2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ

« エベルト・バスケス Bestiario 動物寓話集 by アンサンブル・ノマド (レーベル:Urtext) | トップページ | ラザレフ チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」 日フィル 杉並公会堂シリーズ 第1回 5/13 »

2012年5月 7日 (月)

新日本フィル アルミンクの後任はメッツマッハー + ハーディング

新日本フィル(NJP)では、音楽監督のクリスティアン・アルミンクの任期が来季の満了をもって更新されないことが発表されていた。その後任が、7日昼の記者会見で発表されたが、 Conductor in residence にインゴ・メッツマッハー、Music partner of NJPにダニエル・ハーディングで契約延長という内容であった。2人はそれぞれ4プログラム6公演を振り、これらをあわせると、現在、アルミンクが振っているのと同じ公演数をカヴァーできるという。

in residense とは、駐在の、専属のといったような意味であるが、医師の世界で「レジデント」といった場合には、病院専属の研修医のことを指し、スタッフ・ドクターになる前に現場で経験を積むときの医師のことを指している。これらのイメージを合わせて考えると、このポストは音楽監督の一歩手前にある、暫定的な契約という感じを抱かせる。しかし、あくまで ’music partner’ でしかないハーディングと比較すると、アルミンクが担っていた渉外やマネジメントの点でも役割を引き受けたようなニュアンスの発表にはなっていた。サッカー日本代表のザッケローニ監督の契約のように、まず2年間の活動を通して互いを確認しあいながら、より高次の信頼関係が構築できた場合には権限を強化する契約に入るという含みが感じられる。

インゴ・メッツマッハーは2010年にNJPに初登場、ブラームス、ハルトマン、チャイコフスキーというプログラムで好評を得て、2011年に再登場。これらの公演は非常に高く評価され、アルミンクを中心に、ブリュッヘン、スピノジ、下野、ハウシルトらが取り囲むNJPのファミリーに組み入れられた。私はそれらのどの公演も聴くことがかなわずに残念だったが、メッツマッハーという指揮者には好意をもっている。

彼が最大の輝きをみせたのは、なんといっても1997年から8年間にわたり、ハンブルク州立歌劇場のGMDを務めた時代であろう。この間、メッツマッハーはオーケストラの水準を飛躍的に高め、ドイツでもトップ・クラスの水準に押し上げただけでなく、演出家、ペーター・コンヴィチュニイとの共同作業などによってジャーナリスティックな注目まで浴びた。これを引き継いで商業的な成功をもたらしたのはシモーネ・ヤングであるが、その芸術的水準の低さから、彼女はオーケストラから辞任要求を突きつけられているという。メッツマッハーの貢献がいかに大きかったか、そして、それを保つのにオーケストラがいかに苦労しているのかを物語るエピソードであろう。

現在のメッツマッハーはベルリン・ドイツ響のポストを離れたばかりで、特にポストがなく、世界各地で活躍している。オフィシャル・サイトをみると、8月までにチェコやフランスでオーケストラを指揮、ドイツやイタリアでオペラを振る予定があるほか、ザルツブルク音楽祭ではB.A.ツィンマーマン『軍人たち』を振るなど、コンサート/劇場の両面で活躍がつづいている。ただし、ネザーランド・オペラやベルリン・ドイツ響での活動は、3-4シーズンの基本単位のみで終了している。

【メッツマッハー 録音/動画】

録音1 メシアン 『彼方の閃光』(ウィーン・フィル)
録音2 R.シュトラウス 『4つの最後の歌』終曲(S:インガ・ニルセン)
動画1 ワーグナー 『タンホイザー』(チューリヒ歌劇場)
動画2 プフィッツナー 『パレストリーナ』(チューリヒ歌劇場)
動画3 ヤナーチェク 『マクロプロス家の秘事』(アニヤ・シリヤ)

メッツマッハーに期待される役割は、彼のもつ高度なトレーニング能力を通じて、ハンブルクのときのような美しいオーガナイズを完了することである。これは前任のアルミンクがなかなか突破できなかった課題であり、昔から言われているような、「弦は日フィル、管は新日本フィルが良い」という構図を完全に突き崩すことが期待されていることを意味する。レパートリー面においてメッツマッハーが評価されるのはドイツ音楽の基幹的なライン、特にオペラのレパートリーとともに、近・現代音楽に対するフレキシブルな対応である。EMIにおけるディスコグラフィをみると、得意のK.A.ハルトマンをはじめ、ベルク、ノーノ、ヘンツェ、アイヴズ、シェーンベルクなどの名前が踊っている。アルミンクも現代音楽のプログラミングに積極的だったが、メッツマッハーはこの上をいく存在だ。

アルミンクほどは深く日本に関わらないメッツマッハーが、オーケストラの活動の全体にわたって、どれほど積極的な役割を果たし得るのかは疑問であるが、メッツマッハーの起用は、理知的でテーマ性の高いプログラミング、舞台音楽への断続的な取り組み、そして、現代音楽の振興というNJPの採ってきた路線をはっきり踏襲するものといえる。

アルミンクについては、一応、円満な契約満了の形をとっているが、もちろん、これ以上の契約延長に至らなかったのは、震災直後の来日拒否などの影響があることも否定できないだろう。特に新国立劇場の公演をキャンセルしたことは、楽団の活動の柱のひとつに位置づけられる舞台音楽の成果を確かめられなかった点で問題があり、また、東フィルおよび東響との継続的な関係を抑えて、アルミンクとのコンビで呼んでもらった劇場との信頼関係を損なうことにもつながった。対外的にも、来日しない音楽監督をスポンサーらが好意的にみなかったのは当然だし、もちろん、楽団員による感情的な問題もあろう。ハーディングが正に地震当日にわが国にあり、さらに翌日にわたって日本に居残り公演を維持したり、その後も敢えて来日を重ねたのとは対照的にみられるのも止むを得ないところだ。

しかし、日本にいる外国人の指揮者のなかでは、際立って濃密な時間を日本のために捧げ、独特の運営システムでオーケストラの発展に功のあったアルミンクの業績は、決して小さいものではなかった。ただし、日経の池田記者の質問のように、名誉ポストを与えるべきかどうかについて考えると、やはり、その退任の背景からいって、なかなか難しいものもあるだろう。楽団関係者は、冗句でお茶を濁す形しかなかった。

来季シーズン・プログラムの発表を中心に、40周年記念事業、および、アルミンク退任後の指揮者体制について発表のあった記者会見は、90分ちかくにも及んだ。会見は昨年、ホールに記者以外の一般客をオブザーバーとして招いたところからは一歩後退し、ライヴ動画で配信される形に止まった。これは最高で二百数十人が視聴したが、もちろん、私もそのひとりである。

« エベルト・バスケス Bestiario 動物寓話集 by アンサンブル・ノマド (レーベル:Urtext) | トップページ | ラザレフ チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」 日フィル 杉並公会堂シリーズ 第1回 5/13 »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/543421/54656279

この記事へのトラックバック一覧です: 新日本フィル アルミンクの後任はメッツマッハー + ハーディング:

« エベルト・バスケス Bestiario 動物寓話集 by アンサンブル・ノマド (レーベル:Urtext) | トップページ | ラザレフ チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」 日フィル 杉並公会堂シリーズ 第1回 5/13 »

ツイッター

  • ツイッター

最近のコメント