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2013年10月19日 (土)

エリシュカ ドヴォルザーク チェロ協奏曲/ブラームス 交響曲第3番 札響 定期演奏会 ① 10/12

【俺たちの時間】

ドヴォルザークのコンチェルトを弾きおわってから、独奏の楽団首席チェロ奏者、石川祐支はアンコールにバッハの無伴奏を演奏した。明るい音色と、伸びやかな舞曲で演奏されたその曲は、紛れもないバッハではありながら、エリシュカへのオマージュも含んでいるように感じられたものだ。こんな、バッハの使い方もあるものだろうか。そして、石川はオーディエンスにではなく、彼の同僚たちのほうに向かって挨拶をしたようにみえた。それはもちろん、無礼な感じは与えずに、かえって、ふかい満足感を客席にもたらしたであろう。楽団の顔ともいうべき石川がこれほど謙虚になれるというのは凄いことだし、それだけ、彼の演奏を受け止めた楽団の演奏が凄かったということだ。

ある意味、予想どおりであったが、石川を独奏としたコンチェルトは室内楽的な味わいが濃いものとなった。バックの管楽器とのコミュニケーションを色濃く打ち出したのはエリシュカ独自の知見であろうが、弦のベースは抑え気味にして、腫物に触るような繊細なコントロールは見ものだった。石川はチェロをバリバリ言わせるタイプではないが、それでも、要所では図太い響きをも出しており、決して非力なタイプではない。だが、序盤はやや遅れそうになる部分もあり、オーケストラには待ちの姿勢も要求された。エリシュカは頻りに独奏者に目をやっており、傍目には、「密接なコンタクト」とも受け取られたが、難しい面があったのも事実だろうと思う。だが、それはもっと深く、対話を意味あるものとして掘り下げるための工夫であった。

この仲間なら、きっとついてきてくれるという確信が彼にはあったし、既に初日の演奏で、ある程度のレヴェルには至り得たということもあったのだろう。「これからは、俺たちの時間だ」。実際、聳え立つ巌のような頑丈な響き、また、森から響く風の音・・・硬軟にわたって、札響のつくる響きはエリシュカの指導の下、ほぼ完全にドヴォルザークの精神世界を目前のものにしていた。ほとんどの部分は、十分に磨き込まれていたのだ。私たちが思っているよりも、この作品は繊細に、あらゆる仕掛けを伴って書かれていた。単純で、これ以上、工夫のしようもないと思われるところに、あっと驚かされるような特殊なプログラムが書かれているのである。エリシュカは、そうしたメッセージを衒学的にではなく、ごく自然なものとして提示し、私たちもまた、当たり前に、そのことを知っていたような気分になる。演奏は、そうしたコツをひとつひとつ丁寧に磨いてきたことを思わせる。

第1楽章の冒頭から、そんな感じは既にあった。無論、この曲はよく聴いて、予め知っているわけだが、それ以上に、「以前」から、私はこの曲を知っているような感覚を味わったのだ。つまり、この曲が私たちのどこか、根源的なところから湧き上がってきているのではないかというイメージである。

【音量のフォルティシモ&情感のフォルティシモ】

第1楽章、カデンツァ風のチェロ独奏がおわったあと、僅かな隙をはさんで出現する巌のような響きには心底、ビックリさせられた。このイメージはあとで、その硬度を高めながら繰り返されるほか、ブラームスのところで再び参照される。その前に屹立する独奏チェロの存在感は、厭が応にも決然とするはずだ。ただ、そこがすなわち、当該楽章のクライマックスだったわけではない。この演奏会を聴いて、すぐに気づくことは、音量のクライマックスとは別に、情感のフォルティシモが存在するということであり、それは大抵、ソット・ヴォーチェにちかい控えめな音で表現されたということだ。例えば、先程のシーケンスのあと、独奏チェロが第2主題を奏でる部分は、最初にチェロが悠々と旋律をうたう間、情感的にはややドライになっている。そこに、エリシュカは木管楽器(フルート)の響きを上手に添えるのだが、チェロの表情がもっとも豊かとなるのは、このあと、主題演奏と伴奏が入れ替わってからの動きが出てからなのである。

石川はこうした部分を土台に、弓を動かす原動力を得ているのであり、いま、自分の手が動く、このエネルギーがどこから来るものなのか、常に慎重に考えながら弾いているように見えた。彼はこの作品で、自分がスコアを征服して演奏しているというよりは、なにかに見えざるものに動かされているとしか思えないときが多かったのではなかろうか。そして、実にドヴォルザークが描いているのも、正に、この見えざるものなのだ。

