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2012年4月17日 (火)

カンブルラン ストラヴィンスキー ペトルーシュカ 読響 サントリー定期 4/16 ①

【音楽家たちの恣意性を暴く演奏】

オーケストラの指揮者とは、難しい稼業だ。彼が扱うような作品の良さは、きっと、我々が期待するものよりもずっとささやかだ。そのため、作品本来の「ささやかさ」に敬意を表した演奏は、たちまち不人気となる道理でもある。我々はより豊満に、輝かしく、整然と鳴り響くことを期待し、その欲望をそのまま演奏の良し悪しと結びつけて考えたがる。しかし、作品は私たちの欲求不満を和らげるためにあるのではない。音楽は私たちとともにあるべきものとはいっても、私たちの欲求を無制限に満たすものでは決してないはずだ。だが、多くの指揮者たちは、この無制限の欲求にいつも向き合っていなくてはならず、そして、大抵の場合は、その欲求に対して膝を屈することも辞さない。

そういう浅薄な指揮者ばかりが、いま、話題となっているわけである。隠れたものであれ、よりあからさまなものであれ、彼らは、作品を時代精神にしたがって歪めることも当然だと考えているようだ。彼らの想いにも一理はあるが、芸術家としてあってはならないものの考え方であろうと思う。その結果、オペラの世界ではどんなことが起こったろうか。それはジャーナリストや、一部の舞台人たちを喜ばせはしたが、心ある音楽の使徒である指揮者や歌手たちは泣いて哀しむよりほかになく、それになんといっても、観客は舞台からさらに遠ざかる結果となった。

カンブルランと読響による『ペトルーシュカ』の演奏は、そうした時代精神に冷や水を浴びせるものである。あらゆる聴き手の欲求や、それに応えようとする音楽家たちの恣意性をこれほど厳しく暴いた音楽もあったろうか。いままで聴いてきた『ペトルーシュカ』とは一体、何だったのであろうか。私は自分のイメージに、何度も訂正を入れざるを得なかった。しかし、そのことにまったく反発は感じない。これほど愛している曲なのに、自分がこうと信じるイメージを変えることに何の躊躇いも感じないのである。明らかだったからだ。そうじゃないんだということが!

例えば、謝肉祭のシーンの冒頭の華やかな音楽・・・ここも私にとっては正に「ツボ」な美しい音楽で、本当なら、はじめからガンガン盛り上げてもらっても構わないところだ。しかし、序景の部分には人の動きがない。響きを重ね、ようやく人々が集まってくるところで、その動きの重みを感じさせるようにふわっと盛り上がる。ここから短いクライマックスを経て、クマを連れた農夫が現れるところで響きはさっと「しまわれる」。このキビキビした出し入れが、ペトルーシュカの死まで断続的につづくのだ。出しっぱなしではない。出してはしまう。この几帳面な配慮が、いかに個々の場面の印象を輝かせることか。その響きが人形遣いの、見事な手さばきを想像させるのは言うまでもないことだが。

【バレエの秘密は音楽が、音楽の秘密はバレエが】

その選択は、明らかにバレエ的な感覚のなかで自然である。つまり、どんなに華やかで賑やかそうな音楽も、バレエ・ダンサーの存在なしには、真の重みを得ることはない。逆に、弱奏で弾かれるところであっても、ダンサーの動きによってはインパクトをかけることも必要だ。コール・ド・バレエの出る華やかな部分と、弱奏でペトルーシュカが踊る場面を比較すると、踊りのうえでみたときに、その象徴性の強さは音響面とは逆様に印象づけられる必要があるだろう。つまり、群舞の場面が、ペトルーシュカのシングル・ダンスの印象を上回るのは、いかに音楽的に正解であるといっても、作品の本質とは噛み合わないのである。カンブルランはそういうことを、場面ごとにひとつひとつ検討していった結果として、このような音楽をつくっていったにちがいない。

彼の音楽を聴いていれば、糸で接続された関節の動きまでしっかりと読み取れるはずだ。ここは群舞で、ここはペトルーシュカが一人で踊っており、あるいは、別の場面ではバレリーナが絡んでいるということが、目に浮かぶように演奏されている。響きやインパクトのうえで、局所的により効果的な演奏というのはあり得るだろう。しかし、これほどバレエ的な洗練のある演奏ということになれば、他ではなかなか味わうことができないものである。もちろん、このまま踊り手に振りつけても大丈夫だというわけではない。ここからが音楽家と舞踊家の勝負なのであり、話はそう簡単ではないとわかっている。

