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2010年10月14日 (木)

新日本フィルが2009年度/アニュアル・レポートを発表 〜ガバナンスで他楽団に先行

オーケストラの公益性に対する議論は、年々、厳しさを増しているように思います。もはや成長を念頭に置けない日本経済の爛熟と、少子高齢化に伴ういびつな国家バランスの形勢により、漸次的に衰退傾向を迎える日本の現状のなかで、金のかかる芸術分野へのリソースの振り向けには、いつも後ろ向きな議論がまとわりつくようになりました。

イタリーでは芸術予算を大幅に削減するための、いわゆる「ボンディ法」が成立し、スカラ座を含む大きな劇場が非常に大きなダメージを受けつつあることは、海外の動向に関心のある一部の層を除いて、日本ではさほど知られていません。来年、ボローニャ歌劇場が大規模な引っ越し公演をおこないますが、このような壮挙も、来年が最後という可能性だってあるのです。オペラの本場であるイタリーでさえ、このような事態になっているとしたら、日本の音楽界の将来もさほど明るいとは思われません。

【遅れている情報公開】

こうした状況のなかで、楽団が命脈を保つために必要なことは、一体、何でしょうか。その前提となることで、日本のオーケストラ全体にとって遅れている分野として、情報の公開があります。オーケストラは上場などはしていないものの、公的な支援を必要としており、現に日本芸術振興財団などを通じての支援金が入っている以上、本来は、もっと積極的に楽団の財政状況を公開し、ガバナンスが働きやすい環境を整える必要があります。

N響、都響、大阪センチュリー響などの公立オーケストラは、国の独法並みの情報公開はしてきていますが、それ以外の団体では、かなり疎かということができます。それでも、従来のような余裕のある経済状況のなかでは、多くの企業や個人がわが国の芸術を支えるという志から、幸いにも応分の支援行為をつづけてきましたが、今後は、自分たちの提供したりソースが本当に有効活用されているのか。お金の使途の透明性が確保されているかということは、より厳しく問われることになるでしょう。

楽団の演奏レヴェルをより高度なものとし、地域に浸透していくという課題の前に、それらの行為が、目に見える形で予算/決算/事業評価というガバナンスのサイクルのなかに位置づけられ、いかに丁寧に公開されているかということは、各々の楽団が彼らに支援をしたいと思っている人たちから選ばれるための、重要な要件となるのではないでしょうか。企業にとって重要なリソースを損得勘定は抜きにして、この国の、地域のプライドのために割いてもらいたい・・・という困難なお願いをしなければならない楽団にとって、それでは、そのお金はどのように利用されるのかという問いに対して、まともな答えをすることもできないというのでは、まったくもって説得力がないと思いませんか?

【先行する新日本フィル】

その点で、現在、もっとも先行しているのは新日本フィルだと思われます。この度、2009年度のアニュアル・レポートがHP上に公開されましたが、上場企業並みに充実した報告となっています。ここにいう「アニュアル・レポート」とは「年次報告書」とも呼ばれ、いわば企業の1年間の活動(および、その変遷)を数値で表したものと言えますが、それを株主や信用先に対して開示するのは、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の第一歩と見なされています。つまり、企業というものは、開かれたものであるべきだというのが、経済活動の大原則なのです。

もちろん、芸術活動には、数値で測ることのできない要素もあります。しかし、アニュアル・レポートの内容は最低限の説明責任を問うものであり、それだけで楽団を評価しようとするものではありませんし、それは営利を目的とする一般的な企業の場合でも同じことです。ただ、そこに表れる数字は、人間でいえばバイタル・サインのようなもので、健康状態の大まかなところを知るために重要な指標のひとつと見なされます。

アニュアル・レポートの中身によっては、楽団の悪い面も見えてきてしまいます。例えば、標記の新日本フィルのレポートの場合、前年からみたときの聴衆数の減少や、財務上の大幅な赤字が明確に数値化されております。しかし、これはまるきり悪いことばかりとも言えません。つまり、聴衆が減っているのならば、それはなぜか。それに対応するにはどうすべきなのか。赤字ならば、さらなるコスト縮減にはなにが必要か。財務体質を改善するために、どのような努力が必要か・・・などの問題を整理することができ、これを次年度の活動方針に反映させていくことができるからです。

【レポートの中身】

財務諸表の見方には詳しくありませんので、財務の素人でも簡単にわかる数字だけを追っていきます。まず、収支を見てみると、非常に厳しい数字が見えてきます。当期の新日本フィルは、3800万円の赤字を計上しました。年間3億円も足りないとしている大阪センチュリー響と比べると、赤字幅はずっと小さいものの、もちろん、安閑とできる数字でないことは明らかです。

