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2013年6月30日 (日)

キタエンコ チャイコフスキー 交響曲第5番 東京交響楽団 サントリー定期 2008.10.17(再掲)

(旧いブログに載せた記事を、今回の来日に合わせ再掲します)

東京交響楽団(東響)は、ここのところ、ミッコ・フランク、ラモン・ガンバ、ニコラ・ルイゾッティなど、着実に当たりくじを引いている。東響の場合は、3人の役付きが中心となるプログラム構成のため、決して、下手な鉄砲・・・という感じではなく、確率がいい。このキタエンコも、そんなうちに入るひとりである。前回の登場で、「レニングラード」の公演を振ったのは聴いていないが、そのときの評判が凄かった。今回は、そのときに約束したという、チャイコフスキーを中心としたプログラムで、新潟にも行く。コンマスは、大谷康子。

演奏会は、お約束のシューベルトで始まる。「イタリア風序曲第1番」で、キタエンコの丁寧な音楽づくりが浮き彫りになった。特徴を素直に引き立たせ、下手にいじくらない。例えば、音楽辞典を片手に聴いていれば、なるほどと納得のいく演奏であるはずだ。ここでは、ロッシーニの影響を受けた作品であるという特徴をよく捉えて、若きシューベルトの茶目っ気を演出する。最後のシューベルト流「ロッシーニ・クレッシェンド」などはユーモアに満ちており、リラックスして楽しむことができた。一方、冒頭の暗い部分も、最近、有名になってきた正調もの以外に、「ウィリアム・テル」や「理髪師」などにもみられるところで、こういうイメージまで拾っているところが、シューベルトの鋭いところだ。

ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲は、ヨハネス・モーザーが独奏を務め、タフな演奏を見せつけた。音色的にスイートで、ショスタコーヴィチに合わない感じもあった(といっても、ロストロポーヴィチ→ゲリンガスと受け継ぐショスタコ演奏における伝統の継承者となる系譜にある)が、第2楽章おわりのフラジオレットによるチェレスタとの絡み、第3楽章のカデンツァ、そして、終楽章は圧倒された。正確な倍音、ファルセットのコントロールに長け、音色もドイツ的なきっちりした美しさがある。ロシアものの協奏曲で派手にやるよりは、ドイツ/ロマン派の作品(シューマンやブラームス)を中心として現代曲も混ぜたリサイタルでも開いてくれれば、ケラスのような成功を得られるのではなかろうか。

それにしても、アレグロ・コンモートでは、常にオケの前を走り、ぐいぐい引っ張る演奏に舌を巻かされる。このスケール感は、師匠の師匠、ロストロポーヴィチを彷彿とさせるものだが、その技巧の精確性は類稀なるものがある。キタエンコは、第4楽章をふつうイメージされる暗鬱なイメージから開放し、チェロ独奏を中心とした鮮やかな響きを選んでの演奏だが、これにはモーザーの垢抜けた響きがぴったりだ。オケのサポートも立派で、終演後は、目立つソロがあったハミル(hrn)が立たされたが、モーザーは木管とか、チェロなどにも目配せをしていた。とりわけ、チェロのボーマンと肩を組んで、お辞儀をしていた光景が印象に残る。

さて、メインはチャイコフスキーの交響曲第5番だが、これは名演というしかないだろう。この日はすこし疲れて会場に来たが、それがまったく吹っ飛んでしまった。箸休めの第3楽章は別としても、ひとつひとつの楽章で、質のちがう涙が来た。冒頭、十亀正司の美しいソロに始まり、緊張感がまったく途切れない演奏である。最近の東響の好調を象徴する弦のアンサンブルの美しさは、スダーンが丁寧に織り上げてきた下地を利用しているが、キタエンコはさらに、それを高いレヴェルで燃焼させる術を心得ている。例えば、最初の楽章だけでも何度かやってくる弦の咆哮を聴くと、そこには必死という以上に「命がけ」の、凄絶さが滲み出ている。

キタエンコの演奏は、まず強奏における響きの透明度の高さが素晴らしいが、ほかに、自然でわざとらしくないリズムの処理、逞しくも繊細なカンタービレの図太さ、無理のない安定したフォルムなどが挙げられる。何より、耳がいいのだろう。だが、ここというところでの、圧倒的なカンタービレの迫力から逃れることはできないだろう。

