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2010年5月30日 (日)

ミロ・クァルテット クァルテット・ウィークエンド Festa 第1日 5/29

将来の日本で、生き残ることができる可能性が高いクラシック音楽のジャンルは室内楽です。しかし、日本の聴衆は気宇壮大なものからありがたいと思う傾向にあり、例えば雑誌では、ウィーン・フィルがしょうもないパフォーマンスをやってもカラー・ページが用意されるし、珍しいオペラ公演となるとやたらに話題となって、チケットが売れる。一方、世界的に著名な弦楽四重奏団が来ても、ほとんど記事にならず、フェアウェルのような特別なコンサートでさえ、ホールがいっぱいになることは稀です。

そのなかで、第一生命ホールを拠点とするトリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)の企画は、この大東京でも、きわめて貴重な機会になっています。そこでは世界のトップを目指し、現に、確実にその周辺を走っているクァルテットが呼ばれ、そのグループ自身の考えた企画でシリーズが組まれます。今回は、NYのリンカーン・センターのレジデントも務めるミロ・クァルテット。米国の楽壇で若手から中堅に入ったグループのなかでは、もっとも完成度が高く、勢いのあるグループです。

【過ぎたるは及ばざるがごとし】

Festaと呼ばれるシリーズの1日目に足を運びましたが、この日は、もっとも保守的なオール・ベートーベン・プログラムでした。まずは、弦楽四重奏の基本単位たるベートーベンのクァルテットのなかでも、演奏機会がさほど多くない初期の作品群から、(op.18-4)の演奏です。ミロQは前回来日時、この作品を含む(op.18)の6曲をまとめて演奏して話題になったと言いますから、そのときのアンコール・プログラムという意味もあったでしょう。

まず、クァルテットを聴く楽しみのひとつは、最初の一音に凝縮されます。逆にいえば、その印象がないクァルテットなどは論外でしょう。ミロQの場合は、驚くほどのマイルドな溶け合いと、それにも関わらず、高級な真珠のような粒だった輝きが融合した素晴らしい声でありました。かつ、アタックが大胆で、アグレッシヴであることが特徴的です。第1ヴァイオリンのダニエル・チンを中心に、極限まで磨きをかけた鋭い突っ込みが、このグループに対する最初の印象を形成します。

このような攻め方は、しばしば単調になりがちで、長持ちしないものです。しかし、ミロQの演奏は押し引きや切り替えの巧さが一方でなく、一見、ワン・パターンな動きにもヴァリュエーションをつけられる強みがあります。後期の作品と比べると、かなりシンプルな道筋をもつ作品ですが、彼らはクルクルと表情に変化をつけ、ゆたかな音楽性を導いていきます。

しかし、正直にいえば、前半の2曲に関しては、正にそのような長所において、ミロQの表現には粘りがなく、物足りないというのが私の感想でした。よりキュートな(op.18-4)では、それもまあ、許容範囲といえなくもないでしょう。終楽章の最後でプレストにちかいテンポが導入され、第1ヴァイオリンが切り離されたように強引なフォルムを描いて作品をぶった切るように終わるのも、ベートーベンの若気の至りとみれば不自然はありません。その楽章の冒頭から、作品はモーツァルトの「トルコ風」協奏曲(ヴァイオリン)のフィナーレを模して、野性的なフォルムが効いているわけですし、是非とも目立ちたかった若きベートーベンの必要性からみて、十分にあり得る演奏姿勢だろうとは思います。

では、『弦楽四重奏曲第16番』(op.135)の演奏ではどうだったのでしょうか。これも、ベートーベンの最後に辿り着いたシンプルさの境地を描くに、申し分のないパフォーマンスではありました。特に、レント・アッサイによる第3楽章の演奏は素晴らしく、前の第15番の「病の癒えた者より神への深い感謝」を通り抜けて、ダ・ヴィンチの描いた『ウィトルウィウス的人体図』のような、冷めた視点の美しさを、しかし、すこしも余すことなく丹念に歌い上げています。それなのに、あまりにもキビキビと先の構造を追っていくミロQの演奏は、その深く掘り下げた演奏姿勢にもかかわらず、底の浅いものに思えてしまったのです。

ベートーベンは、本質的にくどい作曲家といえます。終わりそうで終わらず、いちど捉まえたイメージをなかなか離そうとしない。例の「病が癒えた者・・・」の楽章だけで、17-8分もしぶとく頑張っているぐらいです。それと比べれば、この最後のナンバーは随分とスッキリしています。あるいは、モーツァルトやハイドンのいた境地に立ち返っていると見ることもできるでしょう。しかし、それにしても、「かくあるべきか」の自問に対し、「かくあるべし」と開きなおって、確信に満ちて編み出したモティーフはよりしつこく扱うべきと考えます。その点、ミロQの演奏は手が込みすぎていて、かえって印象を拡散させるという弊を犯すものであったと思われます。