収入面を見てみると、ほぼすべての項目で減少が見られます。やはり、恒常的ともいえる局面に入った日本の不況が、ダイレクトに影響しているのでしょう。特に、民間からの支援が3400万円以上も減少しており、前年比7200万円減となった収入減の半ばを占める数字となっているのが、特に痛かったといえるでしょう。

楽団が注目しているのは、定期演奏会での入場者数の減少です。消費動向が全般的に落ち込むなか、特に影響を受けやすい芸術分野の弱点がもろに表れていますが、特に、前シリーズのコアとなるトリフォニー定期における入場者数の減少は、楽団にとってダメージとなります。ドル箱的な小澤定期がコンテスタントに催せなくなったことも原因のひとつでしょうが、今後、アルミンクを中心に、ハーディング、ブリュッヘンなどが取り巻く環境のなかで、どれだけ新しい聴衆層を獲得できるかが問われることになります。

楽団は特に触れていませんが、委託演奏会の出演料もかなり減少しています。委託演奏会とは、公共・民間のホールや、企業、コンサート・マネジメント等を主催として、客演的に出演するコンサートと思われますが、これは臨時収入的な側面がつよいため、あまり触れていないことは理解できます。ただし、これらの地域の音楽需要がやはり、不況などの原因により萎んでいる現状を垣間見せるものではあります。例えば、大阪センチュリー響は近畿圏を中心に、幅広い活動で収入アップをめざしていますが、そのような下地がドンドン厳しくなっていることは、外見上、東京に位置するオーケストラにも影響を及ぼすことになるようです。

大阪センチュリー響、群響など、財務的に厳しい楽団はどこも、今後は自分のところだけではなく、地域の音楽需要を積極的に収入に結びつけていくという決意が語られており、このあたりは、激しいパイの奪い合いになりそうです。場合によっては、中国とか、アジア向けの営業も考えるべきなのかもしれません。なにしろ、茨城から上海に行くフライト価格が、羽田ー札幌よりもずっと安い(一部の席に限定ながら)という時代なのです。

【他の楽団との比較】

他の楽団の報告との比較ですが、まず、東響、都響、札響については一応、事業計画と収支報告を公開しているものの、外部の人たちに見てもらうという前提がなく、コメントや原因などに対する考察は皆無であり、レポートとして内容が薄いものといえます。このタイプが、いちばん多いですね。そのなかでは、札響の数字が具体的で、とりわけ詳細です。

N響はわりに充実したコメントをつけ、項目ごとに詳細な言辞が並べられているものの、数字との連動がなされておらず、2つの書類を自分で見比べるという必要があります。

京都市響や大阪センチュリー響の場合は、楽団のページには記載がなく、運営する財団のページを見なければならないうえに、都響などと同じような義務的公開に止まっています。また、6月に将来の債務超過の可能性が報道された群響。母体に新聞社をもち、この手の問題には敏感なはずの読売日響。運営財団のトップにバリバリの経済人であった大賀典雄氏を頂く東京フィルなどについては、公開された財務情報を見つけることも難しいほどでした。

これらの団体と比べると、数字とそれに対する考察が並べて書かれており、支援者や聴衆などに対する感謝の言葉などもみられる新日本フィルのレポートは、非常に優れているといえるでしょう。また、これらの報告は遡ってみることもでき、他の楽団と比べ、抜きん出て充実しているといえます。

【まとめ】

地域の音楽需要とともに、聴衆の獲得、スポンサーの獲得は、非常に限定されたパイを、互いに奪い合う構図となります。各楽団とも支援のお願いは非常に充実しています。しかし、そのための武器・・・というよりは、入場券のようなものとなる情報公開は、必ずしも進んでいないようです。

もっとも先行する新日本フィルでさえ、例えば人件費の内訳は書かれていません。現在、上場企業では1億円以上の高額所得を得る役員の報酬が、開示されるようになりました(その方針には批判もありますが)。そのような流れのなか、音楽(芸術)監督、指揮者、役員、楽団員(演奏員)、事務局員などに払った人件費の内訳ぐらいは、外部の人たちが知りたい情報(単なるゴシップ的な興味ではなく)・・・つまりは、活動に理解を得るために公開すべき情報といえるのではないでしょうか。

なにをどのように公開して、人々や自治体、企業などの理解を得るのか。演奏だけではなく、そのようなことにも気を遣うことのできる楽団だけが、今後の冬の時代を生き抜いていくことができます。残念ながら、冬が終われば春が来るという保証はありません。否、むしろ、冬の寒さは厳しくなる可能性がつよいのです。各楽団は、もっと切実に考える必要があります。そして、すぐに行動すべきです。

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