【不幸の国・ギリシア】
テオ・アンゲロプロスの映画に描かれているように、欧州古典文化の起点であるギリシアの歴史は過酷である。この地域は中世、長くビザンツ帝国(東ローマ帝国)の勢力圏として栄えたが、その帝国も実質的にはかなり早い時期に斜陽を迎え、十字軍やイスラム教徒に踏み荒らされるよりはるかに早く、その命脈は尽きていた。
十字軍戦争のあと、バルカン半島はムスリムの支配下となるが、「ギリシア」の名前が突如として輝きを放つのは、啓蒙主義の広がりに触発されてナショナリズム熱が高まった18世紀末のことで、詩人・バイロンや、ベートーベンはつよくギリシア人の独立にエールを送った。また、彼らを助けることを名目に、ロシアが介入して血みどろの露土戦争の引き金ともなり、この惨禍にはチャイコフスキーが激しく感化された。
1830年、バイエルンから迎えた中立的な王が君臨することでようやく独立が成立したが、すべてが丸く収まったわけではない。アンゲロプロスの映画は、むしろ、この先を問題にしているわけだ。落ち目のトルコに対する戦いも敗北と勝利を繰り返し、独立後も王制と共和制が激しく交代して、混乱は止まなかった。WWⅡでは、ナチスやファシスト勢力の蹂躙も受ける。戦後もラディカルな共産主義運動が起こるなか、内戦に火がつき、一応の政治的安定を迎えたあとも軍事クーデターなど火種は尽きなかったようである。説明らしいことを書いているが、私としてもギリシアの近代史はとても複雑で、理解しづらい。ギリシアの災厄は今日にもつづき、21世紀に入ってさえ、この国は国家財政の経済破綻という重大な悲劇を経験することになり、あわやリーマン・ショックにつづく世界的恐慌の震源地にもなりかけた。
なんという不幸な国なのだろう?
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