【後半は粘りがあった】

ところが、後半に演奏された「ラズモフスキー第2番」においては、このような弱みは感じられません。

このクァルテットの特徴は、第2ヴァイオリンに流麗なカンタービレを持つ奏者(山本サンディー智子)を置いていることで、その素晴らしさは、ときどきファーストとセカンドの役割を入れ替えているかのように聴こえることからもわかるでしょう。そして、内声を第1ヴァイオリン、チェロと同様に浮き立たせた書法を確立したとも言われるベートーベンのスタイルを典型的に彫りこんだ「ラズモフスキー第2番」の演奏では、これが見事に嵌っているといえそうです。

第1楽章は、冒頭から構造の立ち上げ方が柔らかいのですが、それにもかかわらず、造型がシャープで、ユーモアがあります。第1ヴァイオリンのリードに対して、立体感のあるチェロのベースという柱を立て、加えて、第2ヴァイオリンとヴィオラの絆が強いこともあり、前半の曲と比べて、全体のフォルムのリアリティが非常に高いといえます。前半の演奏にしばしばみられた小刻みな変化が少なく、よりシンプルな構造把握に基づいたエレガントな演奏が楽しめました。

このような特徴がさらに丹精に織り込まれ、白眉となったのはモルト・アダージョの第2楽章でしょう。ヴィブラート/ノン・ヴィブラートを構造にあわせて丁寧に選択し、その結びつきまでを繊細に計算して最高の響きを追究した演奏で、この出し入れだけを粘りづよくやることで、聴き手の注意をぐっと惹きつけるという正攻法でありながら、その効果は絶大なものです。私が求めていたものは、正に、このような表現でした。ここでベートーベンは、一音すら無駄にできないモーツァルト的な境地に迫り、それを内声のふくよかなカンタービレによって克服しているのです。第4番で見られた目立ちたがりやのベートーベンは、もういないのです。このアンサンブルでは、そのことがハッキリとわかるはずです。

スケルッツォは、第2ヴァイオリンの音程がややぶれたのを機に、若干、失敗(というには大げさだが)気味の演奏です。フィナーレは、再び原点に戻って大胆なアンサンブルづくりなのですが、ギャロップの構造はやや不徹底ですが、これは最終盤で一挙に解決されます。ライヴならではの瑕もありましたが、ハ長調での再現以降、コーダの情熱的なアンサンブルまで出来が良く、トレモロのシャープなフォルムを起点にして、しまいは現代のレパートリーまで見通すようなフレッシュな解釈で聴かせてくれました。

後半の「ラズモフスキー」はじっくり腰を据えた粘りのある演奏で、前半よりも共感の高い演奏でした。なにしろラズモフスキー・セットの3曲はそれぞれに難曲ですが、この2番は、1番のようにキャッチーな具体性があるわけでなく、第3番のように有無をいわせぬ構造美が屹立するわけでもない。内面的な象徴と、外形的なフォルムの清らかさが絶妙のバランスで噛みあって、はじめてアンサンブルが成り立つような骨っぽい作品です。その点で、今回のミロQの演奏は、多少の欠けるところを割り引いても質の高い演奏と見ることができます。

【まとめ】

非常にいいクァルテットであることは、間違いないと思います。しかし、室内楽というのは、オーケストラ以上に好き嫌いが激しく出る分野です。そういう意味で、私はミロQにこころから心服したかといえば、そうでもないように思います。例えば、昨年のカルミナSQに対して抱いたような疑いなき信頼は、ミロQに対しては、一旦、留保したいと思います。

しかしながら、クァルテットとして独特の、かつ、美しい声をもつこと。強奏における思いきったアタックと、弱奏における極限的な抑制、それらの押し引きの大胆さ。作品に対する深い彫りこみと、妥協のない研磨・・・といった、良いクァルテットの備えるべき条件は確実に備えています。いろいろ言いましたが、良いものを聴かせてもらったという感想は揺るぎません。下世話なはなし、これで3500円なのです。リーズナブルすぎますよ!

このあとは、30日:ジョージ・クラムらの作品。来月4日:ベートーベンの大フーガ付き弦楽四重奏曲ほか、5日:ブラームスとドヴォルザークのクィンテットとつづきます。好き嫌いは越えて、良いものを聴いたと思えるでしょう。オススメです。

【プログラム】 2010年5月29日

オール・ベートーベン・プログラム
 1、弦楽四重奏曲第4番
 2、弦楽四重奏曲第16番
 3、弦楽四重奏曲第8番 「ラズモフスキー第2番」

 於:第一生命ホール

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