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2010年1月15日 (金)

中野ひかり サントリーホール オルガン・プロムナード・コンサート

サントリーホールで、オルガンを聴いてきました。「オルガン・プロムナード・コンサート」は12:15分に開演し、僅かに30分程度でおわる無料コンサートです。演奏者は中野ひかりという女性で、東京藝大からリヨン・コンセルヴァトワールに学び、ジャン・ボワイエに師事した経歴をもち、現在は、アクトシティ浜松の副オルガニストの任にあるそうです。

ところで、私は正直いうと、オルガン奏者の良し悪しというのはよくわかりません。オルガンの生演奏に接した経験が少ないこともありますが、楽器自体が大変に魅力的であるため、よほど様式観もなにもないようなチグハグな演奏でもない限り、それなりに満足してしまうからでもあります。そうはいっても、この日の演奏は、実にしみるものだったと言っておきます。ほんの30分ばかりのコンサートながら、こうして書いてみたくなるほどに、私は感動しました。この中野ひかりという奏者は、なかなか優れたオルガン弾きといえるのかもしれません。しかし、彼女がどうというよりは、オルガンという楽器の魅力を実につよく実感した日として、この日は記憶されるのではないかと思います。

短時間ながら、構成も気が利いていました。今回演奏されたのは、J.S.バッハの『前奏曲とフーガ BWV546』を中心に、バッハ、ヘンデル、ベームによる曲目です。まず、バッハの『汝にこそわが喜びあり BWV615』が演奏されました。祝祭的で壮麗な曲ですが、サントリーホールのオルガンの音色がもつ特性か、中野本人の演奏によるものか、穏やかではあるけれども、内省的で、深い信仰心を感じさせる演奏で、ぐっと聴き手のこころを引き寄せます。

2曲目は、ゲオルク・ベームの『天にましますわれらの父よ』という曲でした。マイナー・コードながら、甘く、哀切な旋律で優しい気持ちを導いてくれます。低音を効かせた導入部分の深い音色と、中音域での自然な歌いまわしの構造美が、柔らかく示されるとともに、奥行きある作品の味わいをじっくりと醸し出していました。ほの暗い雰囲気から、じんわりと信仰の安心感に転じていく筆致が、丁寧に辿られています。3曲目となる、バッハ『最愛のイエスよ、われらここに集いて BWV731』は、牧歌的な優しさのある旋律がそのまま信仰の安らぎに通じていく様子がわかりやすかった演奏ではないかと思います。

前の曲とは対照的に、メインの『前奏曲とフーガ BWV546』は威圧的ともいえる壮絶な歌いだしから、スケールの大きな展開をみせるわけですが、どちらかといえば、前の曲の牧歌的な雰囲気がバッハ本来の表情で、この曲は、バッハの「表の顔」であるという風に感じられます。演奏自体は、「表の顔」に相応しく外向的な、発信力に満ちたテンションの高さが特徴となりましょうか。対位法の構造を柔らかく追いかけながら、7分ちかくあるプレリュードを退屈させずに演奏したのは立派だと思います。一方、フーガは分厚い包容力をもった演奏ですが、どちらかといえば、響きの広がりを絞りこんだたヘルシーな演奏で、好感が持てます。後半、曲調の変わり目でギアを入れ替えて、より深い響きに切り込んでいくところが見せ場となっていました。

最後は、ブライアン・へスフォードの編曲によるヘンデルの歌劇『セルセ』の有名なアリア『オンブラ・マイ・フ』のラルゴの部分。ドラマティックなオペラ・アリアの世界は、バッハと比べると軽妙な雰囲気をもち、事実上のアンコール・ナンバーとして相応しいものでしょう。後半は感情が高鳴るように盛り上げ、フェルマータも多めにサーヴィスして終わりました。

オルガンの歴史は古く、かなり以前から人々にとって格好の娯楽となってきた楽器であるとされます。そのことは、今回のコンサートで実感できました。たった30分で、こんな素敵な喜びを与えられるのだったら、これといった娯楽のない昔、この楽器が人々にとって、どんなに親密な存在であったかは想像に難くないのです。それがわかったからというわけではないけれど、思わず涙してしまった瞬間が何度もあったものです。

ふらっと訪れたコンサート・・・それなのに、こんなに胸にしみるものになるとは驚きでした。

【プログラム】 2010年1月14日

1、バッハ 汝にこそわが喜びあり BWV615
2、ベーム 天にましますわれらの父よ
3、バッハ 最愛のイエスよ、われらここに集いて BWV731
4、バッハ 前奏曲とフーガ BWV546
5、ヘンデル/ヘスフォード ラルゴ(オンブラ・マイ・フ)~歌劇『セルセ』

 於:サントリーホール

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