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2010年5月 7日 (金)

ラ・フォル・ジュルネ リスト:十字架への道 エンゲラー & ローザンヌ声楽アンサンブル 【344】 5/4 ホール:C

つづいては、リスト『十字架への道』の詳しいリポートです。この作品、ほかに比べるものがない独特の作品で、言ってみれば、ちっちゃな受難曲なのですが、テキストも音も必要最小限しかなく、とかく派手な編曲ものなどがよく知られているリストの作品のなかでは、特異ともいえる位置を占めています。よっぽど、リストは信仰心に厚い作曲家で、自ら法衣をまとったほどの人物です。その点では義子となるワーグナーよりも素朴な共感を持っていますし、宗教的な作品も多く遺しています。

この『十字架の道』は無調的な作品ではありますが、それは新ウィーン楽派的なそれとは一線を画し、信仰心に基づくシンプリシティの極致であり、ベースには旋法的なものの利用も指摘されています。

今回の演奏は、既に述べたように、この作品を録音済みのアクサントゥス合唱団に代わり、ローザンヌ声楽アンサンブルが歌い、ソリストも、バリトンのファブリス・エヨーズ、メゾ・ソプラノのヴァレリー・ボナールともに、アンサンブルのメンバーです。美しい発声と、いかにも信仰心に満ちた丁寧な歌いくちは十分に及第点であり、「言葉のうちに込める内面の奥ゆかしさというのは、ローザンヌの決定的な素晴らしさ」であるという点については、速報記事にも述べたとおりです。しかしながら、そのフォルムはピアノほど練り込まれているわけではなく、別の宗教曲に取り替え可能ではないかという部分はどうしても残ります。

例えば、アクサントゥスの録音を聴いた場合、個々の声質にインディペンデントな粒立ちがあり、非常に古い声楽曲のもつような雰囲気が醸し出されます。それがピアノのときに獰猛な動きや、逆に、小さく呟くような響きと調和して、まったく不思議な雰囲気に仕上がっています。エンゲラーのピアノは、そこでつくり上げたイメージを踏襲しており、例えば、連続する’Jesus cadit’を導く定型のパッセージと’Stabat mater dolorosa’を導くそれとでは、まったく意味合いが異なっていることがハッキリ表現されていますし、もちろん、別のどれか宗教的な作品と置換可能な要素は何ひとつないことも、彼女の弾くピアノの音からしっかり伝わってきます。

合唱の間奏曲的役割、もしくはレチタティーボ的な役目を果たす独奏は全部で4つの部分がありますが、特に生で聴いて印象的だったのは、「イエスは服を脱がされる」の部分でした。高く空間に立ち上っていく響きは、単に「脱がされ」て、それが福音書の書くように刑吏たちの間で分けられるという具体像には結びつかず、衣服が霊的にとろけて、煙のように天に吸い寄せらていくようなイメージを感じさせます。このあたりは、エンゲラーのピアニズムのマジックなのでしょう。

また、このあとイエスが息絶えるとき、この作品のなかではもっとも饒舌にリストが音楽的構造をつくる部分(すべては成し遂げられた、の直前)での表現は、さすがに素晴らしかったと思います。

ところで、全体を通して、この作品の隠れたテーマは沈黙のなかにあるのではないでしょうか。西洋音楽はのちに現れる日本人のグループや、その他の例外を除いて、基本的には五線譜を何らかの形で埋めることで、作品を構成しようとする傾向があります。ベートーベンのように、休符の大事さがしばしば語られる作曲家もあるにはあるのですが、そうした作曲家の作品でさえ、この作品ほど余白の重みを噛みしめる作品は少ないと思います。『十字架の道』の著しい特徴は、こうした余白と書かれた部分の豊富な対話に集約されています。例えば、先程の’Jesus cadit’と’Stabat mater dolorosa’のフレーズの間には、必ず切れ目があり、そこから絶妙の間合いで響きが出てくると、それこそ神的なエクスタシーを感じるようにできています。

こうした手法は、のちのメシアンなどの一派に、引き継がれているようにも思われます。

速報記事に書いたように、ローザンヌ声楽アンサンブルの女声がプアーだったのは、上のような「沈黙」の部分に対する感覚であると思います。絶妙の間合いどころか、アイン・ザッツすらピタリとあわないのでは、作品のうちにあるひとつの・・・否、この作品でもっとも重要なモティーフのひとつを損なうことになります。一方、例えば終曲で、ボナールのリードを合唱が追いかけるような構造をつくる部分では、普段から気心知れた仲間どうしだけに、非常に効果的な融けあいがみられたと言えます。アーメンのあと、’Ave Crux,Ave Crux’と歌って演奏を終える部分は、素朴な信仰心がのって感動的でした。

いずれにしても、作品の独特の価値というのは、そこにいた誰もが感じたはずの演奏会です。今度はいつ聴けるかわからない曲ですが、何度も聴くことで本当の価値がわかる作品ではないかと思います。

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