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2011年3月27日 (日)

沼尻竜典 ブラームス 交響曲第2番 ほか 群響 東京公演 3/26

【地方都市オーケストラ・フェスティバルの中止】

書き漏らしていたが、今回の震災の影響で、すみだトリフォニーホールを舞台とした恒例の「地方都市オーケストラ・フェスティバル」は、群響の公演を除くすべての公演が中止となった。事業仕分けの結果、廃止となる宝くじ広報事業による助成が財源となっていたフェスティバルは今シーズンが最後になるかもしれない状勢であり、残念な事態となった。そのなかで地理的な近さもあり、初回から皆勤の群馬交響楽団だけは公演を維持した。群馬は在来線やマイ・カーで来られる距離であり、フェスティバルの金銭的助成を受ける必要がなかったせいもあろうと思う。

当初は東響の公演に行きたいと思っていたが、そちらは大きく内容が変わり、上のような事情もあって群響の公演を聴いてみることにした。沼尻体制になってから初めて聴くことになり、名古屋のチャリティにも参加したという小菅優の演奏も、久しぶりに耳にしたかった。そして、曲目も私の好みの曲ばかりであった。

【沼尻は未だオーケストラを掌握せず】

ところが、結果的にみると、いささかスカを引いたと感じるコンサートである。これまでの公演では、マーラーやショスタコーヴィチという演目で、群響の技術的な拙さを感じることは少なかった。高関健という指揮者は地味だが、あまり器用とはいえない群響の良さを最大限に引き出して、彼の細々とした楽曲分析とすり合わせる能力に優れている。その点で、沼尻竜典は未だ、このオーケストラを完全に把握しきれているとは言いがたい現状が露呈した。特に今回は、そうした要素が顕著に表れる古典派、および、そのもっとも濃厚な継承者であるブラームスだけに、難しかったといえるだろう。

あまりにも足りない音の厚み、音色の少なさ、単調で変わり栄えのしないアーティキュレーション、アンサンブルの受け渡しの甘さ、許容範囲を超える音程の辛さ・・・群響の弱点が次々に露呈し、彼らの頑張りはよくわかるだけに、歯がゆくてならない。もちろん、私の場合、今回のように親密な曲目では点数が辛くなる傾向はあるものの、それを割り引いても悪口満載になりそうなので、細かく書いていくことはしないことにする。

【ブラームスの緩徐楽章は佳演】

そのなかでも、白眉はブラームスの緩徐楽章であろう。

ブラームスは交響曲第1番を書き始めてから完成するまでに、20年以上もかけたという。その間に、日の目を見なかった旋律は宗教曲や協奏曲などに転用された。逆にいえば、それらの楽曲で試された素材の扱いが、1876年初演の交響曲の創作に生かされていくわけであるが、特に、私はブラームスの厚い信仰心を確かめ、それと楽曲創作のふかい絆を知るためにも、『ドイツ・レクイエム』の研究は交響曲の演奏に欠かせないと信じるものである。

この緩徐楽章冒頭の和声は、明らかに『ドイツ・レクイエム』の神秘的なところを受け継いでいる。それまでの演奏からさして期待していなかったが、そこから展開する落ち着いた響きなど、この演奏会で追い求めていたソウルフルな響きがようやく浮かび上がり、私たちが群響とコミュニケートできた数少ない部分であったと思う。未曾有の惨事を体験しているだけに、やや暗めの音色であるが、そのなかに群響らしい温かいサウンドの特徴が溶け込んでいる。このオーケストラの良さは、「人柄の良さ」とアンサンブルとしてのまとまりである。それらがこじんまりとせず、スケールの大きな展開の中で生かされたとき、彼らは自らの欠点を超える演奏できるのだ。

不穏な弦のトレモロなど、もっとアクションが大きくても・・・と思うが、沼尻はインテンポで、手綱を引き締める。他の楽章で見られたアンサンブルの綻びは少なく、大事に演奏されている。ブラームスでは、大事な女性や客人を扱うような恭しさが必要不可欠だ。少しでも邪険になれば、同じような響きがまるでちがった性質を示す。それは最後、残念だった木管の響きに象徴される。あれで、素晴らしかった第2楽章が台無しになる。一方、大げさになりすぎれば、映画音楽のようなだらしなさになる。その加減がなんとも難しいのであるが、これにヒントを与えるのが、『ドイツ・レクイエム』の魂なのである。こちらの方向での逸脱は、沼尻がはっきり食い止めていた。

