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2011年1月22日 (土)

アミティエ弦楽四重奏団 ラヴェル 弦楽四重奏曲 ほか 音楽ネットワーク「えん」主催公演 1/21

この日は、桐朋学園大学に全員が在学中という若いクァルテットの公演に足を運びました。翌日のスドビンもそうですが、今年は初心に戻り、若い人たちの演奏会にもこころを広くしてチャレンジしていこうと思っています。その1発目が、アミティエ弦楽四重奏団。高校在学中の2007年に結成し、今年がまだ4年目というフレッシュなアーティストですが、順調に育っている様子が窺えました。メンバーは福田悠一郎、会田莉凡(あいだりぼん)、横島礼理(よこしままさみち)、上村文乃(かみむらあやの)の4人。ヴァイオリン・ヴィオラは結成メンバーの小林美樹が、途中で横島と交代しています。なお、桐朋ではヴァイオリン専攻でも副科でヴィオラが必修となることもあり、チェロの上村以外の3人は曲ごとにローテーションで、各パートを入れ替わり立ち替わり演奏するという独特のスタイルを採っています。

将来的には各々が道を定めるべきだと思いますが、キャリアの初期において、全員がそれぞれの役割を経験しておくことは、それなりに意味があることだと思います。今回は3とおりで聴くことになりましたが、第1ヴァイオリン=福田、第2ヴァイオリン=会田、ヴィオラ=横島、チェロ=上村という組み合わせがいちばん良さそうに思いました(ただ、この組み合わせによる演奏は、今回はありませんでしたが)。

【それぞれの課題】

メンバーは、それぞれに課題があります。福田は歌い方のセンスが良く、息づかいなどに気を遣っているのもよくわかりますが、ときどき響きが平べったくなる傾向があり、楽器をふくよかに鳴らす技術を高めると、なお良くなる可能性があります。会田はがっしりした体格で、男性的な(女性ですが)強さがあることからリード向きとも思えるでしょうが、私はむしろ、サポート役に徹したときのアンサンブルの華やぎに注目しました。第1ヴァイオリンだと力んでしまって響きが硬くなる欠点があり、パワーに頼らず、脱力してつよい響きを得られるようなトレーニングが求められます。

横島は会田の反対で、さりげなく印象的な響きをつくることに長けており、そのポイントがヴィオラ・パートで特に目立ちました。内声をより際立たせるためには、会田に近づくような強さをどのように得るかが課題となります。そして、上村はこのアンサンブルでもっとも質の高い、多彩な表現をもつ弾き手でありますが、そのポジションに満足せず、より高いレヴェルに自分を・・・そして、アンサンブル全体を引き上げていけるような心技体のブラッシュ・アップが不可欠となります。

【長所】

アンサンブル全体としてはまだキャリアが浅いものの、音楽づくりはきわめて真摯であり、アイディアを出しあいながら、クァルテットらしい思いきった表現に徹することができています。そして、駅伝的な効果というべきか、グループとして演奏したときに、上に書いたような欠点を補い合い、ストロング・ポイントを高めあうような効果がはっきりと感じられるのもいいことです。特に、男性2人はよく聴くタイプで、押しの強い女性奏者のサポートをジェントルにこなしているのが印象的でした。

【モーツァルト】

最初のプログラムは、モーツァルトの弦楽四重奏曲第21番「プロシア王第1番」(K.575)です。並びは第1ヴァイオリンから、横島、会田、福田、上村の順でした。

序盤、音色の美しさにこだわるあまり、拍節感がなく、構造観に緩さを感じましたが、その問題は徐々に解消します。細部のきれいさに対して、全体の印象が後退する印象は全体を通してあり、油断すると、あっという間におわってしまうような呆気なさを感じました。第1ヴァイオリンを弾いた横島のリードは淡々として、古典派の曲目にはよく合っています。そして、それを支える会田の第2ヴァイオリンが秀逸であり、既に述べたように、彼女がギアを踏み込むと、楽曲が華やいで良い雰囲気になります。

白眉は第1楽章で、冒頭の停滞的だったのを除けば、落ち着いたリードに基づく、繊細なフォルムづくりが印象に残ります。中間2楽章は既述のように淡々としており、終楽章は一転して、やや強引なものに思えました。全体的に歌い方はレチタティーボ的な部分で優れており、アリア的な流麗なカンタービレではやや重く、フォルムが硬いといえます。しかし、オペラティックな構造観を丁寧に織り込みながら、さりげなく旋律を歌う演奏は、なかなか筋がいいのではないかと感じました。

【力ずくのブラームス】

2曲目は、ブラームスの弦楽四重奏曲第1番で、並びは会田・福田・横島・上村の順。実際にどうであるかは知りませんが、これが彼らの考える一応のデフォルト体型ではないでしょうか。しかし、結果的にはあまり良くなかったのです。ブラームスは響きに厚みがあることから、いちばん良くないのは、それを力ずくで実現しようとして力んでしまうことでしょう。これは弦楽四重奏曲に限らず、コンチェルトでも、ピアノ曲でも、何でもそうです。この曲では、特に第1ヴァイオリンの会田の気負いというのがつよく感じられ、それがダイナモとなって、とても華やかなフォルムを形成している面もあるのですが、ブラームスの好きな私には、すこぶる不満の残る解釈となっています。

