2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

« スピノジ ハイドン + オペラ・アリア with リナート・シャハム 新日本フィル サントリー定期 6/4 | トップページ | 仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 ファイナル ② »

2010年6月 7日 (月)

仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 ファイナル ①

仙台国際音楽コンクールは全日程を終了し、審査結果が発表された。優勝は、ドイツ/韓国のクララ=ユミ・カンだった。まずは、順位を示しておこう。

 第1位 クララ=ユミ・カン ドイツ/韓国
 第2位 アンドレイ・バラーノフ ロシア
 第3位 長尾 春花 日本
 第4位 キム・ボムソリ 韓国
 第5位 キム・デミ 韓国
 第6位 ジオラ・シュミット 米国

 オーディエンス賞
 セミ第1日 キム・ボムソリ
 セミ第2日 乾 ノエ
 セミ第3日 アンドレイ・バラーノフ

上記の結果にできるだけ惑わされず、ファイナルの演奏を評価してみよう。なお、今回は趣向を変えて、上位から順に聴いてみることにした。

【第1位 クララ=ユミ・カン】

選りによって、この人なのかという印象だ。ファイナルの演奏は弾き損ないも多く、聴きごこちのいい演奏ではなかった。では、それを補ってあまりある巨大な才能が示されたのかといえば、そうとも思えないのである。

第1楽章、謎かけでもするような独奏出だしの音の伸縮が面白い。ひとつひとつのパーツを噛みしめるように弾くのが美点だが、あまりにもそこに拘泥しすぎるあまり、リズム感が稀薄となり、全体の流れが掴みづらい。木をみて森を見ない演奏になっているように思われる。一応、イチから編み出した演奏というところは出ており、歌いくちにも様々な工夫がみられ、カデンツァなどは強拍の粘りづよい強調が効いていて、アイディアに満ちた演奏である。しかし、それ以外の部分は、概ね退屈だ。呼吸も浅いし、音色の磨きこみも十分ではない。

緩徐楽章は、非常に素朴な歌ごころが聴かれ、少年のようなベートーベンの心性が表現されている。いわば男根的なメンタル・マッチョのベートーベンではなくて、シューベルト的なナイーヴなイメージが、カンの演奏からは感じられるのが特徴となるのだろう。また、全体的に深いルバートの意識が浸透しており、それを生かしたフォルムのイメージを明確にオーケストラに伝え、ついてこさせている点は評価に値する。ただし、この楽章でも若干、カンタービレが停滞気味なのは第1楽章と共通する欠点だ。

前楽章のルバート構造をより開放的に用いた終楽章は、序盤、なかなか面白く聴かせてもらった。しかし、その後のロンド主題の力みかえった強調は蛇足で、むしろ装飾的な部分でのリラックスした音色が魅力的である。要所における強い表現と、リラックスしたカンタービレの清らかさ、これらの間にある効果的なルバート、軽い装飾音の煌き、ベースにあるシンプルな響きのコントロール、これらが組み合わさりながら構造をなしていくときの立体的な表現は、なかなか聴きごたえがある。また、最後のロンド主題の再現から、弾きおわりに至る流麗な流れには一目を置くべきだ。ただし、それらは圧倒的な驚きに満ちているというわけでもない。

他のコンペティションでも高く評価されており、審査員受けしやすい音楽性の持ち主なのかもしれないし、私の気づかない巨大な才能が眠っているのかもわからぬことは否定しないが、ルセヴやバーエワのときと比較すると、かなり頼りない優勝者であるように思われるのは、私だけではあるまい。もちろん、だからといって、審査に納得がいかぬとか言うつもりは毛頭ないが、さりとて不思議な結果であることも告白しておかねばならない。

唯一、決定的なポイントとして挙げられるのは、自分のメッセージをもっているということ、また、それを外部に伝える力が優れている点であろうか。

【第2位 アンドレイ・バラーノフ】

私のなかでは、ベートーベンを弾くバラーノフというのは想像がつきにくかった。いわば初めからアゲインストを受けながら走っているようなものだけれども、その範囲においては、彼なりに抑えた、妥当性の高い表現を試みたといえるだろう。

序盤戦から、音色の深さや、響きの伸びにおいては、やはり一定のアドヴァンテージがある。しかし、ときどきレガートが強すぎて、響きが浅くなるのと、そのときの強拍のデザイン(フレージング)が強引すぎて、急にフォルムの美しさを損なうのが問題であった。典型的には、提示部の最後の部分である。一方、小鳥が細かく啼くようなトリルの美しさなどは、このコンペティション並ぶものなき美しさだろう。私は、こうした部分での差の激しさに注目した。一方の要素が美しければ美しいほど、それ以外の要素を慎重に組み立てる必要がある。