【具体論=ペトルーシュカ】

しかし、次のようなことは言えるだろう。音楽とバレエの関係は、いつも不幸で喧嘩ばかりの夫婦のように言われてきた。曰く、2人は同じ家には住まないほうがよい。性格も、何から何まで折り合うはずがないのだから。よって、別居状態の音楽がバレエの舞台を訪れるときには、音楽が借りてきた猫のようになるべきで、反対に、音楽のコンサートでバレエ音楽を使うときには、もう踊ることなど考える必要はないと言われてきたものなのだ。いま、カンブルランの演奏を聴いて、こうした考えは甚だ「現代的な」ものであると思わざるを得ない。本当は、こういうことになるはずだ。バレエの秘密は音楽が知っている、音楽の秘密はバレエが握っている!

序盤の音楽に、耳を傾けよう。導入部の弦楽器は、いきなりヴィヴィッドな部分には入らない。響きを締めて、フルートほか管の響きの熟すのをゆっくり待つ。それなりに昂揚を経たあとも、しばらくは管のイニシアティヴをずっと見つめての演奏である。笛の音に合わせて、ペトルーシュカが登場する。管の見事なバランスと、絶妙なタイミングにより、マリオネットの糸の動きまでが目に浮かぶようだが、この部分が明らかに序盤のヤマをつくる。派手な背景の響き、多分、それなりに賑やかな群舞のあるところに、決して呑み込まれはしない。音量や、響きの多さばかりに惑われてはならないのである。

いよいよマペットが登場したあと、「ロシアの踊り」を舞う場面が明らかに昂揚するのは当然である。そして、ペトルーシュカの内面描写である第2場に深い印象が来るのも、これまた実に当然のことなのだ。印象的なのは太鼓のけたたましい響きのあと、弱音器をつけたトランペットがそれでも足りずに響きを絞り、聴いたこともないような繊細な響きで場面を描写するその凄まじさである。

バレリーナとムーア人が踊るワルツは、まったく美しくはない。リズムや音高、和声のズレが、非常に鋭いエッジをつけて表現される。この居心地の悪いズレが、結局、ペトルーシュカの破滅を招くわけだろう。これが市場の場面の華麗な描写と対比されるわけだが、謝肉祭の出しものは、ペトルーシュカの悲劇のなかで常に暗鬱な矛盾を抱えている。いつも苦味を抱えた甘み、それが音楽の印象にしっかり貼りつけられている。ただただ楽しい人形劇ではあり得ない。この作品にはどこまでいっても、苦みしかないはずだ。たとえ、どんな甘美な場面にさえも!

後半は1947年版の特徴であるキビキビとして、凝縮した詩情をしまいまで丁寧に拾っていく。出してはしまう。几帳面に。そういう風にして、最後の亡霊のシーンまで一息に表現してしまった。カンブルランは謝肉祭のシーンでは結構、手綱を緩めてアーティストたちのさせたいようにさせている。だが、ダンサーの動きの絡む場面は、きっちりとコントロールしているのがわかるだろう。そして、人形が亡霊となって襲ってくる最後の場面を経ても、やっぱり、きっちりと出したマペットを戻すことは忘れないのだ。出しては引っ込める。そこですべての音楽がおわる。ひっくり返したおもちゃ箱を、そのままにはしておかない。これこそが、今回の音楽の本質であろう。

ここで一旦、締めることになるが、今回の『ペトルーシュカ』の演奏ほど作品の味わいに忠実な、バレエ的な演奏などは聴いたことがない。これを実現するのに、カンブルランはきっと、パリかシュトゥッツガルトあたりで相応のバレエ公演に接してきたのだろうし、もちろん、音楽家の先達の仕事にもことあるごとに関心を払ってきたのは言うまでもない。そのベースには、いつも彼自身によるオリジナルの研究があるのは言うまでもないことだが。カンブルランが経験してきたその60有余年の歴史が、この演奏にはハッキリと詰まっていたように思われる。

 (②につづく)

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