ブラームスでは最終的に響きの厚みを出すことは必要であるにしても、まず優先されなければならないのは、信仰心につよく基づいた優しさや、繊細な押し引きの波の感覚を、さりげなく織り込んでいくことです。

アレグロの第1楽章から、アンサンブルの張り出しが耳につきます。表現の切れ味が鋭すぎ、ブラームスの場合は、もっと大事に抱え込むようなフォルムの作り方も必要です。ポコ・アダージョは慎重な音楽の運びで、まずまずだったと思います。舞踊楽章は必要以上に重く、下向的なサウンドが強調されすぎではないでしょうか。確かにブラームスはナイーヴですが、サウンドがあまりにも暗い傾向になっており、葬送曲のようなイメージさえ抱かされます。フィナーレは交響曲のようなボリュームがあり、聴き応えがありましたが、演奏者が熱くなればなるほど、なぜか冷めてしまうという不思議な体験でした。女性による外声が立ちすぎて、アーティキュレーションが単純化してしまっていたせいかもしれません。

いちばん疑問に思ったことは、彼らがブラームスの和声的な部分と、ポリフォニックな部分のどちらを重視しているかという構造観の問題でした。ひとりひとりが遺憾なく歌い、ラインの美しさは随所に強調されています。しかし、よく聴きあうはずのアミティエSQでありながら、ここでは、そのライン構造を全体で支えていくという発想がなく、大事なところで、和声に逃れてしまうようなぐらつきが感じられるのです。結局、響きは後期ロマン派のなかでも、ヒンデミットぐらい崩壊の進んだレヴェルに聴こえ、また、悪くいえば場当たり的な印象も拭えないのでした。

【まとまっていたラヴェル】

最後は、ラヴェルの弦楽四重奏曲ですが、これがいちばんまとまっていたと思います。並びは、福田・横島・会田・上村の順。まあ、一定レヴェルの技術をもつクァルテットであれば、ブラームスとちがって弾きやすい部類には入ると思います。とはいえ、歌い方などはよく研究されているし、押し引きの機微も他の曲に比べて、理解が深いように思われます。であれば、より深い切り込みに期待したいもの。例えば、第1楽章の旋律の受けわたしの濃厚なやりとりや、第2楽章のテクニカルな部分における、効果的な遊びなどです。第3楽章も、もっとこだわったサウンドやフォルムをつくれる人たちのはずだと思いましたし、ダイナミズムも、もっと幅を使うことができるでしょう。

白眉は、第4楽章です。やや素直すぎる響きではありますが、4つのパートがしっかりと噛み合い、ドイツ的な構造観がつよい演奏といえます。この印象は第1楽章から既にあり、主にリードの福田によるコントロールが、そのようなものにつながっていると考えます。パワフルな女性陣が低音に集中していますが、そのわりにバランスはいままででもっとも安定しています。会田はヴィオラでもガツガツ来てボロメーオSQの元渕舞を思い出させますが、役割から踏み出すことは少なく、アンサンブルはむしろ活き活きとしたものになりました。

優れた先達の録音などと聴き比べれば、確かに工夫の少ないものではあるのですが、力強く、快活なヴィブラートなど、印象に残るもののある演奏だったのではないかと思います。

【まとめ】

まだまだ、楽曲の良さに助けられている面の多い演奏ではありますが、それにもかかわらず、とてもいい印象をもって帰ることのできた演奏会です。またすぐに聴きたいとは思いませんが、将来が楽しみな存在として記憶に留めておきます。上村は八王子のコンペティションで実際に聴いたことがありますし、会田と福田は仙台国際音楽コンクールのストリーミング映像で耳にした記憶もありますが、みな、それぞれに長足の進歩を遂げています。そして、既に述べたように、4人があわさることで実力が何倍にも高まっているというあたりが、このクァルテットの可能性を示しているのでしょう。

なお、この演奏会の主催は、仲間うちで小さな室内楽の演奏会を催すことに始まった、音楽ネットワーク「えん」という団体でした。「弦楽四重奏の魅力 その豊饒な世界」の第5回と称しています。その意気やよしではありますが、ただのパイプ椅子で演奏させるのはさすがに可哀想ではないかと思いました。それ以外はなにも問題はなかったし、同好の士たちによるご努力に唾するつもりもないのです。今後の活動に注目したいと思います。

こういう風に若いクァルテットの可能性を論じ、生意気にも、若干、上から目線で見てみるのもたまにはいいですね。もちろん、偉そうなことを言っても、弦楽器なんか音程もつくれないアリスです。この若さで、あんなに良い演奏ができるなんて驚きです。しかし、それだけでは、クァルテットとして生き残れないことも確かなのでしょう。可能性は感じます。まず、声がいいですし、チームワークもとてもいい。自分たちがもっている可能性を本当の意味で掴むためにも、いままでどおり、貪欲に上をめざしてほしいと願います。

【プログラム】 2011年1月21日

1、モーツァルト 弦楽四重奏曲第21番「プロシア王第1番」
2、ブラームス 弦楽四重奏曲第1番
3、ラヴェル 弦楽四重奏曲

 於:日本福音ルーテル東京教会(礼拝堂)

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