【小菅優のワンダーな魅力】

ピアノ協奏曲では、最初のほうに名前を出した小菅優が登場した。ベートーベンの4番は昨年、チッコリーニ&ハウシルト指揮新日本フィルの演奏で大変な体験に立ち会った。あらゆる意味で協奏曲をメインとした公演と、オーケストラ公演の中プロで用意されたプログラムでは多少、出来栄えに差があるのは止むを得ないにしても、それでも差は大きかった。

まず、沼尻はコンペティションなどでコンチェルトを指揮する機会も多いが、さほど魅力的に感じたことはない。ハウシルトが素晴らしかったのは、チッコリーニが弾くスタイルを先取りして、その息吹をオーケストラ部で丁寧に拾って、作品全体の構成を際立たせたことにある。短い伴奏部分でも、ピアニストのもう一本の手のように神経の通った、調和した響きを引き出し、常に隙なく構えていた。一方、沼尻&群響は待ちの姿勢が感じられる。従順ではあるが、表現が本質的とはいえないのである。

小菅優は、相変わらずワンダーなピアニストだ。基本的な表現スタイルは、ベートーベン的なステロータイプとはまったく異質なものであり、一切の力みや粘りづよさみたいなものを放棄して、さらっとした響きだけで作品を構築する。打鍵の細やかな美しさには磨きがかかっており、正に清廉潔白。第3楽章最後の小カデンツァでは、ブゾーニ的なあやしい即興性を垣間見せるなど、持ち味が出ている。ただし、その持ち味が群響とのコンビワークで完全に引き出されていた部分は少ない。むしろ、彼女の本質は、アンコール・ステージのシューマンで最大限に発揮されており、現時点では協奏曲というよりは、ソロや室内楽のなかで良さが輝きそうな特徴を示している。ときどき、隙のある打鍵も改善の余地がある。

本来、アンコール・ステージについて詳しく語りべきではないが、そこで演奏されたシューマンは、作品に浮かぶ僅かな旋律線にベートーベンの面影をイメージさせたうえで、即興的な部分を膨らまして、そこに彼女の想いを託し、このコンサートのめざす被災者への祈念までを明確に表出したパフォーマンスと感じられた。響き自体はとてもさらっとしているが、想いの部分がつよい演奏であったといえそうである。小菅については賛否両論あるものの、このようなコミュニケーション能力においては、やはり同世代で抜きん出たものを持っているといっても過言ではないだろう。あとすこし、作品全体を貫く誠意のようなものが膨らんでくると申し分ない弾き手になるであろう。ベートーベンに対しては、その点が不満である。

【沼尻体制は前途多難】

というわけで、新しい沼尻体制にはいささか不安を感じた群響の公演である。どちらかといえば、沼尻のもつコネクションや政治力に期待しての起用と思われ、その点、来期のシーズン・プログラムには変化もみられる。例えば、大野和士やユベール・スダーン、ギュンター・ノイホルト、トヌ・カリユステ(コーラス・マスター)といった世界的な活躍をしている指揮者が登場し、群響をビシビシと鍛え上げていくことになりそうだ。数年後、群響がどのように変化したかに期待したいものだ。

最後になったが、この演奏会冒頭、楽団の理事が舞台に登場し、震災について厳かにコメントした。いささか長く、月並みな発言をここで紹介することはないが、追悼演奏でいわゆる『G線上のアリア』(オケの追悼演奏もこればかりで工夫がない)を弾いたあと、観客を起立させて黙祷。一旦、全員がはけてから演奏会を再スタートするなど、厳粛な雰囲気に徹したのはよかったのではなかろうか。いささか硬いとしても、群響の個性が出た一幕である。

なお、ご多分に漏れず、当初予定の指揮者、カール=ハインツ・シュテフェンスが来日せず、首席指揮者兼ミュージック・アドヴァイザーの沼尻竜典が急遽、指揮台に立った演奏会であった。

群馬は震災による被害はあまりないが、多くの避難者を受け入れており、群響もこれらの被災者のこころを励ますような無料演奏会などを計画しているということであるので、そのことは、是非とも書いておきたい。また、募金活動も積極的につづけていき、集めた金額は1回ごとにHPで公開していくそうである。募金呼びかけの幟までつくり、その姿勢には頭が下がるところだ。

【プログラム】 2011年3月26日

1、ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲

2、ベートーベン ピアノ協奏曲第4番

 (pf:小菅 優)

3、ブラームス 交響曲第2番

 コンサートマスター:水谷 晃

 於:すみだトリフォニーホール

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