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2012年8月 5日 (日)

チェコ音楽祭2012 スク ピアノ・トリオ op.2 ほか 7/29

【国民楽派の多様性】

チェコの歴史は複雑で語るもややこしいが、ここに取り上げられたのはスメタナあたりを起点とし、ハプスブルク帝国からチェコが独立していく歴史的背景の下に生まれた「国民楽派」もしくは「ボヘミア楽派」の作品である。しかし、この括りでは大雑把すぎる数々の流れが、一気に沸騰していた時代のダイナミズムを感じるコンサートであった。ドイツ=オーストリア系の帝国から独立し、そのなかにあった様々な音楽的な運動が古典派もロマン派も、もっと未来に向かうようなものも、すべてが一気に花芽を吹いたこの時期のチェコに、私はいたかったと思う。

そこではあらゆる自由が、ところ狭しとワイルドに咲き誇っていた。音楽家は、民族楽派の先輩であるポーランド(ショパン)や、フランスの影響を受けながらも、ドイツの色濃い影響から完全に脱したというわけでもなく、そこに独自のスラヴ色を加えながら、自分たちの信じる道を互いに守りあっていたことだろう。批評精神は沸騰し、なにが自分たちにとって良いものなのか、議論は尽きなかったはずだ。ズデニェク・ネイェドリーの傍迷惑な論調も、こうした「矛盾」の押し詰まったところに生まれたものだ。この音楽祭では、ドヴォルザーク側のものばかりではなく、ネイェドリーが持ち上げたフィビヒ系の作品もあわせて取り上げられている点が興味ぶかい。

【ノヴァークとネドバル】

演奏会は、ピアニストの沢由紀子による格調高い演奏で始まった。冒頭に演奏された V.ノヴァークの作品は、多分、この演奏会のなかでもいちばんスケールの大きな作品だ。管弦楽編曲で聴くと、リヒャルト・シュトラウス的な鮮やかさも感じるが、ピアノ演奏では、もっとシンプルに山々の美しさ、険しさが端的に描かれる印象となる。その味わいに託して表現されるのは、もちろん、愛国的な気高さである。沢はその点を誇張的に描くというよりは、控えめに、きりっと表現しているのが逆に効果的なのだ。今回は、作品集『パン』5曲のうち、「山」だけの演奏であるが、全曲を通して聴いていくと、この作曲家の偉大さがわかろうというものである。

先に述べたような表現は次のネドバルの作品と対比するとき、より効果的であることがわかる。いかにもドイツ的な構成力に満ちたノヴァークの威容と比べて、ショパン的なルバートを頻繁に取り入れ、そこに、スラヴ的な旋律の重たさを加えてできた「悲しきワルツ」が演奏されることで、私たちは、この時代のチェコを立体的に思い描くことができた。

【フィビヒとメンサー華子】

この時代におけるドイツ的な特徴が際立つのは、フィビヒ『6つの歌曲』の演奏であった。独唱はメゾ・ソプラノのメンサー華子、伴奏は沢由紀子が務めた。歌詞はチェコ以外に、ドイツやスコットランドの詩人のものを使っているが、響きからいっても、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマンといったドイツ・リートの歴史を色濃く反映し、それらの翻訳のようにも聴こえるほどだ。フィビヒの歌曲は決して有名ではないが、こうして聴くネオ・ロマン主義的な味わいは、かえってドイツの古き良き時代を尊敬するチェコ人の古典的性格を端的に物語っており、面白い。ただし、ドイツ一辺倒ではなく、曲によってはフランスな要素も色濃く出ていて、フィビヒという作曲家が幅広い音楽的教養に満ちたスケールの大きな作曲だったことを教える。

メンサー華子はこうした作品を、あくまでチェコの言語の味わいに基づいた表現を工夫することで、実に魅力的に聴かせていた。このメンサーは、この日の演奏のなかでも特に際立った印象を残した音楽家である。非常に声の美しいメゾ・ソプラノで、アジリタも充実していた。その本領は歌詞をハッキリと表現するというところに凝縮しており、声の強さ(あるいは柔らかさ)と言葉の鋭さ(あるいはたおやかさ)がきっちりと結びつき、歌が立体的に構成されている点を特筆したいと思う。まだまだ粗削りなところもあるが、今後、こうした舞台では欠かせない存在になる可能性を秘めている。

