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2011年9月 9日 (金)

第3回定期演奏会 「柔よく剛を制す」 (室内楽)

NMLのプレイリストを使って、「アリスの音楽館」が定期演奏会をお届けする企画の第3回。今回は、室内楽を取り上げ、「柔よく剛を制す」をテーマとした。

まず、「室内楽」の規定であるが、ざっくり人数で分けても良いのではないかと思う。楽器+伴奏によるソナタ作品なども含むデュオ、それに、トリオ、クァルテット、クィンテット、セクステット、セプテット、オクテット・・・とつづき、最大何人までなのかはわからぬが、例えば、ライヒの『18人の演奏家のための音楽』なども「室内楽」の範疇に入れられていることを考えると、かなり広い概念なのであろうとは思う。しかし、私はせいぜい(クァルテット×2)の規模となるオクテット(八重奏曲)ぐらいまでが「室内楽」ではないかという風に決めつけてしまおう。もちろん、何事にも例外はつきものという前提で・・・。

さて、室内楽は多くの場合、誤ったイメージでとらえられている。曰く、室内楽は迫力がない。交響楽には劣る。曰く、室内楽は王侯貴族やブルジョワのサロンで演奏された甘ったるい音楽だ。大きな意義はない。曰く、室内楽の表現はチマチマしている。同じようなものばかりで特徴がない。これらのイメージはみな、室内楽というものに対する偏った見方である。確かに、室内楽は王侯貴族やブルジョワジーのサロンで発展した。しかし、それがなんであろうか。交響楽も、そういう場所から発展したのである。もちろん、その表現は多様であり、例えば、ベートーベンとハイドンの間でさえ、かなり異なっている。否、ベートーベンは変人だから除外するとしても、モーツァルトとハイドンの間でさえ、随分とちがっているのだ。私のみるところ、交響楽はバイクのマフラーを改造して音をでっかくしたり、派手にデコトラを飾り立てたりするメンタリティに似ているが、室内楽はもっと細かいバイクやクルマのチューニングをおこなって、実際に性能を良くするようなメンタリティに向いているように思える。

そして、結局のところ、その音楽の迫力は交響楽のように、物理的な響きの大きさに依存せず、その歌い方や響きという面において、聴き手のうちの奥深い部分に音楽のダイナミズムを及ぼすことになる。そして、数少ない奏者で演奏するからこそ、そのコミュニケーションの深さや連動がつよく問われるのであり、室内楽の大いなる楽しみは、この種の磨き上げというレヴェルにこそ存在する。一方、室内楽には suite のように、気の合うもののどうしや、師弟などが気軽に手を組んで演奏できるというメリットも存在する。そのため、フェスティヴァルなどでは室内楽は大きな武器であり、例えば、その場にしか集えないようなスターどうしを組ませてみたり、大物と駆け出しの若者をまぜて演奏させてみるなどの試みが可能である。ただ、そうした使い方は、私にとってはあくまでサブであるという感じにすぎない。

少なくとも、「柔よく剛を制す」というような言葉を連想させる表現は、いま申し述べた後者のやり方では、なかなか実現が難しいように思われる。しかし、今回のプログラムでは、そこまでは考えないことにしよう。

【プログラム】(→NMLページへ
 1、ドビュッシー ヴァイオリン・ソナタ
  (vn:D.グリマル pf:G.プルーデルマッハー)
 2、ウェーバー  フルート三重奏曲
  (fl:S.プレストン vc:J.W.クラーク pf:R.バーネット)
 3、モーツァルト 弦楽四重奏曲第21番「プロシア王第1番」
  (ペーターゼンQ)
 4、ミスリヴェチェク 八重奏曲第2番
  (S.リッチマン指揮ニューヨーク・ハーモニー・アンサンブル)
 5、プッチーニ 菊の花

デュオ、トリオ、クァルテット、オクテットと、きれいに数が増えていく構造だ。これでは、やっぱり数が多くなるごとに「剛」の要素が増していくのではないかと考える人もいるだろう。しかし、特に後半の3曲目と4曲目のプログラムの並べ方に、私は自信をもっている。実のところ、私はオクテットからクァルテットへいくことで、「ほら、四重奏曲でも八重奏曲に勝てるのだ」という安易なシナリオを最初は思い浮かべていたのである。ところが、前のウェーバーとミスリヴェチェクがともに管楽器中心であるため、響きが似通ってしまうのが悩みの種となった。そこで、私は最初の単純明快な構想を捨てて、試みにモーツァルトを先にしてみたのだ。すると、流れはたちまちスッキリして、水が高きから低きに流れるような鋭い構造が浮かび上がった。

