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2016年8月12日 (金)

カンブルラン ディティユー チェロ協奏曲「遥かなる遠い国へ」 /ブルックナー 交響曲第3番「ワーグナー」 ほか 読響 559th定期 6/24

【峻険な道】

読響&カンブルランにとって、あらゆる要素を試されるタイトな演奏会であった。時間的なものでいえば、もっと長いコンサートはある。しかし、中身が濃く、密度がぎっしりと詰まっていて、演奏会を通して、高い集中力を維持するのは聴き手にとっても、演者にとっても楽ではない。この日の演目で注目されるのは、デュティユーの協奏的な作品「遥かなる遠い国へ」だろう。カンブルランの得意なフィールドのひとつであり、独奏者には人気、実力ともに高いジャン・ギアン・ケラスを起用した。だが、後半にはブルックナーの演目も控えている。さらに、カンブルランは前プロとして、ベルリオーズの序曲『宗教審問官』を置くことにしたことで、いくつかの峰を越える、峻険な道とはなったのである。

【いびつな可能性】

この日、演奏されたベルリオーズとブルックナーの作品は、歴史的な作曲家が、正にその人になる直前の風景を捉える背景をもっている。もっとも、ブルックナーは第3稿を用いており、その改訂時期は、最高傑作とされる8番の時期と変わらないわけだから、ひねりが効いている。ディティユーだけは壮年期の作品だが、どの時期においても、この作曲家は実に新鮮な音楽を書いており、2つの作品と並べるには相応しい味わいをもつのであろう。ベルリオーズも、ブルックナーも、未だ模倣を試みる時期で、その要素もうまく絡ませたパフォーマンスになっていたと思われる。特にブルックナーは初期とはいえども、1番までの勉強時間が40年もあったおかげで、それまでの音楽的教養が半端なく積み重なっていたことを忘れるべきではない。「聖なる野人」も当時、折角、憶えたことをどんどん使ってみたい気持ちに駆られていたのか、交響曲も第3番ぐらいまでの間では、野性的な勘を駆使しつつ、音楽的要素のコラージュを重ねているようにもみえるのだ。ブルックナーの最初の時期は、のちに顕著となる独創的な構築の逞しさよりも、教養的な面白さと、幅広い音楽的特徴のごった煮が際立っている。

一方で、今回の演奏はかなり体当たりのものになり、カンブルランがこれまで、あまり見せていなかった要素を感じさせた。瀟洒とか、カラフルとか、知性的とか、ダンサーブルとか、そういった表現を越えた部分に衝き当たって、もう、どうすることもできなくなり、真正面から撃ちあうことしかできなかったというような演奏だったのだ。そうはいっても、横揺れから一気に立体的な山が盛り上がり、メンデルスゾーン的で、剽軽なフォルムから、いきなりフィジカルで、ゴツゴツした岩塊が生まれるような表現にはギョッとさせられた。カンブルランの描くブルックナーは、まったく予想もつかない。だが、あらゆる要素がバランスよく溶け合い、その分、まだいびつな初期作品としてではあれ、深い可能性を感じさせるのである。

それは、最初のベルリオーズでも同じことだった。ベートーベンと近接して登場しながら、まったく異質な方向から生じた『幻想交響曲』、劇的交響曲「ロミオとジュリエット」、劇的物語『ファウストの劫罰』、歌劇『トロイア人』といった桁外れの巨編を書く天才の可能性が、既に未完の歌劇『宗教審問官』の序曲に滲み出ているのである。1827年の作品は、ベルリオーズがまだ音楽院にいて、「ローマ賞」獲得を目指して奮闘しているような頃のものだ。のちに有名な大著『管弦楽法』を書き遺すことになるほどの知性をもつ作曲家だが、元来は医師としての修業を積んでおり、音楽の道を志すのは遅かったようである。もっともブルックナーのようなゆっくりした歩みをとることはなく、1830年には今日にも広く知られる作品『幻想交響曲』を書き上げている。もっとも生前の彼は恐らく、指揮者として、もっともよく知られていたのかもしれない。作曲家としては得るものよりも負債のほうが多く、今日ある名声からすると、信じられないほどのハチャメチャな人生だったといえるだろう。