第2楽章が、絶品である。まず、弦の薄い膜に乗って、デリカシーに満ちたホルンのソロがゆったりと奏でられるのだが、この弦の序奏の美しさからして、非凡なものがある。ホルン(チャイコフスキーは竹村首席)は、ハミルに負けないふくよかな音色。中間をゆったりと演奏し、それぞれの楽器の音色をたっぷりと聴かせていく。こうした「オケコン」状態の局面で、いま、もっとも燦然とした輝きをみせるのが東響だ。キタエンコの演奏は多彩で、すこしバレエをイメージさせる部分もあるし、響きの質が場面ごとに少しずつ変わっていくので、すこし長めにはなったが、いや、それだけに、この楽章は味わいぶかいものになった。シューベルトの「未完成」のように、ここで終わっても納得がいくというぐらい豊富なエピソードは、ここに書ききれない。最後、減衰していく響きのなかで、クラリネットだけがしっかり残る独特の響きのデザインには、あっと言わせられた。

アレグロ・モデラートによるワルツは、やはりロシア人にしかわからない、独特のリズム感覚が効いている。しまいの結び方は、多分にバレエ的だ。

フィナーレはやはり、5番が、4番や6番と同じように、戦争の傷跡と切っても切り離せないことを教える。慎重な方には、いや、待て・・・と言われるかもしれない。ロシアを巻き込んだ凄惨な露土戦争は、10年ちかくも前に終息しているからだ。しかし、このコンサートがどのようにテーマに基づいていたか、よく考えていただければわかることだろう。そう、この演奏会の隠れたテーマは、「振り返る」ことだ。シューベルトは、駆け出しの青年にはあまりにも刺激的だった、ロッシーニの体験を楽しく、そして、若さに任せた傲慢さで振り返った。ショスタコーヴィチは、長かった苦難のときを振り返り、若いロストロポーヴィチをかつての自分に重ねて、失われた青春を顧みた。そうだとすれば、チャイコフスキーも彼につよいショックを与えた、戦争の記憶になお10年も苛まれていて、それをいよいよ克服せんとするときに、ひとつのシンフォニーを仕上げたとみて、何のおかしいところがあろうか?

第4楽章は、冒頭から響きが温かい。しかし、金管や木管がうまく被せられ、すこし靄がかった響きである。これは、凱旋の若い軍人たちを迎える場面であるにちがいない。勇壮な戦士たちはついに、哀しみと心配で涙に暮れ、「白鳥の湖」をつくった母親のもとに帰ってきたのだ。最初のテーマが木管で、ゆったりと繰り返されるとき、そのピンと張りつめた響きは特徴的だ。いよいよ、それとわかるときの、劇的な音色も味わいぶかい。戦場の場面をちらっと想起させる弦の激しい動きから先、実にいろいろなエレメントが詰め込まれているのが、キタエンコの演奏でよくわかる。歓喜、故郷の温かさ、優しさ、長閑さ、哀悼、怖れ、平和への祈り。中心となるテーマを中心に、あらゆるエレメントをよく聴くと、リズムや響きなどに、ロシアの風物がふんだんに染み込んでいることもわかってきた。

ブレイクのあと、最初のテーマが気高く響くところまでに、弦はかなり消耗している。大谷コンマスなどは椅子のうえで暴れまわっていたし、その他のメンバーも、指揮者の繰り出す指示をしっかりと拾い集めて、力の限りに弦を絞ってきたのだから止むを得ない。だが、キタエンコの左手が来るだけで、すくっと立ち直って、響きが面白いように起き上がるのだから堪らないのである。弾き手と一緒になって、彼らを応援するように耳を澄ました聴衆は決して少なくないはずだ。最後はクタクタだったろうが、最後までやりきったという演奏であり、弾きおわりのシャープな造形に至るまで、聴き手を感動の渦に巻き込んでいった。こういう状態はガンバのショスタコーヴィチ以来だが、あのときよりも、キタエンコの掌握力が、相当に勝っているように思う。

圧倒的な演奏だ。こんな演奏が聴けるならば、とりあえずチャイコフスキーのシンフォニーにおいては、外国のオケに頼ることはない。彼らよりもずっと繊細で、輝きに満ちたジャパニーズ・サウンドで、彼らを驚かすことだって出来るだろう。遠目だったけれど、カーテンコールのときに、大谷コンマスは感極まって熱いものを流していたように見えたが、どうだろうか。どちらでもいいが、これは良い演奏だった。舞台を降りるときに打ち揃ってお辞儀をするのが恒例だが、今回はキタエンコにコンマスが拉致られたため、それが出来なかったハプニングも、こうなっては微笑ましい限りである!

【プログラム】 2008年10月17日

1、シューベルト イタリア風序曲第1番
2、ショスタコーヴィチ チェロ協奏曲第1番
 (vc:ヨハネス・モーザー)
3、チャイコフスキー 交響曲第5番

 コンサートマスター:大谷 康子

 於:サントリーホール

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