実際、このプレイリストを聴かれた場合、モーツァルトのあとミスリヴェチェクに移ったとき、冒頭こそ、響きのゆたかさに「剛」の要素を感じられるだろうが、注意力ゆたかな方々ならば、やがて、この音楽にも、先程のクァルテットのエネルギーは全然、負けていないということに気づくことができるはずなのだ。それはモーツァルトに対して、ミスリヴェチェクという(弱い)作曲家をもってきたせいであろうか。もちろん、そんなことはない。私は自分のイメージを押し通すために、恣意的にモーツァルトに負けるような音楽をもってくるという愚を犯そうとは思わなかった。私はオクテットのなかでも響きがゆたかで、華やかなる作品に対して、クァルテットの強みを堂々と表現したかったのである。ミスリヴェチェクの作品は、それに相応しいものと思われた。

なお、ミスリヴェチェクは、モーツァルトの同時代人である。やや先輩というべきか。器用に身を立てることには失敗し、悲惨な最期を遂げるものの、イタリアでオペラを発表するなどして、チェコ圏で生まれた作曲家として、もっとも最初に国際的な名声を成したうちの1人だ。モーツァルトと接触し、彼の手紙のなかにはミスリヴェチェクに対する敬意を表したものがみられるという。

最初に、私はドビュッシーのヴァイオリン・ソナタを置いた。この「ヴァイオリン・ソナタ」という形式が、私が室内楽を語る端緒として、もっとも相応しいと任じたものである。このフォームで良い作品はいくらもあるが、そのなかでドビュッシー最後の作品を選んだ理由は、ハッキリしたものがあるわけではない。しかし、規模もコンパクトで、曲想のよくまとまったこの作品から始めることは、意外に早く思いついていた。チェロ・ソナタとどちらにしようか迷ったが、もっとも基本的な楽器としてのヴァイオリンの力に期待した形である。演奏者はフランス圏音楽家のなかでは非主流派のヴァイオリニスト、フィリップ・ヒルシュホーンに薫陶を受けた若き音楽家、ダヴィド・グリマルである。

つづいてトリオに移るのは、誰にでも思い浮かぶ発想だが、ヴァイオリン・ソナタを最初にし、弦楽四重奏曲をあとに置く構想(当初)であったため、ヴァイオリン、チェロ、ピアノというもっとも単純なトリオの作品は避け、管楽器をメインにしたものを探った。管楽器のみのトリオ・ダンシュなども候補に入ったが、私の好きな作曲家、ウェーバーの作品に魅力的な作品の、かつ、魅力的な録音を見つけた。作品は硬軟織り交ぜた表現ながら、感情的にも起伏に富んだ優れた作品であろう。ロマン派の入口に立ちながら、古典派の扉をも大事に守るウェーバーらしい特徴的な作品でもあった。

演奏者のステファン・プレストンは古楽を究めた奏者であり、音色からいって、現代的なフルートではなく、木製のフラウト・トラヴェルソを使っているように思われる。チェロのジェニファー・ワード=クラークも、英国の王立音楽院で教鞭をとったバロック・チェロの大家。伴奏は歴史的なピアノの収蔵家としても著名なリチャード・バーネットである。このトリオによる古楽器によるアプローチが作品の魅力を自ずと高めているのは言うまでもない。

さて、モーツァルトの弦楽四重奏曲では、私はなんといっても「プロシア王セット」に敬服する。とりわけ、第1番はキャッチーで、華やかな魅力に溢れてお気に入りである。この作品を室内楽作品の「女王」として、大事なところに置くのはいちばん最初に思いついたことだ。ペーターゼン・クァルテットの活き活きとした演奏でお楽しみいただく。

最後は、ミスリヴェチェク。演奏するハーモニー・アンサンブル・ニューヨークは1979年に、音楽監督兼指揮者のスティーヴン・リッチマンによって設立された団体で、クラシックからジャズまで、米国の音楽の「オリジナル・スタイル」を追究して、それを米国らしくスタイリッシュに演奏して世に広く問うという活動を展開しているらしい。この作品を併録したCDに含まれるクロンマーの作品では、ソリストとしてボストン響やメト管のホルン奏者が参加している。

最後は、プッチーニ名品『菊の花』である。管弦楽編曲で、アンコール・ピースとしてもよく演奏されるが、元来は弦楽四重奏のレパートリーだ。ルクセンブルク・フィルハーモニア(いまクリヴィヌが率いるルクセンブルク・フィルとは別もののようだ)の指導者にしてヴァイオリニスト、マーティン・エルムクィスト率いる弦楽四重奏で聴いていただきたい。

さて、次回は管弦楽に戻り、「豊かさと音楽」というテーマで音楽を取り上げてみたい。

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