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2012年6月 4日 (月)

東京国際ヴィオラコンクール 入賞記念コンサート 6/3

【結果確認】

5月26日から開幕した東京国際ヴィオラコンクールが、最後の入賞記念コンサートで幕を閉じる。私にとっては、こちらこそが本当の「熱狂の日」であった。まずは、結果を確認しておく。

優勝 カン・ウェンティン CHN
第2位 バーバラ・ブントロック GER
第3位 牧野葵美 JPN
第4位 アドリエン・ボアソー FRA
第5位 エレーヌ・クレメント FRA

邦人作品演奏賞
 アンドレア・ブルガー SWZ
 アドリエン・ボアソー FRA

オーディエンス賞
 アドリエン・ボアソー FRA

オーディエンス賞は、3日の授賞式の場で発表された。牧野のホーム・アドヴァンテージを覆し、ボアソーが授賞したのは意外である。前回もマーロフ、ムラトという上位入賞者を差し置いて、ヘルテンシュタインを選んだ骨っぽいオーディエンスは、今回も審査員とのスプリット・ディシジョンを生んだ。ボアソーは邦人作品演奏賞とあわせて特別賞で2冠。しかし、3位以内に入賞していないので、次回以降のヴィオラスペースには呼ばれないのだろうか。この問題は、コンペティション事務局を悩ませそうだ。

【今井による講評から】

今井信子氏の講評で、特に印象に残ったのは、彼女が自分の弟子や受講生を「教えた」という表現を採らないことである。その代わり、一緒に「勉強した」と言っていた。私は一瞬、今井と学生(ここでは牧野のはなしだった)が机を並べて、ああでもない、こうでもないと楽譜を突いているところを想像してしまったが、実際にはそうではあるまい。しかし、女史はこうも言っていた。今日までコンペティションという形で向きあってきたけれど、明日からは結果の出なかった人も、自分たちも同じ立場で「勉強していかなければならない」と。これには、胸を打たれた。前回のコンペティション後のインタヴューで、堤剛氏があの年齢で、まだ成長していかなくてはならないと述べたのと同じ思想である。

【バーバラ・ブントロック】

入賞記念コンサートには、上位3人が臨んだ。第2位のブントロックが先陣を切り、バッハとシューマンを弾いた。バッハは予選で弾いたプレリュードとサラバンドのほかに、ジーグが付け加えられる。シューマンは映像配信でも聴けて、その濃厚な音色に驚いた1曲だったので楽しみであった。2曲を聴いて、第2位といっても圧倒的な感じはしなかったものだ。しかし、バッハにおいても、シューマンにおいても、前の記事で述べた牧野以上の落ち着きのある音楽性が堅固で、特に、言語と音楽の関係性に注目したアーティキュレーションや音楽のつくり方。和声に対して徹底的にこだわり抜く姿勢が、随所に目立つ演奏であった。

プロフィールをみると、ライプツィヒのゲヴァントハウス管にごく短い間、首席待遇で在籍している。ただ、あまりにも在団期間が短いため、プロベーションを通らなかったものと推察されるが、事情が分からないので下手なことは言えない。まあ、いずれにしても、ドイツのヴィオリストのなかで特に期待される若手のひとりであることは間違いがないのだろう。

【牧野 葵美】

2番目に演奏した牧野は、本選で弾いたリゲティの2つの楽章と、細川の『悲歌』を演奏した。リゲティについては既に詳しく論じたので繰り返さないが、彼女の演奏は本当に素敵だ。この1月にリサイタルをおこなっていて、全曲を弾いたようなので、惜しいことをしたと思う。東日本大震災の犠牲者のために書かれた、今大会のための委嘱曲『悲歌』も、授賞には至らなかったが、同じ日本人としての想いが載った深々とした演奏で、感動を誘う。特に、序奏的な部分に現れる微弱な響きが印象的だ。作品を通じて細川がどのようなものを表現したかったのかは、響きを聴いて即座に判断がつくものでもないが、一通りの哀しみではなく、ときには言葉にならない沈黙があり、あるときには意味のわからない感情が湧き上がってきたかと思うと、またあるときには怒りに似た感情さえ現れる・・・という感情の多様な状態や、その変化をイメージしたものと言えそうである。

