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2010年6月 2日 (水)

仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 セミ・ファイナル 第3日 & 結果

前回に引きつづき、仙台国際音楽コンクールの映像配信、セミ・ファイナル第3日の映像をもとに、記事を書いてみたい。

【No.37 ワン・ジアジー 中国】

曲目:サン=サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番

指揮者のヴェロはフランス人ということもあり、やはりフランス音楽のツケには一日の長がある。そのバックがつくる最高にミステリアスな序奏に乗り、独奏ヴァイオリンが登場するのだが、ワンは深くて、重厚な音色である点はよしとしても、若干、横滑りする感じで入ってきた雰囲気である。その後の展開も決して悪くはないのだが、展開に乗りきっているようには思えず、質のいいバックの良さを生かしきるには、音色のゆたかさも細部の研ぎ澄ましも十分とはいえないようだ。

聴いていて目立った欠点はないものの、逆に、これはと思う美点も見当たらない。強いていえば、図太い表現を貫き通すことのできる精神的なスタミナの豊富さがある。これは単に、力押しということの裏返しではない。それは第2楽章のたおやかな表現をみれば明らかであるが、面白いのは、たとえ音楽がピアノであろうとフォルテであろうと、基本的な響きの厚みが変わらないということである。そのため、演奏は非常にタフで、粘りづよいものに感じられる一方、たとえ技巧的に安定感があっても、これ以上は伸びしろがなく、いっぱいいっぱいの表現である印象を免れないのであった。

ノン・ヴィブラートを基本のラインに置いた、第2楽章最後の部分には透徹とした美しさがあり、ここは悪くないように思える。それを伏線としたフィナーレは、シャープな音色を主体に置き、大胆なキメを刻み込もうとする。しかし、その工夫はやや恣意的なものに思えて、かえって聴き手の関心を放してしまうかもしれない。むしろ、回想的なエピソードにおける素朴なパフォーマンスにおいてこそ、彼女の良さは生きている。表現のなかにつきまとう欲を徹底的に排除して、もっとシンプルな構造を実直に追っていくことができれば、ずっとメリハリの効いた演奏になるにちがいない。

【No.16 クララ=ユミ・カン ドイツ/韓国】

曲目:メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調

音色や楽器の鳴りは素晴らしいと思うが、ときどき拍節感が薄くなってしまい、そういった部分では詩情も急速に減退する。楽曲の把握がしっかりしているが、ややバックにあわせすぎという印象もつきまとう序盤戦だ。しかし、タイトな響きがギリギリ美しく輝くという予選で感じた特質は、この作品によくあってはいる。思いきった踏み込みもあり、アクセル/ブレーキ・ワークをしっかり見せて、ダイナミクスを幅広く使っての立体性の表現は古くさいともいえるが、それなりに効果的だ。ただし、そのソット・ヴォーチェの表現が硬く、輪郭もハッキリしないのは残念である。

緩徐楽章は、ややくすんだ音色に特徴がある。ヴィブラートの扱いにもうひとつ原則が感じられず、共鳴の反対側を押さえて、響きを消すことを知らないハーピストのような演奏になっている(つまり、演奏者の意図とは関係なく、不随意の響きが残っているように感じられる)。そのため、全体が一枚画のように単一な風景となり、主部とトリオのちがいも明確でない。フィナーレは繊細な序奏がいいのだが、アレグレットにしてはやや遅すぎるだろうか。アレグロに入ると、今度は速すぎて、フレーズがほとんど潰れているうえに、構造観が出ていない。それ以上に、響きにユーモアが感じられないのが問題で、面白みのないヴィルトゥオーゾ・プログラムと堕している。

技術的にレヴェルが高い人ではあるが、そういう人には事欠かず、特に彼女である必要はない。労多くして功少なしの印象である。

【No.26 長尾 春花 日本】

曲目:バルトーク ヴァイオリン協奏曲 Sz112

バルトークは本当に表現の難しい曲なので、安易に選ぶと痛い目をみる。私は、長尾にこの曲が合うのかどうかは疑問だと思っていた。案の定、キム・デミの演奏と同じく、長尾の演奏も「語る」という要素が、まるで意識されていない。その分、彼女は徹底的に歌うという要素で、この作品を固めようとしているようだ。それはいわば、レチタティーボをカットして、アリアだけで進むオペラのようなもので、それはそれで悪くないとしても、作品への理解は半分だけだという印象を抱かせるのである。

