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2011年1月12日 (水)

東響の首席チェロ奏者 ベアンテ・ボーマンが定年退職

東京交響楽団の首席チェロ奏者、ベアンテ・ボーマンは楽団の顔であった。シベリウス・アカデミーに学んだ音楽家で、優れた神父でもあるボーマンは日本に音楽が根付いていないことを残念に思っていたことと、神父として活動するためのビザ取得を目的として、東響に首席奏者として入団したという。そして、この2つの目的をボーマンは真摯に果たしてきた。どちらが主で、どちらが副というわけではない。いずれの立場においても、きっと、彼は誰よりも真面目で、熱心だったはずである。

福音派の牧師としての功績はよく知らないが、東京交響楽団では弦楽アンサンブルの要だった。近年の東響の演奏会で、白髪で、深い焦茶色の楽器をもったチェロ奏者のことを、この楽団の演奏会に足を運んだことのある多くの人たちは記憶に留めているだろう。見かけからして目立つが、その響きがきわめて素晴らしいことがその理由だろう。私がよく演奏会に通うようになった2000年代のはじめには、彼は既に、この楽団の重鎮となっていた。私はいち早く、この奏者の素晴らしさに注目し、聴けば聴くほど好きになっていった。

派手さはないが、技術的にしっかりしていて、とても落ち着いていて、優しく、滋味のある響きがいつも印象に残った。神父であると知って、なるほどと思ったものである。そういうこともあり、特に、信仰心に満ちたブラームスの作品や、宗教音楽でのパフォーマンスは特別なものであった。私が特に記憶している演奏会は、2006年3月の演奏会(東京芸術劇場シリーズ)で、小山実稚恵の独奏でブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏したときのことだ。

このときの前半2楽章、小山は力強いブラームスの曲ということもあって肩に力が入り、ブンブン鳴らしていた。オケはそれにあわせるのに精一杯で、チーム・ワークが完全に壊れてバラバラになり、協奏という感じではなくなっていた。指揮者は大友直人だったが、楽団をよく知った彼にとっても処置なしである。ところが、第3楽章、この曲で有名なチェロ・ソロを境に、アンサンブルが劇的に復活したのだ。小山は我を取り戻したかのようにマイルドな打鍵を取り戻し、楽団はよく聴きあって、いつもの東響らしい温かいアンサンブルに戻った。ボーマンは正に、神父が迷える信者に語りかけるように、穏やかで温かい響きをソリストと、自分の同僚たち、そして、指揮者に語りかけたのだ。

ブラームスの音楽とは、いまやっているようなものだろうか。もっと対話に満ちて、優しいアンサンブルがまずあるべきではないのか・・・。

終演後、ボーマンは大友や小山から、ソリスト並みに特別な扱いを受けた。オケの席から前のほうに呼び出され、深い感謝の意を捧げられるというのは、たとえ、この作品であっても珍しいことであるだろう。あのまま行けば、主にピアニストへの怒りばかりが記憶に残ったであろう演奏会が、みるみるうちに、私にとって最良の体験へと変わってしまった。音楽とはこういうものである・・・こういうこともできるものだと気づいた、多分、初めての演奏会であった。

ボーマンが相当のベテランであることは見かけからもはっきりしているし、前回、首席奏者のセレクトがおこなわれ、西谷牧人が入団した折に、彼が引退するものと思っていたが、幸い、それは杞憂であった。しかし今回は、その西谷のホームページではっきりボーマンの定年退職が話題になっている。そんなことと知っていれば、1月8日、ボーマンが正式な首席奏者として演奏する最後の定期演奏会には足を運んだのに! このあたり、楽団がわかっていないと感じるところだ。例えば、サッカーのカズさんが引退するとなったら、最終試合はいつで、引退セレモニーは・・・という告知は、絶対におこなわれるはずだ。ボーマンのような奏者が最後の舞台を務めるのに、何の告知もないとは残念である。ファンにとってもやっぱり、定演というのは特別な機会だから・・・。

 めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に
   雲がくれにし 夜半の月かな  (紫式部)

現在、首席奏者のセレクションがおこなわれており、ボーマンの代わりとなる人材を見つけるのは難しいとは思うが、なるべく良い奏者と巡り会えることを期待したい。ただし、このセレクションがおわるまでだろうが、ボーマンは引きつづき客演首席としてステージに立つそうであるし、チェリストとして引退するとは言っていない。東響の舞台に今後、いつ乗るのかがわかれば、あとで追記したいと思う。楽団が教えてくれればの話・・・。多すぎて書けないかも・・・。

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コメント

初めまして、ベアンテ・ボーマン先生を敬愛する者です。
チェロを始めたきっかけの一つがボーマン先生との出会いでした。
今でも先生のCDは愛聴しています。
先生はあのポール・トゥルトゥリエ、トォルトゥリエの高弟アルト・ノラスに
師事された方です。
まあ、どなたに指示されたかではなく、
ボーマン先生の演奏そのものがその素晴らしさを伝えています。
ブラームスはチェロにステキな旋律を沢山与えてくれましたが、
あのピアノ協奏曲第2番のチェロソロも出色ですね。
先生が奏でるあのソロ、さぞかし素晴らしかったことでしょう。
東京交響楽団を退職されたのですか。
お元気で、これからもご活躍されることでしょう。
ソリストとして、伝道者としてのボーマン先生の素晴らしさは
存じ上げておりましたが、
オーケストラ奏者としての先生の素晴らしさを教えていただき、
ありがとうございました。

えにおさん、コメントありがとうございます。

ボーマン首席の退団に際しては、日経新聞などにも記事が載ったようです。現在もチェリストとしての活動を継続なさっているようですが、大きなマネジメントがついているわけではないですし、私のような者が出演情報を具に捕捉するのは難しくなりました。どこかで聴く機会があるかもしれませんし、聴けば、ここで書くでしょう。

現在の活動は、例えば、こんな感じのようです。
 http://iwama.exblog.jp/16028830/

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