特殊奏法的な部分も硬くならず、相変わらず、作品を内側から攻略する牧野の演奏には、いつもグッと来てしまう。素晴らしい音楽家だ! いまは、ジュネーヴで研究をつづけている彼女の羽ばたきに期待したい。

【カン・ウェンティン】

最後に、優勝のカン・ウェンティンが登場した。今井は、彼女の演奏する素晴らしい音色には、はじめから、みんなが魅了されていたという。北京で十分なトレーニングを積んだあと、いまはガース・ノックスやキム・カシュカシアンの指導を受けているそうだ。カシュカシアンよりも大ぶりの楽器を使っているものの、その影響がつよく、響きの安定感は1次から確かに際立っていた。コメント欄にも書いたが、まるで楽器に根が生えているかのようなどっしりした響きの深さに、優勝の秘密をみることができる。本選の配信映像をみると、特にバルトークの協奏曲において、第一音からドキッとするような堂々たる響きがして、聴く者を「魅了する」というよりは、背筋を正させるような演奏をしていた。

トリオでの演奏は2回目とは言いながら、「優勝者」というプレッシャーのせいか、すこしく硬さも見受けられたが、徐々に調子を上げる。これ見よがしに楽器の甘さを引き出さず、本当にその響きが必要なところで、ぐっと押し立てるところに凄みを感じた。非常に充実した演奏ではあったが、これだけできる人なら、もっと豊富なアイディアを示すこともできるはずだ。ボアソーほど、奇特な発想力に賭けることはないが、全ての楽章において、あまりにもきっちりとしていて踏み外しがない音楽はかえって、より大きな可能性を感じさせてくれる。響きの素晴らしさを、さらに生かせる工夫というものがあるはずだと思う。

アンサンブルにおいては、ヴィオラでありながら、クァルテットのファースト・ヴァイオリンのような華やかさも示しており、こうした作品では、牧野のように自分から歩み寄っていくのではなく、全体が彼女の側に向かってアジャストされていくほうが大きな可能性を示せることも教えてくれた。もちろん、だからといって、私はカンの演奏よりも牧野の演奏が好きだという事実は変わらない。総合点ではカンのほうが上回るとしても、あの奇跡のようなアンサンブルの一体感だけは、どうしても忘れられないのだ。そして、こと室内楽ということに関しては、そうした要素こそが命だと私は思っている。

【まとめ】

いずれにしても三者三様の個性が輝き、コンペティションを象徴的に彩った記念演奏会であった。できることならば、ここに今大会で最大の個性派、ボアソーの演奏も加えたかったところだが、結果は結果なので止むを得ない。

第3回は、また3年後の予定だ。目を輝かせて楽しそうな今井委員長の表情が、大会の素晴らしさを物語っている。その間のヴィオラスペースなどでも、今大会のコンテスタントであったアーティストたちと再会できるのも楽しみである。

【プログラム】
1、バッハ プレリュード、サラバンド、ジーグ~無伴奏チェロ組曲第5番
2、シューマン アダージョとアレグロ op.70

 va:バーバラ・ブントロック pf:フランソワ・キリアン

3、リゲティ 第1楽章、第6楽章~無伴奏ヴィオラ・ソナタ
4、細川俊夫 東日本大震災犠牲者のための「哀歌」

 va:牧野 葵美

5、ブラームス ヴィオラ、チェロ、ピアノのための三重奏曲 op.114

 va:カン・ウェンティン vc:辻本 玲 pf:フランソワ・キリアン

 於:紀尾井ホール

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