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2018年8月22日 (水)

My favorite artists vol.1 草 冬香 pf.

アンサンブル・ピアニストは、私が肩入れするアーティストのなかで、特に収穫の多いカテゴリーである。一口にピアニストといっても様々な持ち味の人がいるが、基本的には「相手役」の持ち味を引き出すことに長けているのだが、ときにはオペラの歌手のように柔軟で、こころに染み入る音楽をもつアーティストが存在する。そんなピアニストを見つけると、私は大喜びで自分のなかにあるリストのなかに名前を書き込んでいくのだ。

もっとも尊敬するピアニストは、メナヘム・プレスラーという人物だ。高名な「ボザール・トリオ」の創設以来、最後まで残った唯一のメンバーで、現在はかなりの高齢で、体調も衰えぎみではあるが、まだ世界を回っている気力には平伏するしかない。彼がいうには、例えばボザール・トリオのような弦とのアンサンブルで、もっとも重要なことはピアノがヴァイオリンやチェロの響きと同じになることだという。私はそうした言葉に大きなヒントを得た。

私は、このカテゴリーで多くの「贔屓」なアーティストを紹介していくことになるだろう。鍵盤楽器に限っていえば、アンサンブル・ピアニストがその中心に置かれる。弦楽器などの伴奏者となることが多い人もいれば、オペラのコレペティトゥールなどとして高名な存在も含まれる。有能なアンサンブル・ピアニストは大抵、ソロにおいても高い力量をもっているが、その才能を誰かと共有することで、さらに膨らんでいく可能性のなかへと音楽家人生を投じたのだ。近年、プレスラーがようやくソロ活動を始めたのだが、彼がトリオのなかで、そのキャリアの大半を過ごしたようにである。

最初に紹介する草冬香は、ヴィオラの今井信子に深い信頼を寄せられているピアニストだ。彼女はヴィオラスペースや、東京国際ヴィオラコンクール、そして、小樽における今井のマスタークラスにおいて、伴奏者として欠かせない存在となっている。特に、小樽のマスタークラスが公開する動画のおかげで、YouTubeでも多くの音源に接することができるだろう。彼女は東京芸大を出たあと、フライブルクでギレアド・ミショリについて研鑽を積んだ。このミショリ自身、自ら作曲も手掛けるほか、古典派から近現代作品に至るまで、幅広いレパートリーを高いレヴェルで弾きこなす、私の大好きなピアニストのひとりである。草もそのDNAを受け継ぎ、現代音楽や、プロコフィエフやヒンデミットといった近代の尖った個性を表現するのに適した音楽性をもつが、一方では、独墺系の古典派音楽にも手堅い実力をもつ。

(いまの動画の演奏は、もちろん、ベートーベンのソナタで、ソロ演奏ではあるが、楽器とのデュオという印象が強いパフォーマンスである。複製再現モデルかと思われるが、フォルテピアノで演奏されていることに注目したい。)

今井が取り組むような広範で、様々なプログラムに対応するためにも、草は元来、必ずしもレパートリーではなかったであろう演目までカヴァーして、その活動に貢献していることになるだろう。実際、動画などをみても、このピアニストがどれだけ負担の多い役割を果たしているか、言うまでもない。例えば、コンペティションやマスタ-クラスでは、合理的で正統的な解釈からは遠い参加者も少なくないはずだ。そんなときでも、草はいつも明るい表情を絶やさずに、その作品がもっているクオリティが正しく表現できるように努めているし、不幸にもうまくいかなかった場面でも、相手を支え、自然と鼓舞するようなパフォーマンスもできる。次の動画では、ヴィオラにとって高音で難しい場面で演奏者が躓いたときに、草が猛烈にプッシュして、徐々に演奏者を落ち着いてくるまで、優しく肩をもつようにして弾くパフォーマンスがみられる。

多くの伴奏者がいるなかで、私が草の演奏に惹かれるのはなぜだろうか。その理由を書くことにあまり意味はないだろうが、初回ということもあり、自分がもっているひとつの基準を示すために敢えて書くとすれば、「出会う」度に同じであるアーティストはいくら力量に優れてはいても一回的な価値しかなく、いつも何かがちがっているアーティストでなければ、追っていく意味がないということがある。私が肩入れするアーティストは多かれ少なかれ、最初に聴いた時点で、芸術家として申し分のない「初期値」を有しているはずだが、その人の演奏会に足を運びつづけることで、誰にでも気づくことができるような伸びのデルタ値が大きいのである。草の場合は、毎年のようにこなす膨大な仕事量を直接、そのデルタ値に結び付けているような印象を受けるのだ。

彼女よりも、優れたピアニストはいる。しかし、同等に驚きを与えてくれるピアニストとったら、少ない。私がこの欄で紹介するのは、そうした良さを備えた音楽家だけである。予想のうちに収まるだけの、お気に入りの演奏など求めない。いつも、自分の期待や予測をすこしだけ裏切ってくれるものがある・・・そのようなアーティストだけが、人のこころのなかに住むことができるのではなかろうか。


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