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2011年12月 1日 (木)

ギュスターヴ・シャルパンティエ イタリアの印象 ~ジュール・マスネの弟子たち

【マスネの弟子たち】
ジュール・マスネの門下はガブリエル・フォーレのそれほど華やかではなく、エルネスト・ギロー=ポール・デュカ(後継にメシアンが連なる)、さらには、セザール・フランク=ヴァンサン・ダンディ(後継にアルベール・ルーセルなど)の門下のように、後世につよい影響を及ぼしたというような面もあまり指摘できない。しかし、それにもかかわらず、この時代と深く結びついた数多くの作曲家が、一所懸命的に才能を開花させた。今回、主にその作品を紹介するギュスターヴ・シャルパンティエのほか、レイナード・アーン、ガブリエル・デュポンなどの作曲家がそれである。形式等の目にみえる形で、彼らの作品は後世とはつながっていないが、その中身には多くの「新しい」作曲家たちも感嘆を示すであろう。

イタリアでいえば、プッチーニの位置どりというべきかもしれない。アッバード家にはプッチーニのスコアはまったくないそうだが、そういうことが、さも正しいことと思われるなかでは、誰しもプッチーニを尊敬しているなどとは言うわけがないだろう。しかし、こころのなかでは、いつも彼の音楽に憧れているものだ・・・。

また、代表的な「フランキスト」としても知られるエルネスト・ショーソンも、表向き法学を学ばねばならなかったことから、はじめマスネに私淑していた。後には全面的なバックアップを受けるが、ローマ大賞がきっかけでコンセルヴァトワールを去る。ワグネリアンとしての活動を経て、ダンディほかのフランキストと親しくなった。2つのこころを同時に受け継いだ彼がもっと長生きしてくれれば、状況は随分と変わっていたかもしれないが、歴史に if はないというものだろう。

【ギュスターヴ・シャルパンティエ】
表題に掲げた曲『イタリアの印象』を書いたギュスターヴ・シャルパンティエは、今日、しばしば演奏される唯一の作品、歌劇『ルイーズ』によって知られている。オペラそのものは知られずとも、そのなかのアリアは過去の名花も多くレパートリーに入れていたものだ。シャルパンティエは我々からみると洒落たようにみえる、そのファミリー・ネームとは関係なく、町家に生まれた人である。14歳で工場へ働きに出されて、本来なら、音楽を学ぶような環境ではなかったであろう。そこが、この時代のフランスの奥深さである。工場の雇い主は音楽に対する造詣が深かったのか、シャルパンティエが趣味で弾くヴァイオリンの音色から、その只ならぬ才能を確信したようだ。

雇い主の支援により、シャルパンティエはリヨンやパリの高等音楽院への入学を果たしたが、パリでは教官と対立して学校を飛び出してしまった。それを拾い上げたのが、マスネであったという。ショーソンとは異なり、カンタータ『ディドー』でローマ大賞をしっかり受賞、マスネ・クラスの優等生と成り上がったシャルパンティエが、イタリア留学の手土産に書いたのが『イタリアの印象』。さらに前述の『ルイーズ』が当たって、順風満帆に船出した。女子音楽教育にも乗り出すなど、意欲的なシャルパンティエにミューズは微笑むはずであった。しかし、その後の活動は鳴かず飛ばずとなってしまい、第1次大戦のころから時代の荒波を突き抜けることに困難を生じるようになった。

その結果、生きているうちに再評価が起こって勲章など貰ったりしたのはせめても慰みだが、その頃にはもう、完全に創作意欲を失っていて、シャルパンティエの書棚には数少ない作品しか残らなかったのである。

【イタリアの印象】
さて、『イタリアの印象』は管弦楽による、5つの小品で構成されている。第5曲「ナーポリ」が先に作曲され、大賞の留学要件を果たすために、パリの学士院に送られた。それに加筆して5曲が書かれ、勢いのなくなる1913年に改訂を施している。そのことから、シャルパンティエにとっては正しく、最初で最後の傑作となっているわけである。

第1曲は「セレナード」で、ゴンドラに揺られながらゆっくり波を過ごし、目にみえる風景を描写的に描いた作品という感じだ。印象派的といって、何の差しさわりもないが、どこかしら、シューベルトの『ロザムンデ』(劇付随音楽)を思わせるようなサウンドの特徴も、ときどきデジャヴー的に感じられる。