だが、その範囲において、長尾の演奏はひとつの粋をいくものだろう。特に目立つのは、オーケストラとの協奏関係が深く、バックのメッセージを集めて、立体化していく能力の高さである。第1楽章後半の技巧的な部分でも、これが効いて、キム・デミの演奏よりもはるかに立体性のある響きが立ち上がっている。音色やフレージングのコントロールは冷静で、若さに似合わない落ち着いたパフォーマンスだ。特に、ベースをはっきり意識しての、高音の堂々とした表現に特徴を見出すことができる。

特殊奏法の表現も既に体得の域にあり、グリッサンドなどを使ったクライマックスでは、技巧性よりも、むしろ高い表現力が訴えかけられる。こうした表面的な表現を歌にまで高めることができる点で、この年齢にして、既に完成度の高さが一方でないアーティストといえるのは間違いない。カデンツァも最初に述べた視点を別にすれば、かなり質のいい表現で、序奏を頂点に舞踊性が薄くなっていったキム・デミの演奏と比べると、カデンツァを中心に、後半にかけてぐっと躍動感の増す長尾の演奏が、より高い構造把握に基づいているのは言うまでもなかろう。

緩徐楽章の冒頭は、やや昔語りのような雰囲気が出ていて、期待感を抱かせる。丁寧なフレージングが優しげな語り口をつくっており、曲想が変わり、レチタティーボからアリアが導かれる瞬間の表現も滑らかである。単にヴァリュエーションを描き分けるに止まらず、語りと歌の関係を熟慮して、丹念に表現をつくっていることは評価に値する。なかでは、リヒャルト・シュトラウスの歌劇『サロメ』を思わせるような官能性をもつ優雅な変奏が、特に印象的である。そのほか、最後のリリカルな回帰なども、演奏を特徴づけるものとなるだろう。

フィナーレは、技巧的なパッセージから幾人ものキャラクターの声が聞こえてくるようで、重唱、もしくは対話的な表現となっているのが興味ぶかい。目先のフレーズだけに囚われず、非常に自由なカタチではあるものの、確実に生きているソナタの構造を明確に把握している点も好評価だ。女性的なソット・ヴォーチェの表現は、内心をそっと吐露するような感慨に満ちている。それを起点に、男性的で確信に満ちた決然とした表現とのコントラストが現れ、これまでに使われた素材をフラッシュバックのように再現するのも、作曲者の内面性と深く結びついた表現になっている。

言っておくが、必ずしも長尾の個性にあったレパートリーではない。それにもかかわらず、かなり充実した表現が楽しめたのは、彼女の表現センスの高さを示しているのかもしれない。

【No.05 アンドレイ・バラーノフ ロシア】

曲目:ヴァイオリン協奏曲第2番

この曲の最初の部分は、ショスタコーヴィチにもありそうな(年代的には反対だが)強い風刺性に満ちているが、それとは似て非なるものであることを物語る、バラーノフのやや軽い響き(最初の音は重厚なので、意図的にそうしているのがわかる)にハッとさせられる。その後の展開も、プロコフィエフらしいおっとりした風刺性を物語るもので、特に音色の爽やかな響きというのが、最後に「青春」交響曲を書いた作曲家だという印象を喚起させる。もちろん、そうしたなかにも、プロコフィエフは一方でない、深い緊張を要所に張り巡らしているのであって、そのことについても、バラーノフの表現ではハッキリ押さえられていることは見逃すべきでない。

次々に角度を変え、惜しげもなく表情を切り替えるプロコフィエフの気まぐれな作風を、バラーノフはほぼ完璧に追っている(正確には先取りしていく)。構造観の把握も抜け目なく、既に一端のアーティストとしてみても構わない。