【教養に依存しない発想力】

ベルリオーズも、ブルックナーも、ハチャメチャといえば、ハチャメチャな人生である。多くの非難を浴び、嘲笑のなかから成功を掴み取っていくしかなかった。誰よりも豊富な教養を身につけながら、それらに依存することなく、まったく新しい発想で音楽を構築した。その点では、「ローマ賞」を授かりながら、伝統的な音楽の構築とは、まったく別の体系に立ったようなデュティユーの仕事も似たところがある。また、ベルリオーズも、ブルックナーも、壮大な作品で知られており、そのオーガナイズの見事さにおいて特徴的だが、デュティユーの場合は、編成が大きくとも、そこに皮肉な縮小がみられる点が面白い。

この日の演奏は独奏がケラスということもあり、この上もなく明晰なパフォーマンスとして鑑賞された。アンサンブル・アンテルコンタンポランの主要な奏者であった経歴をもち、いつも安定した演奏ぶりを見せるし、瀟洒なエスプリも感じさせるチェリストでもあるが、この作品は、そんな彼をも緊張させるほどピリピリした特徴をもっているらしい。それかあらぬか、バッハのアンコールではさすがに集中力を欠き、彼のパフォーマンスでは見たこともないような、軽い弾き損ないも散見した。しかし、楽器の筐体にワインでも吸わせているのではないかと思わせるような、かぐわしい音色は、いつも以上に耳を惹いた。協奏曲においては、ほとんどバックの存在を感じさせない張り出し方で、なおかつ、ゆたかな音響空間を広げる。力強さというよりは、存在感で魅せるタイプ。読響の演奏はニュートラルで、特に大きな瑕疵もないのだが、1970年に初演したセルジュ・ボド(パリ管)の演奏を聴くと、音楽はより立体的で、色彩感に溢れているようだ。

【補足】

この日の演奏では、デュティユーにおいても、ブルックナーにおいても、読響は水準以上のパフォーマンスを展開しながらも、まだまだだと感じさせるところがある。

コンサートマスター長原幸太のパフォーマンスは、特にブルックナーで質が悪かった。大阪フィルから移籍してきた彼の仕事ぶりに、私は一定の理解を示してきたつもりだが、このような演目ではまだ、それまで経験し、積み上げてきたもののプライドが邪魔をする。アンサンブルをリードするつもりか、何度も飛び出してアンサンブルに棘をつくってしまい、カンブルランの目指す厚み、ふくよかなパフォーマンスとも整合していないのだ。例えば、2列目に陣取るフォアシュピーラーのほうが、その点、味わいのある弓づかいに徹しており、音楽にも自然に寄り添っていたことから、1列目の過剰なアクションはアンサンブル全体に対して、決してプラスの効果を及ぼしていないことが窺われる。流れに乗ったところで結束させる力は十分であり、音楽に順応するしなやかなリードを身につけて、音楽に気品を与える存在になってほしいと願うものだ。

それでも、それはオーケストラ全体の抱える課題の一部にすぎない。読響は近年、かなりの実力を備えたオーケストラに成長し、ときには世界のオーケストラに負けない優雅なサウンドを奏でることもある。カンブルランの回は、特にそうした期待が大きいだけに、この日のパフォーマンスからは若干、値引きが必要だ。それに、ブルックナーの交響曲第3番はやはり、いささか冗長である。しかし、4番以降、はっきりと個性を確立したブルックナーよりも、私は0番~3番の過渡期にいるブルックナーのほうが好きなのだ。ある意味では、咲き誇った大輪の花よりも、これからどんな花を咲かせるかもわからない、芽吹きの植物をみる感動のほうが大きいからである。

【プログラム】 2016年6月24日

1、ベルリオーズ 序曲『宗教審問官』
2、デュティユー チェロ協奏曲「遥かなる遠い国へ」
 (vc:ジャン・ギアン・ケラス)
3、ブルックナー 交響曲第3番「ワーグナー」

 コンサートマスター:長原 幸太

 於:サントリーホール

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