードとしてしか見做さない。そのため、つづくpへの流れがむしろ重視され、第2主題の再現以降の流れがより引き締まって聴こえるのが特徴となる。コーダおわりのバッソ・オスティナート以降の展開は、渦巻くような響きが絶妙の重みを伴って浮かび上がり、ここに正真正銘のクライマックスが来るように導かれていた。

このようにすると、やや冗長な感じのある第1楽章に過度な山谷がつかず、自然な起伏のなかへコンパクトにまとまって、演奏全体が無駄なく、引き締まるように思われないだろうか。ヴァンスカの演奏ではあちこちにクライマックスを設定せず、構造に基づいて的確に盛り上がる部分だけをしっかり膨らませることで、楽曲の全体像がもつ均整を、ごくナチュラルに見せているのである。

【感動的な第3楽章】

特筆すべきは、第3楽章だろう。アダージョの部分で目立つのは、ファゴットおよびホルンの吹く、ふくよかな通奏低音だ。さらに、これは低音弦のピッチカートに役割が引き継がれ、交代しあいながら、温かいフォルムを織り上げていくもとになる。とりわけ弦のピッチカートのつくるふうわりした響きのなかに、軽く浮かぶかのような管楽器のアンサンブルの柔らかさは、こころに残る。

第2変奏のあと、ホルンのソロ的な部分が出るところから、緻密なアンサンブルが組み立てられていくのも印象ぶかいが、このなかで第1ヴァイオリンの動きを強調し、ここを非常に明るい響きでつくるのがポイントになる。そのまま金管が主体となるクライマックスに移るが、自分以外の全体を受ける第1ヴァイオリンを骨太に造型することで、スッキリした流れができあがっていたのも面白い。この流れは2度つづくが、特に最初のヴァイオリンの動きがきわめて印象的で、ヤマ、タニ、ヤマと刻むうちに、美しい曲想がじんわりと染み入ってきて、涙がこぼれた。

【第4楽章】

終楽章は序盤、重要な役割を担う低音弦の動きがカギとなるが、ヴィジュアル的にも左翼にガッシリと固まったチェロとバスの響きに一体感があり、回想と打ち消しの役割が非常に明瞭であったように思う。この部分はアルブレヒトが(2006年末)、コントラバスを押し出した響きで奥深いカンタービレを引き出したのが記憶に残るが、それと比べると、やや歌は硬い。しかし、その分、岩のように凝縮した響きの峻厳さも捨てがたいものがある。歓喜の歌の旋律は素朴で、飾りのない歌いまわしがいい。

コーラス付きの部分は、バリトン独唱による導入部の直前がやや軽めに演奏され、愛らしいのが特徴となる。宮本の独唱から合唱が入る部分のバックの響きも、非常に爽やかなサウンドで、宗教カンタータのようなサバサバした響きで、マーチの軽い質感と、宗教曲風の典雅な雰囲気に、いささか子ども地味たようなアイロニカルな柔らかさが混合し、独特な響きが展開する。

4人のソリストは、ここのところ固定的なメンバーになっているが、今回は全体に低調な印象だ。合唱も、序盤はやや抑え気味。’... vor Gott!!’のフェルマータでフル・ヴォイスを使わせ、新国合唱団の「第九」デビューを熱く印象づけた下野とちがい、ヴァンスカは、まだ手綱を緩めたままだ。アラ・マルチャのテンポは速いが、ここのところのトレンドに見られるほど極端ではない。中鉢のテノール・ソロは歌のフレージングが悪く、だらだらとつづく感じになっている。その後は、マルチャのイメージが、全体につよく表れる演奏となった。

その後は、既に述べたように、マルチャ的な部分と宗教的なカンタータと、おもちゃ箱をひっくり返したような部分が交互に表れる。特に、その性質は金管の使い方と、合唱によく表れている。合唱のクライマックスは、二重フーガ直前にffとppで歌われる’über sternen muß er wohnen’に来ており、特に、ppにおいて活き活きと輝くのが面白い。そのあとの部分は仰々しくなりやすいが、流れがすっきりして、この部分は録音よりもいいように思う。プレスティッシモの前の四重唱はすこし汚いといえそうだが、それでも互いが巻きつくようなユーモアがあり、くすっと笑わせられる。

プレスティッシモのフィナーレは、再びオーケストラに主導権が戻る感じである。合唱が歌いおわってからしまいまでの20小節が非常によく、結局、この短い部分にこそ、ベートーベンが最後に辿り着いた場所が見えるとでも言いたげな演奏であった。しかし、それは単に「高みに至る」というイメージではなく、もっと重層的な音楽の広がりを意味しており、特に、可愛らしいというイメージを付け加えたところに、ヴァンスカの音楽性の優しさがあるように思えてならない。

【まとめ】

今回の演奏自体は、ヴァンスカの場合、もっと手間をかければ上をめざすことができそうな感じもあるので、まだまだ頂点を見せていないものとして、このレヴェルでも8割方であったと評しておきたい。しかし、それは無論、演奏に不満足とか出来が悪いという意味ではなくて、それほどヴァンスカの抽斗が奥深いのだという意味で解釈してもらえるとありがたい。

読響の第九は、アルブレヒト&下野→スクロヴァチェフスキ→下野→ノイホルトと受け渡してきて、途中で新国合唱団も応援に加わりつつ、ひとりひとりの指揮者が+αを付け足していく演奏が続いたわけだが、今年は、またすこしアプローチが変わって面白かったのではなかろうか。今回のレヴューでも、このうち3人の名前が出てきたわけだが、今後、読響の第九を語る上では、ヴァンスカの名前もまた、必ず呼ばなければならなくなるだろう。

ただ、残念なことに、来年は私の評価しないヒュー・ウルフということで、期待薄である。

とはいえ、最終的に、「第九」コンサートを聴きにいくと、自分はもう、気持ちよくなってしまっていけない。舞台のうえで歌ったことはないけれど、多分、すこし練習すれば歌えると思うし、いつも声にこそ出さないものの客席で歌っているから、演奏を「聴く」という感じではないのだ。極上のカラオケが流れているのだから、これはもう、徹底的に楽しい。しかも、日本のオケは毎年やっているだけに、「第九」に関する限り、世界のオーケストラと比べて遜色ない演奏をしてくれる。これはもう、日本の文化ではなかろうか?

【プログラム】 2009年12月23日

 ベートーベン 交響曲第9番「合唱付き」

 chor:新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤 洋史)

 S:林 正子 Ms:林 美智子 T:中鉢 聡 Br:宮本 益光

 コンサートマスター:藤原 浜雄

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