全体的な流れの良さなどは優勝者よりもはるかに勝っており、演奏の面白さという点では、バラーノフのほうに高い評価を与えたい。しかし、彼はなべて高い技量を示す演奏をできるわりに、細部においての些細な揺らぎが思ったよりも大きな瑕となってしまうような演奏をしている。その点で、やや音楽にムラがあるようである。このことだけは、前回大会とさほど変わっていない。例えば、第1楽章のカデンツァなどもあまりに自由すぎて、表現にまとまりが感じられないのである。

緩徐楽章は音色の美しさを最大限に利用したリリックな演奏だが、やや浪漫的にすぎるだろう。というのも、あまりに美しすぎる独奏ヴァイオリンが抜けると、途端に痩せた音楽と聴こえてしまい、どうも全体の据わりからみて独奏の華やかさが過剰である印象を抱かせるからである。呼吸の長すぎるカンタービレも、そのような印象につながっている。ロンド・フィナーレは終始、テンポも速めで、淡彩な演奏に徹した。誰もが彼の才能は認めるところなのだろうが、やはり、セミで聴かせてもらったプロコフィエフなどと比べると、予選のモーツァルトや、ファイナルのベートーベンともなると、若干、印象は霞んでしまう。

意外にも、カンより良い演奏とは思わなかった。

« スピノジ ハイドン + オペラ・アリア with リナート・シャハム 新日本フィル サントリー定期 6/4 | トップページ | 仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 ファイナル ② »

クラシック・トピックス」カテゴリの記事

コメント

アリス先生、こんにちは。クラシック音楽についてはBGMで聴く程度でしたが、仙台で国際コンクールが開催されるということで、予選(23日)、セミ(29日)、ファイナル(5日)と3回も会場に足を運んでしまいました。至福の時間をすごさせてもらいました。
全く音楽に関しては素人であり、実は素人としての評価(自分の五感の確かさ..というより第六感ですね)というものがどの程度あたっているものか一種の挑戦的な意味も込めての観賞でもありましたが。
予選(23日)は、私の予想としては、ボムソリ、守屋、オスマノフの順で考えており(デミさんとシュミット氏はあまり心に響かなかったなー。たぶん私自身が中だるみしたのでしょう)、先生の評価とも概ね一致し、少し自信をもちました。
セミ(29日)は、ボムソリかガヒョンかな(ロシアも上手なのでしょうが、素人目にはあまり面白みがなく)と思いましたが、ガヒョンさんに聴衆賞を投票しました。曲のメジャー度と私好みの容姿にひかれた素人としての弱みだったのかと反省しています。でも、音楽的にも先生のいうリスクをとらない的なところが、なんとも素人的にはBGMっぽく好感がもてたということでしょうか。実にいい気分ではありましたが。
さて、ファイナルですが..。実は、これまで長尾さんの演奏を生で聴いたことがなかったので、とても楽しみでした。
この先、先生のファイナル評価の展開がどのようになるのか楽しみではありますが..。
私なりの感想を述べさせていただきます。
まず、5日の3人については、順位通りの評価で妥当かと思いました。特に、長尾さんについては、精彩を欠いたというか、音自体が響かなかったんですよね。バイオリンが悪いのでしょうか。曲があわないのでしょうか。長尾さんにおかれては予選の曲が一番合っていたように感じます。予選、セミの貯金で3位というところでしょうか。
ファイナルのストリーミングを聴いたところでは、キム・デミさんがすごくよかったように感じました。
(ボムソリさんも相変わらずいいですね)
あくまで素人目ですが。
個人的には長尾さんを応援してますので、この先もちょくちょく取り上げてください。ブログを見ててもすごくいい子ですので(その毒のなさが芸術家としての弱点かもしれませんが..)。よろしくお願いします。
ボムソリさんもデミさんも楽しみです。応援します。
勝手なことばかり書いてすみません。
P.S.
どういうところに気をつけて聴けばいいのか何かアドバイスをお願いしたいのですが。

g.g.さん、ありがとうございます。

先生なんていう身分ではないので、その敬称は止しにしてくださいますと幸いです。誰か、別の「先生」がいらっしゃると勘違いして読んでしまいました。

音楽に対する共感というものには、答えなどないものです。誰と合っているから、正しそうだということではありません。実際、審査する(本当の)先生方の間でも、ひとりひとりに対する見方は驚くほどちがっているようです。

どこに気をつけて・・・というよりも、まずは真剣に向き合うということが大切だと思います。私は、その演奏者や、その作品をつくった人が何をしたかったのか、どうしてそうするのかということに興味があります。そういうポイントで聴いてみれば、世界は自ずと広がっていきますし、深く調べたくもなります。

アドヴァイスできることがあるとすれば、そんなことぐらいだろうと思います。とにかく、自分なりの楽しみ方を見つけることですね!

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/543421/48564192

この記事へのトラックバック一覧です: 仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 ファイナル ①:

« スピノジ ハイドン + オペラ・アリア with リナート・シャハム 新日本フィル サントリー定期 6/4 | トップページ | 仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 ファイナル ② »

ツイッター

  • ツイッター

最近のコメント