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2010年1月 6日 (水)

ベートーヴェン弦楽四重奏曲 中・後期9曲演奏会 @東京文化会館 12/31

大晦日、標記のコンサートを聴いてきました。ラズモフスキー・セットと、後期の6曲の作品を、3つのクァルテットが分担して演奏する試みです。

【ルートヴィヒ弦楽四重奏団】

ルートヴィヒ弦楽四重奏団は、このイベントのために組まれたクァルテットで、第1ヴァイオリンが大フィルの首席コンマスである長原幸太と、読響コンマスの小森谷巧、ヴィオラが読響ソロ首席奏者の鈴木康浩、チェロが東響の元首席でフリー奏者の山本祐ノ介というメンバーになっています。今回は、ラズモフスキー・セット3曲を担当しました。

昨年は、技巧的な面で高度なレヴェルをみせながら、室内楽としては物足りないという演奏で済んでいましたが、今年の3曲は酷かったです。わりによく弾けている部分と、そうでない部分の差が激しく、訓練が行き届いていない部分では、鈍感な私のようなものが聴いてもわかるぐらい、音程がメチャクチャでした。「ラズモフスキー第3番」のフィナーレなんて、勢いだけは素晴らしいけれど、あちこちで外しまくって方向を失っていました。

総じて、緩徐楽章は良かったです。非常に丁寧な響きの受け渡しがみられ、4人のソリスティックな魅力が控えめな形とはいえ、よく表れており、響きの透明さが際立っていました。特に、ヴィオラの鈴木のつくる、ヴィオラの音色の深さが目立ちます(それだけに、もっと主張してもいいと思う)。もっとも素晴らしかったのは、「第1番」のアダージョ楽章から、間断なく第4楽章のロシア主題が導入される冒頭部分までの流れです。ベートーベンが雪国の風景に想像力をめぐらして、艶々した響きを使いながら、丁寧に響きを組み立てていったのがよくわかる演奏でした。ところが、第4楽章で繰りかえし表れるロシア主題が次第次第に崩れていくのを見て、その部分を特に愛する私は、なんとも悲しくてならなかったものです。

オーケストラでも、強奏するときに美しい響きのフォルムを保つのは難しいのですが、弦楽四重奏曲ともなれば、その問題はさらに大きくなります。例えば、ソウルの歌い手がどんな風に声を張り上げるかということで特徴づけられるのと同じくらい、そのことだけでクァルテットの特質を語るものだと言えます。残念ながら、ルートヴィヒSQの音楽は、その点において赤子同然でした。弱奏はオケをやっているメリットが出ていますが、強奏への切り替えは常に雑であり、響きのつくり方もワン・パターンで見るべきものがないのです。特に、第1番・第2番でファーストを担当した長原の響きが汚く、ガサツなのにはストレスを感じました。

やはり、ラズモフスキーのような大曲は、片手間ではできないのでしょう。オケでは、たった数回の通しで本番ということも、稀ではないでしょう。しかし、クァルテットでは、それは通用しない。あとから本物のクァルテットが2つ出てきますが、彼らの演奏とルートヴィヒの演奏を比べれば、大人と子どもであります。ましてや、何十年と活動をつづけたクァルテットでさえ、口を揃えて難曲であるというラズモフスキー・セットを弾くことに無理があります。

【クァルテット・エクセルシオ】

しかしながら、ルートヴィッヒSQの低調なパフォーマンスは、予て想像のとおりでしたから問題ありません。次は、我らがクァルテット・エクセルシオ(エク)。一応、ベートーベンの弦楽四重奏曲ツィクルスを終えた直後だけに、個々のキャリアからいけば追いつくはずもない、ルートヴィヒSQのメンバーの演奏と比べても、こと弦楽四重奏曲に関する限り、明らかに(はるかに)上を行っているのがわかります。

これは古典四重奏団の演奏とも共通し、エクの定期演奏会でのベートーベン演奏とも符合しますが、彼らのベートーベンは実に柔らかい。ルートヴィヒSQのメンバーは、もちろん、主にシンフォニーをやっているから、このように柔和な表情のベートーベンは想像がつかないのでしょう。

彼らは定演のときと同じく『大フーガ』を1曲として演奏し、つごう3曲を演奏しましたが、そのなかでも第12番の演奏が素晴らしかったと思います。この曲では第1ヴァイオリンの牽引力を認め、それを全体が守り立てていくスタイルを採用しています。そのため、西野の役割が特に注目されますが、伸びやかな響きをもつ彼女の特徴がよく表れた演奏であったと思います。今回、全曲を通じて大友のチェロは、こころなし抑え気味。ポジションも定演のときとはヴィオラとチェロが入れ替わり、第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・チェロ・ヴィオラという形に戻してきました。内声は無駄な動きを排し、コンパクトでスタイリッシュなボウイングを採用し、それが楽曲の造型にも表れているようです。

もともと第2楽章が長い曲ですが、今回、非常にゆったりした音楽づくりで、響きをじっくり味わわせる大人の演奏をしてきましたが、そんなところにも、エクの成長を感じとることができます。1本1本の楽器が大事に時間を刻み、その真剣な音楽づくりに思わず涙が湧いてきます。スケルッツォはポルタメントを上手に使い、柔らかく麗しい流れをつくり、独特の味わいをもたせた演奏でした。また、そのことはレガートの効いたプレストのトリオとの関係で、対比的な効果をもたらしています。フィナーレは後半、さすがに西野がすこしタレた感じもありましたが、決して緊張感のない演奏ではなかったと思います。ダイナミズムを過度に強調することなく、キビキビした音楽の流れを訴えて、鮮やかな演奏になっていました。