この作品はドヴォルザークが長く思慕した憧れの女性、ヨゼフィーナ・カウニッツ伯爵夫人への想いが下地になっており、第2楽章では彼女の好きだった歌曲の旋律が挿入され、第3楽章ではその訃報に接し、たった4小節しかなかったシンプルなフィナーレを60小節にまで拡大した。この拡大には周囲に諫言する者もあったというが、作曲者は頑として意志を曲げなかったという。「新世界」交響曲と同様に感じられる、祖国への郷愁の念はいまや、ヨゼフィーナとの思い出にすり替わった。これら2つの部分が、エリシュカにとっても神秘的に見えるようである。

白眉である第2楽章では、独奏チェロと木管楽器のコミュニケーションが自然的なもので始まり、トリオから、情感の入ったものに変質していく。ただ、確かに中間部の旋律がヨゼフィーナの愛したものだとはいっても、彼女への想いが本当の意味で吐露されるのは、最後のコーダの部分だけに絞っている。それ以前に演奏される部分では、例えば、讃美歌のようなバロック調の響きが出たり、木管楽器の穏やかな歌が印象的に鳴って、チェコの田舎の雰囲気、その安らぎが圧倒的に支配的になる。特に重音を使ったバロックの表現は、石川が特にこだわった部分でもあり、その響きをどう長く継続するかということに、こころを砕いていたように思えてならない。この重要なモティーフは、コーダで夫人への祈りのうたとして締め括られ、同時に、終楽章のいくつかのモティーフをも予言している。

終楽章は、木管のアンサンブルが緩徐楽章以上に印象的で、エリシュカ独特のバランスである。独奏チェロはもうすこし天衣無縫なイメージでもよいかと思うが、アンサンブルの内側から、その心臓のように振る舞う石川の演奏も決して嫌いではない。結局、そうしたものが、石川をはじめとする札響のメンバーが、エリシュカとともに積み上げてきたものなのだ。怜悧で有能な父親、尾高忠明のビルディングで豊富な基礎を培った彼らは、普段は厳しいが、家族想いの陽気な祖父、エリシュカの「帰宅」によって、はじめて本当の家族となれたのだ。最後の静かな回想的な場面で鳴る木管楽器の美しいバランスは、今回の演奏を鮮やかに象徴する。だが、この協奏曲の中心にあった心臓は、いまや、動きを止める。石川のチェロは、最後が明らかに「情感のフォルティシモ」だ。それを包み込んで、オーケストラが強奏し、たとえ動きは止まっても、その声がずっと聴こえているような感覚で、作品はおわった。

おわりに独奏が抜けて、オーケストラがトゥッティで盛り上げておわるコンチェルトは、どこにでもある。しかし、この作品では、そこに特別の意味が込められているだろう。憧れのヨゼフィーナが、彼の人生から欠けてしまうという悲劇的な物語がそこにはあるからだ。一方、響きの面でみると、この意味ある欠落がなかなか意味あるものとしては聴こえないこともしばしばだろう。「嗚呼、やっぱり、ここは独奏を含むトゥッティだよな」と思わせる演奏が、実は大多数だ。しかし、石川祐支&エリシュカ&札響の演奏では、こうでなくてはならぬという切実な想いが実感できて、そして、涙を誘う。なにがちがうのだろうか。正直、よくわからない。唯一、わかるのは、音響的にも情感的にも、これが稀にみる成功だという事実だけであろう。

【これまでの総決算】

なお、逐一、対応を示していくことはできないが、この協奏曲の演奏は、これまでエリシュカと札響がドヴォルザークやスメタナ、ヤナーチェクの練習や演奏で培ってきたものの総決算のようであった。作品はドヴォルザークの晩年にちかい時期に書かれていて、交響曲も9曲すべてが書きおわった時期なので、余計に、それに相応しいというわけだろう。ドヴォルザークの6番以降、すべてではないにしても、東京と札幌で豊富に、エリシュカや札響の演奏に接してきた私としては、ああ、ココはヤナーチェクの『シンフォニエッタ』で聴いた、アソコは『わが祖国』(よっぽど、これはN響で聴いた)の「ヴルダヴァ」のときみたいだ・・・という感覚が連発した。もう、彼らは完璧にわかりあっているのだ。その結果、奏者たちは自由に動けるようになった。そうなると、こうもやってみたい、ああもやってみたいという欲が出てくるもので、それはまた、客席にも伝わってくるのである。多くの人たちが、エリシュカと札響の関係について称賛しているのはその証拠となっている。

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