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2010年6月 9日 (水)

仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 ファイナル ③

さすがにベートーベンを6人分、聴き通すのは苦労が多いが、ファイナルの演奏も、残るは2人となった。

【第5位 キム・デミ】

キム・デミは意外にしっかりした音で序盤から聴かせるが、音が粒立ちすぎていて、拍節感にわざとらしい点があることと、高音と低音の切り替えがスムーズでないことが耳につく。頑強な音づくりで、ベートーベンらしい逞しいフォルムを描こうとする点は理解でき、その行き方は彼女のパーソナリティにも見合ってもいる。しかし、その構造的な把握は安っぽいステロータイプに基づいたものであるため、様々なところにガタが見える。

例えば、それはダイナミズムを見かけよりも小さいものにし、弱奏と強奏のメリハリが十分、印象に残らない(強弱がないというのとは別の意味である)という弊を生んでいる。また、より深みの生まれるはずの展開部に入っても、それまでの部分との精確の差が明確でない。カンの演奏について「木をみて森を見ない」ものだと評したが、このキム・デミにおいては、より一層、その意味あいが深刻だ。細部の磨き込みに熱心であればあるほど、彼女の表現は縮こまったものに落ち着いてしまう。

キム・デミのもつ最大の長所が、このようなカタチで裏目となるに及んでは、もはや打つ手はあるまい。しかし、なぜなのであろうか。それは先述のように、構造把握のセンスがありふれていて、一から自分で獲得したものではないことによる。もちろん、クラシック音楽の第一義は伝統芸術の継承であり、もとより一から生み出す性質のものではない。しかし、最終的に出そうな答えの見当はついているにしても、それをもういちど自分で検証し、こうでもない、ああでもないとやった人の演奏と、そうではない人の演奏にはやはり差が出てくる。

キム・デミが生真面目に、芯のつよいベートーベン像を彫り込もうとする度に、私は笑いを堪えきれなくなる。もちろん、この表現は、やや穏当さを欠くものであることは自覚している。私は、キム・デミの演奏が嫌いではない。だからこそ、このように言うのである。例えば、カデンツァおわりでオーケストラに主導権をパスするときのブリッジの表現など、本当に柔らかくて素晴らしい。この要素を、もっと積極的に生かす方法はなかったのであろうか。

その答えのひとつは、緩徐楽章の演奏にヒントがあるが、しかし、全体的にやはり、強く、逞しいベートーベンのイメージが抜けきっていないために、響きがこころなし骨太になっている点を指摘したい。トリオはヴィオラのような音色で奏でられ、それ自体は嫌いでないが、幾分、唐突な感じもある。その後、響きが純化されて、構造がシンプルになるところはあまりにテンポを落としすぎて、かえってメリハリが引っ込んでいるように思われる。多分、彼女が思っているような効果は得られていないだろう。

第2楽章の後半から急速に落ち込んだ雰囲気は、華やかなロンド・フィナーレに入っても、そう簡単に回復するものではなく、このあたりで、完全に冷めてしまった聴き手も少なくないだろう。否、小ぢんまりとした小品としては、それなりに聴けるのだが、ベートーベンの協奏曲としてはスケールがあまりにも小さすぎるのである。例えば、「これはクライスラーの作品だ」と言われても、私には違和感ない。最後のカデンツァなどは、正にであろう。典型に学んだ骨太な表現をめざしながら、その亜流をつかみ、最終的には、最初の構想とは似ても似つかない小さな表現を選び取ってしまった演奏を、さすがに評価するわけにはいかないのである。

【第6位 ジオラ・シュミット】

最年長のシュミットは肉厚な響きだが、若干、響きが硬いように思われる。ときどき、驚くほど繊細なカンタービレを聴かせてくれるのは年長のコンテスタントらしいところだが、響きだけではなく、全体的にフォルムも硬く、そのような長所が十分に、作品全体に浸透していかない憾みがつよい。また、表現の押し引きは明確であるのに対して、ダイナミズムの幅はかなり小さく、表現性に立体性が出ていないことはマイナスだ。また、巧く弾けていない部分での、響きの潰れ方もかなり酷く、これは技術的な欠点が大きいことを示す。

コンペティションではよくあることだが、年長の分、作品に対する読み込みは6人のなかでも深いのだが、それを生かす技術力は、ファイナル進出の6人のなかで、やはり差のある最下位に止まっている。

緩徐楽章は終始、ラルゴにちかいテンポを要求し、アレグレットにしては静謐すぎるフォルムに疑問を感じる。最近の若手の指揮者やソリストの特徴のひとつとして、独墺系作品における遅いテンポというのはひとつの流行だが、シュミットのも、かなりわざとらしい「個性的」演奏である。遅くすること自体は問題ないが、独奏の構造観も潰れているし、オーケストラとの協奏関係も解けてしまっていることが問題だ。

