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2010年8月20日 (金)

田崎瑞博 モーツァルト 交響曲第40番 アンサンブル・メゾン 第25回演奏会 8/14

アンサンブル・メゾンは元来、京大のOBによるアマチュア・オーケストラだったということだが、よくは知らない。HPにあるヒストリーをみると、1997年を境に組織が再編され、新しいアンサンブルに生まれ変わったという。ちなみに、団体名にある「メゾン」は「家」のことだと思っていたが、この場合、京都に縁のある湯川秀樹博士にまつわる「中間子」からとったものであるとの次第である。

かつては森口真司の指揮による演奏が多かったようだが、近年では都響のフルート奏者、寺本義明の指揮による演奏会が中心になっている。そのなかで、今回は古典四重奏団のチェロ奏者、田崎瑞博が指揮者として迎えられ、初顔合わせとなった。私はC.P.E.バッハのシンフォニアと、ハイドンのシンフォニーを目当てに、田崎の指揮ぶりを拝むために横浜を目指した。会場は、横浜みなとみらいホールの小ホール。

尚、当日の演奏会は、モーツァルトらのパトロンであったスヴィーテン男爵を当時の音楽プロデューサーのようなものと見立てて、彼の庇護と慧眼の下に生まれた作品を特集するという試みとなっている。また、もっとも古いエマニュエル・バッハの作品から、モーツァルトの作品までの作曲年は僅か15年しか開いておらず、その間に、転調のあり方など、音楽の様相が劇的に変化したということを捉え、「奇跡の15年」と銘打っていた。

【響きのやわらかさ】

まず、アンサンブル全体の印象について述べるが、非常にまとまりのある集団だと言っていいのではないかと思う。ガッシリしたドイツ的な響きを主体に、厚みのあるサウンドを目指す傾向がつよい。みなとみらいの小ホールは手ごろな大きさだが、大ホールをそのまま小さくしたようなデザインで、響きはやや飽和しやすい。そのような会場を使うことで、彼らの個性はわかりやすい。

しかし、このようなアンサンブルで鍵となるのは、響きの柔らかさだろう。その意味で、この日の演奏は前半、やや耳に痛い演奏であって、特にハイドンはベートーベンとの境目が感じられないくらい、重厚なサウンドが前面に出ている。ちなみに「耳に痛い」というのは、「聴き苦しい」という意味ではなく、「響きがすこしキツい」という意味で解釈してもらいたい。「響きが硬い」といってもよいのだろう。このことの原因は多分、技術力というよりも、表現の細やかさの問題であり、なぜ、そう言えるのかといえば、モーツァルトではずっと柔らかい響きが出ていたせいである。

3曲を比べると、モーツァルトは音楽的な内面が非常にゆたかで、イメージが充実しているために、響きも多彩で、柔らかく、しなやかに響いていた。次いでC.P.E.バッハが良く、作品に対する共感がダイレクトに伝わってくる。ところが、ハイドンはイメージがやや曖昧であるために、響きが不安定になっており、随所に硬さが耳につく演奏になっている。

モーツァルトは交響曲第40番の第1項と銘打っているが、これは要するに、当時の最新楽器であったクラリネット抜きのヴァージョンのことを指すらしい。演奏が始まり、いきなり旋律が走り出すなかで、それを支える弦楽器の分散的な修飾が活発で、特徴的である。これは正に、室内楽的なサウンドの充実であり、田崎の指導が行き届いていることを窺わせるものだ。弦の響きはピリオドにも配慮しながら、無理なく響きの潤いを生かしたものであり、旋律線と装飾がハッキリして、骨太な線が描かれているせいか、若干、濃厚な印象もつきまとう。短調交響曲の悲劇性は強調されておらず、サウンドはカラッとしていたように思う。40番は久しぶりに聴いたせいもあると思うが、序盤は淡白な印象で徹しているように思われた。

