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2016年8月25日 (木)

アーサー・ブリス オーボエ五重奏曲 ほか 新日本フィル 室内楽シリーズ #102 吉村 知子・プロデュース 7/13

【ブリス:オーボエ五重奏曲】

新日本フィル(NJP)の室内楽シリーズについて、101回目の大島ミチルを中心としたプログラムには感銘を受けたが、次の回も連続して興味ぶかい内容になっていた。プロデューサーは、第2ヴァイオリン首席の吉村知美。自らは弦楽器奏者だが、フルートの野口みお、オーボエの新首席奏者である金子亜未を2枚看板とする公演で、特にアーサー・ブリスのオーボエ五重奏曲がメインに組まれている。この曲目については、私も鑑賞した昨年7月の「国際ダブルリードフェスティバル2015・東京」で同曲を演奏したことがきっかけになっているそうで、不思議な因縁を感じるものだ。

アーサー・ブリスは1891年生まれ、英国の作曲家であり、20世紀中葉までの英国楽壇においては、かなり高いステイタスを誇った作曲家のようだが、反面、今日、頻繁に演奏されるような作品は数多いというわけではなく、音楽の歴史に必ず刻まれるようなエポックな作品が生まれたわけでもない。とはいえ、このクィンテットは、吉村が惚れ込んだように魅力的な作品で、パッと聴いて目立つものでこそないが、独特の工夫に満ちた構造をもっている。吉村によるプレトークによれば、ブリスの書いた総譜は縦線があわず、声部によって拍子もちがうことがあるということだ。

なぜ、そのような形になったのかは知らないが、多分、ブリスがクィンテットを和声的な重なりとしては見做さず、あくまでも個の動きを重視して、それらを融合する発想で音楽を書いたためではないかと想像される。もっとも、実際、耳にしたパフォーマンスは予想に反して、機能が丁寧に整理されて聴こえてきたことから、ブリスが最終的には響きを組織のなかへと統合し、合理的なシェイプを刻もうしていたことは間違いがない。あるいは、ブリスがオーケストラ的な発想で、この作品を書いたとするなら、少しは論理の筋道がつくのではなかろうか。しかし、その点を詳説するには、材料が少なすぎるかもしれない。

説明的な言説は避け、単に私が、この響きはオーケストラ的だと感じたことを書けば、当面、それで足りるかもしれない。ベートーベンやハイドンの弦楽四重奏曲を得意にするようなアンサンブルなら、ブリスの作品は、あまりにも分厚いと感じるだろうが、オーケストラのメンバーにとっては、そうであることが普通だ。彼らはブルックナーも、マーラーも弾く機会がある。そこでは各パートの機能が合理的に構成され、それらが素晴らしいバランスで聴こえてこないことには、音楽にはならないのである。金子の吹くオーボエ・パートは息の長いアーティキュレーションと、強から強へと切り替えるフィジカルな厚みが求められ、なるほど難曲なのであるが、金子首席はこの作品の求める様々な側面で、ほぼ全てに完璧な答えの出せる優れた奏者で、舌を巻いた。彼女は最近まで札響の首席奏者を務めており、国際コンクールの結果によって注目度を高めた。現地での評判も芳しく、私が札幌まで出掛けたときなど、その活躍を耳にするのが楽しみな奏者のひとりであったが、幸か不幸か、このような形で身近に接することもできるようになった。

【師弟関係のサイクル】

この日のプログラムはブリス以外、すべてが古典派に属し、J.C.バッハ→モーツァルト→ベートーベンという師弟関係のサイクルを追うドラマトゥルギーが派生している。ブリスでは俎の鯉で腹を決めねばならなかった金子も、古典派では、そのルールを深く学んできた先輩たちに身を寄せ、静かに溶け込むようなパフォーマンスをみせている。野口と、ヴァイオリンの松崎千鶴(前回から連続出演)、ヴィオラに濵本実加という組み合わせによる、ベートーベン op.25 のセレナーデ(フルートと弦楽器による三重奏)もよく練られていて、特に松崎が積極的に中央を割り、アンサンブルを鼓舞する姿勢に感銘を受けた。

プログラムの最初には、モーツァルトの『アダージョ』(K580a)が置かれている。この作品は断片的にしか残らず、編成も定まっていないため、この度はイングリッシュ・ホルン、フルート、ヴァイオリン、チェロの独特のラインナップでのパフォーマンスとなったが、これは主役2人を顔見世に登場させつつ、金子には、オーケストラでは首席奏者がまず吹くことのないイングリッシュ・ホルンでの体験(NJPでは森明子がいつも素晴らしい笛を吹く)を与えるという面白さがあった。この作品はオーボエ系の楽器をメインに置いているが、場面によってはベースに回ることもあり、普段、オーケストラの花形となる楽器の奏者を助ける仲間の気持ちを知るヒントになったはずだ。

オーケストラは、ひとつの水車のようだ。それが休みなく、効率的に回るためには、どの部品が欠けてもならず、それらが十分に磨き抜かれていなくてはならない。あるいは時計をまわす歯車のように、異なった動きをとりながら、合理的な機能によって噛み合っている必要があることも重要だ。

【企画者・吉村のユーモア】

2曲目のJ.C.バッハの演目では、松崎が抜け、吉村、濵本が加わって、登場の全メンバーがひととおり顔をみせることになった。前半の2曲で金子は2つの楽器を操り、なおかつ、全員が1回ずつ登場。プログラム全体を通してみると、野口、金子を含むすべての奏者が1回ずつ休み、それぞれ多忙な各自の負担を軽減したという面もあるだろうが、それよりはなんとなく、シンメトリカルな造形を試みているつもりであろう。そのあたりがまた、吉村という企画者の隠れたユーモアということになる。

第2ヴァイオリンということで、普段は目立たない存在だが、よいアンサンブルほど、そのパートが鍵を握っていることが多く、例えば東響も同パートに首席奏者を3人も抱えている。第2ヴァイオリンは、オーケストラのもつ知恵と実力の深さを知らせるバロメーターとなっているのだ。いざとなれば、かなり高度なこともできることは、ブリスで難しいパッセージをこなし、頻発する高音の響きを柔らかく伸ばしたことでも窺える。もうひとつ、吉村が自信をもっているのは自分の耳とセンスであろう。彼女は優れて客観的に、自分たちの出している響きを判断できる。そこが素晴らしいのだ。

ひとつ残念だったのは、前回に比べて、客席が賑やかでなかったことだ。新首席奏者、金子亜未が登場する回ではあったが、まだ移籍から間もなく、彼女に対して、当地での信頼や愛着が生まれるには、まだ時間がかかるのかもしれない。NJPは、地元商工業者や住民グループと密接な関係を築いているため、そのような面で奏者に求められる資質も多いのであるが、パフォーマンスは前回に負けず劣らず、素晴らしかったと報告しておきたい。

【プログラム】 2016年7月13日

1、モーツァルト アダージョ K580a
 (fl、E.Hr、vn1、vc)
2、J.C.バッハ 6つの五重奏曲 op.11-6
 (fl、ob、vn2、va、vc)
3、ベートーベン セレナーデ op.25
 (fl、vn1、va)
4、A.ブリス オーボエ五重奏曲
 (ob、vn1、2、va、vc)

 fl:野口 みお  ob:金子 亜未
 vn1:松崎 千鶴 vn2:吉村 知美
 vc:多田 麗王

 於:すみだトリフォニーホール(小ホール)

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