このようなベースから、ロンド・フィナーレの華やかさを立ち上げるのは至難の業で、それなりによく弾けてはいるものの、それ以上の感想にはならないだろう。

 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

上記のような感想となり、やはり、2日目の結論部分で書いたことから、大きく逸脱する演奏内容ではなかった。前のエントリーで書いたので繰り返さないカが、ベートーベンのようなレパートリーにおいて、本当の意味で聴き手を感心させる弾き手は現れなかったということである。ヴァイオリン部門には期待していただけに、残念である。しかし、今後、注目しておきたいコンテスタントは何人か見つかったので、それでよしとしておこう。

なお、ピアノ部門の予選は13日から始まるが、いまのところ、こちらは今回ほど密着的に書くつもりはない。

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コメント

アリス様
卓見の数々拝読致しております。
土日に会場の青年文化センター(森林公園の横にある建物)のコンサートホールで
上記ファイナルを聴いて参りました。

戻りまして配信も見ましたが
審査員は音楽や個性よりも
ベートーベンの形式や
意欲的でも逸脱しない古典の演奏スタイルに
こだわったのでしょう。

私にとって圧倒的だったのはバラーエフです。

輝かしいハイフェッツのカデンツァも含めて
別次元と感じました。
そうそう夜の発表のときに第2位とコールされたときは
会場から、え~というどよめきが起こったほどです。
一部のファン筋からではなくて。

あのホールは
金管が突出しやすく(トランペットが毎度大きい…)
木管やティンパニのイントネーションの問題も目立ちやすく
でも弦は飛んでこないという
とてもクセのあるホールですね。

明るく、抜けよく響くとも言えますがオーケストラやコンチェルトを聴くのに
ふさわしいホールではないです。

音のくせは仙台フィルのくせかもしれませんが
生の音と配信が全く違って聴こえるのにも驚いた次第です。
ドイツ生まれドイツ育ちという韓国のクララ・ユミ・カンは表現と曲のバランスがとれてますが
生だと粗も目立ちました。
ただベートーベンは何度目なのか
明らかに慣れています。
表現するところとオーケストラと会話するところなどで
古典の演奏スタイルにこだわる
やや旧世代の審査員諸氏の心を捉えたのでしょうね。
もちろんきちんとしています。
悪くないヴァイオリンですが
あの世代になんにもいる上手い一人では。
豊麗なベートーベンを弾いたバラーエフは、やや大味なところもありますが、すでに音楽家でしょう。
ヨアヒムのカデンンツァを弾いた長尾春花さんは

パンフにもありましたが
今回審査副委員長の岡山潔氏のお弟子さんですね。

彼女の演奏は前に
日本音楽コンで聴き
その後もコンチェルトを聴いたことがありますが
今回はよく勉強しました
ほんとうに頑張りました、でしょう。

師ゆずりなのか
ていねいさを心がけて(キズはありますが)変なことをしない
というヴァイオリンです。
ホームアドバンテージで
ひょっとして優勝、いや2位いくかな、と思いましたよ。

ぽっちゃり可愛いし、しっかりしていそうだし
ステージの感じもいいので
ますます人気も出るでしょう。
今度の日曜13日に町田で
東響とチャイコフスキーを弾くみたいですね。

アリス様
早朝に寝ぼけ眼で打ってしまいました。
良かった、と思った方のお名前を間違えるなんて
コンクールフリーク失格ですね。

自分の世界を持っていて
体格も立派なアンドレイ・バラーノフはどこかで1位をとるまで
コンクールをやめないのでしょうか。
24歳になりますがね。
バラーノフはサンクト・ペテルブルグとスイスのローザンヌ(ピエール・アモイヤル)で勉強
とパンフにありました。

仙台コン行きましたさんの、現地報告ありがとうございました。仙台には行ったことがありますが、ホールに入ったことはないので、詳細なご報告に痛み入ります。

バラーノフは、B.ブリテン国際で1位とっていますね。しかし、現今の欧州におけるクラシックの市場縮小は激しく、彼ほどの才能でもなかなか食い込んでいくのが難しいのでしょう。こうした魅力あるコンクール迷子は、増えていますね。

でも、仙台に再挑戦したこと自体が驚きだったけど、優勝すれば、心置きなく抜けるつもりだったのではないかというメッセージが読み取れます。2位だったからわからないですが、そろそろコンクール戦線では見られなくなるかもです。

入賞者の会見でも、センターを占めるバラーノフの存在感が図抜けています。身体が大きいからでしょうが・・・。

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