今回の演奏の特徴は、死んでいく者の(キリスト教的な)死における喜びと、残される者の哀しみとの間に生まれる対話というところに求められるように思う。そのことは、第2楽章以降ではっきりと浮かび上がってくる。第2楽章で注目すべきことは、主部の明らかに美しい思い出を描写した部分が死者の喜びに結びつき、それを迎えに来るようにサウンドが盛り上がって、金管楽器(ホルン)のプレゼンスが聖なる楽器の使命を果たす部分にある。冥土からの迎えの使者が、神々しいサウンドで死者を喜び迎え、互いに交歓するサウンドの頂点が、このアンサンブルの特徴である響きの重厚さを利用して、実にうまく表現されている。特に、金管の響きの勇ましさが、そのパートの重要性を引き立てている。だが一方で、これをみて嘆き悲しみ、死者を引き留めようとするかのような生者の叫びも、リリカルに鳴り響いているのを忘れてはいけない。

面白いことに、このシーケンスは楽曲の構造によって繰り返されることになる。最初のシーケンスでそれと気づいた聴き手は、次のシーケンスで、そのイメージを確信することができるだろう。2度目のアンサンブルのほうがいくぶん引き締まっており、死者と生者の態度がより固まってきた印象を与えるのも面白い。

メヌエットでは棺にすがりつくような生者の嘆きが、いきなりクローズ・アップされる。メゾンは、ひとつひとつの音楽的エピソードを丁寧に拾い起こし、コツコツと作品世界を組み立てていく。後半の主部は、これの繰りかえしというよりは、より尖鋭な構造の組み上げを感じさせるため、通常よりも劇的な構成観が感じられた。

フィナーレは、これまでと同じように対立的なダイアローグが徐々に溶け合って、死者の喜びに同一化していく魂の重なり合いのプロセスが明確に描かれている。ここで私が感心したのは、管楽器の響きに聴かれるメッセージのゆたかさと、その清澄さである。寺本によるトレーニングが行き渡っているのか、このアンサンブルの管楽器の響きは総じて粒だっているのだが、この楽章では、管楽器が内面のゆたかさを代弁するのに積極的に強調されているせいか、特にそのことが効いているように思われた。どちらかというと、弦のストーリーテリングが目立ちやすい楽章であるだけに、メゾンの音楽づくりの繊細さが窺われる。

以上のように、非常に充実したドラマを匂わせるメゾンの演奏であるが、前半の2曲と違い、既に述べたように響きの柔らかさがあるために、煽情的な表現がキツくなりすぎず、まろやかに響いてくるのが特徴となっている。基本的にガツガツしたアンサンブルの堅牢さを重視する集団であるが、モーツァルトでは、こんなにもしなやかな表現ができるというのは驚きだった。

【まとめ】

前半のメインは、ハイドンの交響曲第83番「めんどり」。先日、新日本フィルでも聴いたばかりだが、ハイドンのシンフォニーのなかでも、このあたりのナンバーは私にとって親密の部類に入る。先日のスピノジとはちがい、田崎の音楽づくりは直球勝負。多彩な表現力でエピソードの多彩さをアピールした新日本フィルの演奏と比べ、短調交響曲の厳密(荘厳)なイメージを生かした表現の凛々しさが特徴となる。

演奏会の最初に、C.P.E.バッハの(Wq182-5)の「シンフォニア第5番」を選ぶのには勇気がいる。しかし、短調交響曲の決然としたイメージを生かし、きりっとした演奏で1日の幕を開けるという意図は十分に伝わった。チェンバロの通奏低音は押し潰してしまうような豪胆な演奏だが、もともと弦楽アンサンブルでスタートしている団体だけに、その絆の深さというのは窺われた。田崎の指揮はこの曲に関する限り、ほとんど拍はとっていなかったが、これは、弦楽器間では室内楽的な高いアンサンブル能力が備わっているということの証拠となろう。

プログラムの面白さに惹かれて足を運んだわけだが、意外に、質のいいアンサンブルを聴くことができたのは幸いだった。毎回、どうしても足を運ばねばというほどの共感ではないものの、弦管ともにトレーニングが行き渡っており、安心して表現を楽しむことができる団体である。欲をいえば、モーツァルト以外の曲に対するイメージをさらにゆたかにして、響きの柔らかさを増すようなトレーニングを積んでもらいたいと思った。

【プログラム】 2010年8月14日

1、C.P.E.バッハ シンフォニア第5番 Wq182-5
2、ハイドン 交響曲第83番「めんどり」
3、モーツァルト 交響曲第40番

 於:横浜みなとみらいホール(小)

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