緩徐楽章は、本当に素晴らしい。あれだけアップで映っていても、なんといっても楽器の響きしか感じず、演奏者を意識させない演奏というのは、ひとつの理想であると思うし、この楽章の表現にも相応だと思われる。華やかながらも、控えめな音色のたおやかさ。ナチュラルな引っ掛かりのあるフレージングの柔らかさ。それに加え、オーケストラとの協奏関係も親密で、ほとんど言うことなしだ。トリオのおわりのほうの技巧的な部分で若干、粗い部分が出たが、それ以外は美しい演奏である。最後の重音のように、アイロニーを付け加えることも忘れない。

主部に戻ってみると、以前よりも響きに芯があり、すこしだけ自分を付け加えて、単純なシンメトリーに効果的なエッジを付け加える演奏になっていた。

フィナーレは思いきって体重をかけ、音圧を増した演奏だが、それが十分に効果的であるかどうは疑問だ。フレージングが大胆で、強い個性を感じさせるものの、それがプロコフィエフの表現にあっているかどうかという問題は積み残しになっている。しかし、ヒラッヒラッと宙空を舞うような華々しい音楽づくりは奇抜ながらも、興味ぶかい。最後の無窮動も見せびらかしにならず、弦楽器ならではの長いブレスの生かされた演奏とみえた。

 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

セミ・ファイナルで印象が良かったのは、キム・ボムソリ、長尾春花、アンドレイ・バラーノフの3人である。キム・デミ、乾も感じよく、シュミットはやや評価を下げた。

さて、結果であるが、ファイナル進出者は以下のとおりとなった。

No.18 キム・ボムソリ 韓国
No.30 ジオラ・シュミット 米国
No.19 キム・デミ 韓国
No.16 クララ=ユミ・カン 独/韓国
No.26 長尾 春花 日本
No.05 アンドレイ・バラーノフ ロシア

順当な結果であろう。長尾、バラーノフ、ボムソリ、デミは鉄板という感じだったが、あと2人は誰でもいいという感じのなか、シュミットとカンが選ばれた。ほかに、オスマノフ、乾あたりが当落線上だったろうと思われる。どこのコンペティションでもそうだが、やはり韓国人の強さが目立つが、長尾、バラーノフの前回入賞勢も手堅い。シュミットも地力は高いはずだ。

ファイナルでは、6人全員がベートーベンを弾き、これにより結果が決まるということになっているが、例年の傾向では、セミまでの印象も若干、加味されている。これら6人にとって、ベートーベンは確かに課題となる作曲家であると思うし、結果は予想しがたい。だが、ひとつだけ言えることは、自分との闘いに勝った者だけが、優勝者としての権利を得られるということだ。前回大会では、千葉清加や長尾春花はセミまで素晴らしい演奏を披露していたのに、ファイナルで自分らしいパフォーマンスを出すことができなかった。そうならないように、全員の健闘を祈りたいものである。

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コメント

バルトークの本当のセンスを知るには、youtubeのGyorgy Paukの演奏を聴いてみてください。
国際コンクールでこの域に辿りついている人は、
まずいません。

長尾春花さんはバルトークのキャラクターを全く表現できていないと思います。

benjaminさん、コメントありがとうございます。

ジェルジ・パウク氏と比べても、いかんですよ。言っておきますが、私は長尾さんの表現には、まったく感心しておりません。しかし、若い奏者によるコンペティションという範囲でみれば、まあ、優れたセンスと言っているにすぎないのです。

まだ20歳そこそこですし、これから勉強していく段階にあると思います。多分、ハンガリーにも行ったことはないでしょうしね。少なくとも『青ひげ公の城』くらい観てくれれば、多少、変わっていただろうと思いますが。

ベルさん、コメントありがとうございます。私も、そう思います。

なぜ批判的なコメントは返信しないで消すのですか?

批判的なコメントは削除していませんが、根拠などの示されない悪意的なコメントは別です。

基本的にコメントの削除は行いません。しかし、スパム的な内容や、悪意的なものにはいちいち反応せず、削除します。また、無記名のものは気持ちも悪く、基本的に公開しない方針ですが、それでも、できるだけ削除せずに残しています。

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