最初の曲ほど素晴らしい演奏とはいえないけれども、第13番の演奏も充実した演奏であったことに変わりはないでしょう。この曲では第1ヴァイオリンの優位に基づく第12番の演奏とは異なり、4人の対話力がより重視された演奏になっていました。歯切れの良い第2楽章のプレストの演奏はひときわ爽やかで、第4楽章のアラ・ダンツァ・テデスカのナチュラルな舞踊のイメージは、その底部に奥深い研究のあとが窺えます。適度な重みのかけ方や、楽器間のやりとりに見られる微妙な間合いは、何度も弾き込んだクァルテットだけが得られるものであると思います。

最後の『大フーガ』(op.133)は、11月の定演でも取り上げた曲ですが、前半は、今回のほうがエレガントな流れになっていたけれど、後半は、やや集中力が散漫になって焦点がぼやけた感じがしないでもなかったです。この曲は、どんな一流のクァルテットでも完璧という演奏はあり得ないのですから、それもご愛嬌というものでしょう。

【古典四重奏団】

トリは、ベテランの古典四重奏団(クラシコ)です。彼らの演奏に接するのは初めてではないのですが、第1ヴァイオリン・チェロ・第2ヴァイオリン・ヴィオラという「対向配置」をみると、いつも、すこしだけ驚いてしまいます。あと、譜面を立てないのもいつもどおり。演奏自体も、完全に自分たちらしいフォルムをもっている古典四重奏団は、より古いスタイルをつよく意識した「古典派」としてのベートーベンを、しっかり描きあげました。

第14番の第1楽章における4本の楽器の音色の美しさは、さすがにエクとはキャリアがちがうというところを見せつけたように思います。特に、田崎のチェロが非常に深い響きを発し、魅力的でした。このクァルテットのスタイルとして、チェロはあくまで黒子に徹するという方針になっているようですが、私は、田崎がもっとフロントに出たほうが、クラシコらしい響きが生きてくると思っています。この曲では、エクにおける第12番の演奏と同じく、第1ヴァイオリンの川原の動きが、何といってもカギを握ります。その点、この曲においては彼女のヴァイオリンの清々しい音色が終始、魅力的だったといえます。

第15番は周知のとおり、第2楽章の作曲をほぼ終えたあと、腸カタルで死病に瀕したベートーベンが奇跡的に復活し、その体験が曲想に生かされているという稀有な作品です。第3楽章、モルト・アダージョには「病が癒えた者の・・・」、アンダンテには「新しい力を感じて」と書き添えられた主題があることはよく知られています。ただ、今回の演奏では、この部分があまりに重すぎたのではないかと感じています。アンダンテにおいてはテンポも落としすぎですし、アダージョでは響きに教会旋法的な面を強調しすぎているあまり、フォルムがガチガチになり、変奏も身動きがとれない感じになっていて、窮屈に感じられたからです。これで、「A-B-A-B-A-(コーダ)」的な展開を聴き通すのは、なかなか根気が要ります。

最後は、ベートーベン最晩年に辿り着いたシンプルな形式の作品ですが、こういう曲を聴くにつれ、クラシコの欠点というのが、私には見えてくるのです。よく弾けているとは思います。でも、曲のつくり方がワン・パターンで、予定調和的なものに思えるのです。彼らの演奏には、「そうでなければならないのか?」「そうでなければならない」という迷いはありません。すべてが決まりきった形で、粛々ときまっていくからです。ゆえに、それ以上のものがなかなか出てこない。クラシコの演奏にはいつも感心させられますが、それでも私は、彼らの音楽に感動したことは一度もないのです。

このようなシンプルなナンバーであればこそ、もっと自由な発想というのが出てこなければならないし、それが出てくるようにベートーベンは書いているはずだと思うのです。

【まとめ】

なんといっても、難しい企画です。どんな経験豊富なクァルテットでも、ベートーベンの規模の大きな作品を3つやれと言われれば、そう簡単にはいかないでしょう。それを、この忙しい師走の最後の日にやるのだから、なかなか満足なものは聴けません。そのなかでも、この3組はよく頑張っていると思いますけどね。でも、できれば、ルートヴィヒSQは交代してほしい。急造クァルテットで、ベートーベンのラズモフスキーとか、後期の骨っぽい作品をやるのは無理です。

しかし、それでもあっという間に時間はすぎました。時間はやや押して、終演が21:30分ごろでした。開始から7時間半。休憩時間が細々と90分あるのですが、それでも、時間は早くすぎたという感覚です。ベートーベンの室内楽は本当に中身が濃いし、クァルテットの良し悪しや、作品へのコミットの深さもたちどころに暴いてしまいます。こういうイベントが、年に1回、しっかり繰り返されているのはとても意義深いことだと思います。

【プログラム】 2009年12月31日

○ルートヴィヒ弦楽四重奏団
1、弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」 op.59-1
2、弦楽四重奏曲第8番「ラズモフスキー第2番」 op.59-2
3、弦楽四重奏曲第9番「ラズモフスキー第3番」 op.59-3

○クァルテット・エクセルシオ
4、弦楽四重奏曲第12番 op.127
5、弦楽四重奏曲第13番 op.130
6、弦楽四重奏曲「大フーガ」 op.133

○古典四重奏団
7、弦楽四重奏曲第14番 op.131
8、弦楽四重奏曲第15番 op.132
9、弦楽四重奏曲第16番 op.135

 於:東京文化会館(小ホール)

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