2曲目は、”A la Fontaine” で訳すと「泉のほとり」となるが、詩人のラ・フォンテーヌにもかかっているのだろう。先の叙景詩的で透明なサウンドに、ほんのり寓話的なエピソードが載っている。とても短く感じられる、凝縮したポエジーの支配する1曲である。3曲目は「ロバに乗って」。スケルッツォ的なおかしみが感じられるナンバーで、一見、勇壮なギャロップも聴かれる曲に、敢えて「ロバ」という題名がついている。確かに、その本性がみえるのんびりした部分も描かれている。美しいが、ところどころにシニカルな響きなどが混ざっていて、ロバといえば、セルバンテスの『ドン・キホーテ』を連想することから、前曲同様、二重のイメージで響きをつくっていることになる。

4曲目は「山の頂にて」となり、アルペン・ホルンが爽快に響く描写的な音楽。山の高さを感じさせる大胆な上昇音型など、スケールの大きな部分もあるナンバーであるが、リヒャルト・シュトラウスのように気宇壮大というよりは、もっと素朴な共感に満ちた作品であるように思われる。

唯一、10分を越える最後の「ナーポリ」が主曲である。このナンバーは歌劇のなかの作品のように活き活きとしているが、それは同地の舞踊(サルタレロ)に基づいた独特のリズムを取り入れたことによる。ベルリオーズ、メンデルスゾーン、レスピーギなど、これに注目した作曲家は多いが、シャルパンティエはその活力をワーグナー的な響きのオーガナイズと結びつけようとしている点で、特徴を見出すことができる。チェロの中低音域による独奏が作品の抒情性を高めるのに効果的に用いられているが、その間奏を経ると、いつの間にか舞曲の毒性がなくなっているのが面白いところだろう。ところが、終盤はこれがつよいメタモルフォーズをみせ、いつしか聴く者を別世界に誘い込んでしまうのが凄いところだ。

【参考録音】
参考録音としては、エルヴェ・ニケ指揮ブリュッセル・フィルのものを取り上げた。ニケは古楽界の泰斗、ウィリアム・クリスティの主催するレザール・フロリサンに参加し、のちに独立しては、ル・コンセール・スピリテュエールの活動などで気勢を上げているが、シャブリエ、グノー、ドビュッシー、それに、このギュスターヴ・シャルパンティエなども録音しており、バロック研究から近代音楽への発展というところに、傑出したイマジネーションを披露している音楽家でもある。この『イタリアの印象』は、そのなかでも特にクオリティの高い仕事である。

ローマ大賞受賞作の『ディドー』をはさみ、同じくイタリア留学中に書かれた交響劇『詩人の生涯』は、1時間弱にもわたる壮大なカンタータで、この作品ではワーグナーと、恩師・マスネの影響がより濃厚に読み取れるであろう。その壮大な響きの組織力には、もちろん、只ならぬ才能を感じる。時代背景もあるが、キャリアの初期に、このような傑作を書いてしまったことが、シャルパンティエ自身を苦しめたのかもしれない。

【アーンとデュポン】
これで終わってもよいが、ことのついでに、同門のアーンとデュポンの作品も取り上げておく。

アーンはベネズエラの出身で、3歳のときに家族ぐるみでパリに移住してきた。のちにはベネズエラ国籍を脱し、フランス国籍を取得した。マスネの弟子のなかでも、特に目をかけられた弟子として知られるが、師のマスネをはじめとする音楽家や文化人からの圧倒的な称賛にもかかわらず、軍で活動したり、ジャーナリズムのなかで働いたり、一本道の音楽人生というわけではない。中米の出身者が、簡単に活躍できるような社会でもなかったのだろう。アーンは実務家として、パリ・オペラ座の監督、それに、指揮者や伴奏者としても活躍した。そして、その有り余る才能は専ら、歌曲の世界のみで残ることになった。

例えば、ヴェルレーヌの詩に基づく『灰色の歌』は、正に、その灰色ぶりをフランス的な色彩のゆたかさに頼らずに、粘りづよく描き上げた名品だ。この有名な詩は日本の文学者もいろいろに翻訳しており、これらと見比べて楽しむのも一興というものだろう。選んだ録音は、バリトンのジャン・フランソワ・ラポワントによるノーブルな音源である。

ガブリエル・デュポンはノルマンディー地方の教会オルガニストを務めた父親の指導を受け、音楽家としての基礎をごく自然に身につけた。だが、36歳で夭折しており、その作品は多くない。有名なのはピアノ独奏曲『砂丘に立つ家』で、これも美しくゆたかな詩情に恵まれた作品だ。エミール・ナウモフ(米国、インディアナ大学教授)などの録音もあったが、ややドライな印象ながらも音楽の活力を丁寧に拾った、パリの区立音楽院で教えるフランソワ・ケルドンキュフの演奏で聴いてもらいたい。

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