【スクに象徴される可能性】

もう1曲、取り上げておきたいのは、スクのピアノ・トリオ op.2 である。この作品は演奏も稀な作品が並ぶこの日の演奏会で、比較的、有名の部類に入る。ドヴォルザークの娘と結婚した作曲家のヨゼフ・スクには、魅力的な室内楽の作品が多い。例えば、リンクの録音は現在のツェムリンスキーSQが「ペンギンQ」時代に録音したクァルテットの作品だ。もちろん、孫に当たるヨゼフ・スクのクァルテットも録音している。ここに取り上げられたピアノ・トリオは、スクがまだ音楽院にいたときに書かれたもので、もちろん、当時の音楽院にはのちに岳父となるドヴォルザークがいた。しかし、その影響がハッキリと滲むのは最後の部分だけだ。それを飛び越えてスクが手本としたのは、紛れもないベートーベンであろう。そして、その影響下に発展したシューマンやブラームスの書法だ。

しかし、これらのドイツ系の音楽と比較すると、スクの音楽は和声の連携が穏やかで、そこに表現の自由が広がっている。今回はHAMUの教授であるヘレナ・ヴェイソヴァーによるピアノ伴奏の下、チェコのピルゼン(プルゼーニュ)のオーケストラでコンマスを務めるヴァイオリンの山崎千晶と、マドリー王立歌劇場管の首席チェロ奏者であるシモン・ヴェイスによるもの。急造トリオによる演奏だが、ところどころ突っ込みの甘いところはあれ、彫り込みゆたかな味わいのある演奏には仕上がっており、明らかに手間がかけられている。3人がアイディアを出しあいながら、短いながらも、有効な手合せができたことが窺われる。

ヴァイオリンの山崎は、前半の独奏では感心しなかったが、こうした室内楽で俄然、能力を発揮する。より伸びやかで、広がりのある響き、さらに音程の正確さも求めたいが、スッキリしたキレのいいヴァイオリンの音色と、慎重に組み立てる表現法が印象に残る。ヴェイソヴァーによるダイナモは、明らかに室内楽のプロフェッショナルといわせるもので、音色も深く土くさいスラヴ風だ。ヤン・パネンカの弟子で、しっかりした基礎がある。チェロのヴェイスは落ち着いた表現で、前に出ないが、どっしりした表現を組み立てる。この3人では、表現が非常に内省的なものになりそうだが、実際には、ラインを高く保った表現がみられた。

まだ、op.2 という初期の段階で、エリシュカが取り上げた『おとぎばなし』や、「アスラエル」シンフォニー、それに、先のクァルテットのようなスケール感までは浮き出てこないが、その才能のゆたかさは、この時点で十分すぎるほど感じられる。本来は、もっと強調がダンサブルな印象を高めるだろうが、この日の演奏は、より和声的な甘みに近づいたもので、3つの楽器がそれぞれの味わいを大事しながら、労わりあっていた演奏が印象ぶかくもある。そのアプローチから予見できるこの作品の可能性は、いかなる方向にも広がっていく可能性を秘めたこの時代のチェコの印象を代表するものとなっていた。

そういう面でみれば、もう、大分、ドイツ的な方向に踏み寄った長じてからのスクの作品と比べると、歴史的な資料としては、この作品のほうが価値が高いのかもしれない。

【まとめ】

このほか、ブロデクの『フルート協奏曲』ではさらに古典的印象が強まり、最後の楽章などはトレモロなど、凄まじいアジリタの連続で構成されている。こうした作品まで存在の余地があった当時のチェコの状況の面白さを思うと、スメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェクだけでは、とても語りきれない時代の「滋味」について感じざるを得ない。もちろん、果実の成長にとってすべての枝葉が重要でないように、そのなかには、歴史のなかで、明らかに淘汰されていくべきものも含まれていた。しかし、貴族的なサロン・ナンバーから、大衆的、牧歌的な味わいをもつものまで、一気に花開いたチェコの音楽の状況は、肉屋の息子が政治家にまでなったドヴォルザークの状況と重なり合うものであろう。

正に、このようなダイナミズムのなかで、音楽は劇的に発展する。ドヴォルザークから、飛躍的にヤナーチェクが生まれるように!

なお、チェコ音楽祭は今年で3回目、日本におけるチェコ文化の優れた研究家である関根日出男氏(本業は耳鼻科医)をディレクターに、チェコ音楽/文化の紹介に熱心なグループの主催となっている。小規模であるが、質の良いコンサートを提供しており、以前から興味を抱いていたのだが、今回、初めて足を運ぶことができた。来年はチェコのバロック音楽をテーマにイベントが用意されていると聞いており、詳細が伝われば紹介もしたいと思う。

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